誰でも使える交渉術! 『相手の真意を理解する』
交渉では、相手が何を求めているかだけでなく、「なぜそれを求めているのか」に焦点を当てることが大切です。相手の要望の背景にある理由や動機を理解すると、より柔軟で建設的な解決策が見つかり、Win-Winな結果に繋がります。
例えば、価格交渉の場面で単に「安くしてほしい」と言われた場合でも、その心理は「予算厳守に追い込まれている」のか、むしろ「長期的なパートナーシップを維持したい」なのかで対応が異なります。
相手の本当の目的を理解するためには、以下のような戦略やテクニックが効果的です。
1. オープンエンド質問で情報を引き出す
オープンエンドな質問("なぜ" "どのように" "どんな目的で" など)を使うことで、相手に考えや意図をより詳しく話してもらえます。例:「この条件で進めることで、どのような成果を期待されていますか?」
2. 積極的傾聴
単に聞くだけでなく、相手が話している間に相槌や要約を挟み、理解していることを示しましょう。相手が安心して本音を話せる環境を作ることが大切です。
3. 視点を変えた質問
「もし現在の案が実現しない場合、他にどのような選択肢をお考えですか?」といった質問で、相手が交渉を通して得たい本当の目的や優先順位を確認できます。
4. 仮説検証のアプローチ
相手が示唆する目的や背景について、自分の仮説を元に確認することも有効です。「この点に関して特に関心があると伺いましたが、それは貴社の成長目標に関係していると考えてよろしいでしょうか?」
5. 過去のケースに触れる
「以前の同様な取引では、何を重視されましたか?」と質問し、過去のケースを引き合いに出すことで、相手の価値観や行動パターンを知る手がかりにします。
6. 信頼関係の構築
信頼関係が築かれていると、相手も安心して本音を明かしやすくなります。最初から交渉に入るのではなく、雑談や共通の話題でリラックスした雰囲気を作ることも効果的です。
7. 沈黙の活用
相手が話を終えた後、あえて短い沈黙を作ると、相手が自然に話を続けてさらに深い情報を共有することがあります。この「沈黙の力」を活用して、相手が自ら深い意図を語り出すのを待つこともできます。
こうしたテクニックを組み合わせ、相手の目的や本音に近づくことで、交渉の質が向上し、より持続的な関係を築ける可能性が高まります。
古くは『孫子』でも、相手の真意を把握することの大切さが言われています。
「知彼知己」
「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という有名な言葉は、相手を知り尽くすことが勝利につながると説いています。相手の真の目的や背景を理解することが成功への鍵です。
2. 「虚実」
孫子は、相手の「虚」と「実」を見極める重要性を説いています。相手の要求や発言がどこまで本心か(実)、あるいは表面的なものか(虚)を見分ける力が重要です。これには、質問や沈黙の活用が役立ちます。
ちょっとお堅くなりましたが、これらは「ビジネス」や「孫子の戦略」だけでなく、普段の生活でも十分活用できます。
例えば、次の会話を見てみましょう。
とある高校で、美術部顧問の橋本先生が、生徒であり部員の本多くんから相談を受けています。
本多くん:「……先生、ちょっと相談があるんです」
橋本先生:「何かな? 本多くん、そういえば最近、美術部の活動にあまり顔を出していないようだけど」
本多くん:「……あの、やっぱり、美術部、辞めたいです。」
橋本先生:「そう…。辞めたいって思ったのには、何か理由があるのかな?」
本多くん:「…なんか、やってても意味がない気がして… 僕なんて、みんなより絵も下手だし、頑張っても結果が出ないから、やっても無駄かなって」
橋本先生(本多くんの言葉を注意深く聞きながら):「本多くんは結果が出ないから辞めたいと思ってるんだね。でも、たとえばどんなふうに結果が出ると、自分が納得できると感じる?」
本多くん:「先輩みたいにコンクールで入賞するとか、みんなの前でちゃんと評価されるとか…でも、僕には才能ないし、可能性ゼロだし、やってる意味がわからなくなってきて」
橋本先生:「なるほどね。本多くんにとって、評価されることや、結果を出すことが大きな目標なんだね。 入部の頃は一番やる気満々に見えてたけど、そんなふうに感じるようになったのって、いつから?」
本多くん:「最近、他の部活で友達が賞をもらって、僕も何か成果を出さないとって思ったんです。でも、何やっても成果出ないし、やっぱり辞めた方がいいんじゃないかなって…」
橋本先生(少し考えてから):「本多くんが成果を出して、周りに認められたいと思っているのはとても自然なことだと思う。でも、美術って、すぐに結果が出るものではないことも多いよね。今すぐ結果が見えなくても、それが本多くんにとって意味がないわけじゃないんじゃないかな。だって、本多くんは絵を描くのは好きなんでしょ?」
本多くん:「(うなづいて)でも、先生、それじゃ自信も持てないし、何かしている実感も湧かないんです…」
橋本先生:「そっか…。それじゃ、一緒に少しずつ自分の成長を感じられるような、短期的な目標を立ててみるのはどうかな?たとえば、次の作品で前よりも少し新しい技法を使ってみるとか。そうして一歩ずつ進めば、本多くんの努力も必ず形になってくると思うよ。」
本多くん:「小さな目標か…そうすれば、自分にも何か成長できるところが見つかるのかな」
橋本先生:「そう、そうやって一つずつ積み重ねていけば、いつか本多くんが感じている『成果』にも近づくと思うよ。そして、部活も、ただ結果を出すためだけじゃなく、楽しく挑戦する場だと思ってほしいな。だって絵が大好きなんでしょ? これからも、本多くんのペースで続けてみない?」
本多くん:「…もう少しそんなやり方で続けてみます、先生。ありがとうございます」
橋本先生は、本多くんの「辞めたい」という言葉にすぐ反応するのではなく、「なぜ辞めたいのか」その背景にある本音や動機に耳を傾けています。間違っても「辞められたら困る」とか「他の生徒が残念がる」とか言っていないですよね。あくまで質問を通して、彼自身に向き合って、本多くんが「他者と自分を比較し、成果が見えないことに悩んでいる」という真の理由を引き出しました。
交渉は必ず相手がいることなので、自分の目的と同等か、それ以上に相手の真の思いを理解することが成功への条件です。この意識を持つだけでも、交渉の行方に変化が見られるはずですよ!
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