
第34話:海外企業との会議後の社内調整
(前岡工業の技術者である武井は、仕事を通じて交渉を学んでいきます)
前回まで:
前岡工業は、オランダのビーヘル社と電動アクチュエーターの協業を検討し、同社のプレゼンを受けた。エリック技術マネージャーは、エネルギー効率や耐久性を強調し、欧州メーカーでの実績をアピール。
技術的な質疑応答では、詳細なデータを即座に提示し、日本の慎重な交渉スタイルとは異なり、早期の意思決定を求める姿勢が際立った。会議後、武井は異なる交渉アプローチを踏まえ、社内での調整を進める必要を感じた。
第34話:交渉の準備と社内調整
ビーヘル社との会議が終わった後、武井は千田のデスクを訪れた。ちょうど千田は別件のメールを処理している最中だったが、顔を上げて「どうだった?」と尋ねた。
「予想以上にデータを出してくる会社でした。実績を全面に押し出して、自社の技術力をしっかり証明しようという姿勢が強かったですね。」
「なるほどな。日本企業同士の商談とは違って、交渉の進め方がストレートだったわけか。」
武井は頷いた。「はい。ただ、すぐにでも結論を求めてくる感じでした。『検討します』と言うと、具体的にどれくらいの期間で決めるのかを即座に聞かれました。」
千田は苦笑しながら「ヨーロッパの企業はそういう傾向があるな。『検討』って言葉自体があまり通じないこともある。日本のように社内で合意形成をしてから決める文化とは違って、向こうは決断を早く求めてくる」と言った。
「それで、うちとしてはどう動くべきか?」
「まず、技術面の精査を進めます。特に、耐熱性能や耐振動性能のデータを当社の基準と比較して、問題がないか検証する必要があります。」
「実機テストを行う方向で進める?」
「可能性は高いですね。ただ、テストにはコストも時間もかかるので、まずは社内の評価会議を開いて、開発部や品質保証部の意見をまとめるべきです。」
千田はメモを取りながら、「来週の火曜か水曜に評価会議を設定するか」と言った。
「それなら、ビーヘル側にも進捗を報告できますね。」
「よし、そうしよう。まずはエリックたちが提示したデータを技術部に渡して、評価基準に照らし合わせてもらう。斉藤にも動いてもらって、翻訳や整理を頼もう。」
社内評価会議
数日後、技術部、品質保証部、開発部のメンバーが集まり、ビーヘルの提案について評価するための会議が開かれた。
「ビーヘル社のアクチュエーターですが、耐熱性能は120℃まで対応可能とのことです。当社の要求仕様はどのようになっていますか?」
技術部の主任が資料をめくりながら答える。
「現在の基準では、最低でも130℃は欲しいところですね。特に高温環境下での長時間運用を考慮すると、もう少し余裕が欲しいです。」
「耐振動性については?」
品質保証部の担当者が発言する。「社内基準に照らし合わせると、試験データの数値上は合格ラインには達していますが、実際の運用環境でどうなるかは未知数です。試験方法が異なる可能性もあるので、実機テストを行う必要があるかもしれません。」
「なるほど…」武井は考え込んだ。「そうなると、追加の試験を行うか、それとも基準の見直しをするか、どちらかの判断が必要ですね。」
開発部のリーダーが口を開いた。「実機テストを行う場合、コストと時間が問題になります。少なくとも1ヶ月はかかるでしょう。もし、ビーヘル側が追加試験に協力できるなら、共同で進める選択肢もあります。」
千田が会議の流れをまとめる。「では、今回の結論としては、
技術データを詳細に精査し、追加情報を要求する。
耐熱性能について、もう少し余裕を持たせることができるか確認。
実機テストを行う場合、ビーヘル側の協力が可能か相談。
この3点をベースに、ビーヘルとの次回の会議で話を進めよう。」
武井は頷いた。「では、エリックに連絡して、次回の打ち合わせを設定します。」
次回の交渉に向けて
評価会議が終わった後、武井はすぐにエリックにメールを送った。
Subject: Follow-up Meeting on Actuator Evaluation
Dear Erik,
Thank you for your presentation and valuable discussion the other day. We have conducted an internal review of the data you provided, and we would like to schedule a follow-up meeting to discuss a few additional points:
Further clarification on the heat resistance capabilities of the actuator.
The possibility of conducting additional tests for vibration durability.
Potential collaboration in performing real-world testing.
Please let us know your availability for next week so that we can arrange a suitable time.
Looking forward to your response.
Best regards,
Ao Takei
Maoka Industries
メールを送信すると、すぐにエリックから返信があった。
Dear Ao,
Thank you for your follow-up. I appreciate the thorough evaluation.
I am available next Tuesday or Wednesday for our discussion. Let’s arrange a meeting to go over the details.
Looking forward to speaking soon.
Best regards,
Erik van der Ven
「火曜か水曜か…」
武井は千田に日程を確認し、会議を正式に設定した。
ビーヘルとの交渉は次のステップへと進んでいく。
「検討」は、日本企業特有の社内合意形成プロセスを含む意味合いを持っています。直訳すると "consideration" や "examination" になりますが、ビジネス文化の違いから、そのままでは通じにくいことがあります。
直訳
consideration
examination
review
より伝わりやすい表現
欧米のビジネス文化では、社内での慎重な合意形成のプロセスを「検討」とは言わず、より具体的な言葉で表現することが一般的です。そのため、以下のような表現にするとよりわかりやすいでしょう。
internal approval process(社内の承認プロセス)
→ "It needs to go through our internal approval process before we can proceed."
単に、"consideration"、"review" などより、具体的です。deliberation(熟考・協議)
→ "We need some time for deliberation within our team."
"discussion" より、「熟考」の意味合いがあり、単に「社内で話す」のではないニュアンスです。