「暗い」よりも「曇っている」―タイプロで佐藤勝利の言葉選びから目が離せない
とにかくおもしろい番組がある。その中でつむがれるトップアイドルたちの言葉選びや言い回しに惚れ惚れした。「言葉の強さ」を思い知れ。
1.timeleszの「言葉」がすごい
とにかく今「タイプロ」がおもしろい。
Netflixで配信されている『timelesz project -AUDITION-』のことだ。Sexy Zoneから改名した男性アイドルグループtimeleszが新メンバーオーディションを実施し、その内容を配信するというプロジェクト番組である。
見たことがない人も「菊池風磨構文」という言葉は聞いたことがあるかもしれない。この言葉がネットで作られたきっかけはタイプロである。
人によって色々な見方できるのが番組のおもしろさや人気につながっている。オーディション参加者に注目するのもよし、timeleszの3人に注目するもよし。それぞれの視点によって見方に個性が出てくる。
僕は参加者よりも、菊池風磨・佐藤勝利・松島聡の3人の挙動をずっと見ていた。3人の目線からはコーチングやマネジメントの学びがある。ついサッカーの監督と重ねあわせて考えてしまう。
参加者とtimeleszの3人には当然のように大きな差がある。ダンスのスキルや被写体としての自覚、立ち振る舞いなど。その中でも歴然とした差があったのが、言葉のチョイスや言い回しだったと僕は思う。
3人は「自らが全方向から注目されていることに配慮した」言い回しに恐ろしいほど気をつかっていると感じた。それは配慮であって遠慮ではない。配慮しながらも、いかにその言葉に自分を残せるか、印象を残せるかまで考えたとっさの選択が際立っている。
特に僕は佐藤勝利さんが大好きになった。ちょっと言いよどむような、ゆっくりめな雰囲気から発せされる言葉はなぜか脳裏に一番残り続ける。
菊地さん、松島さんの言い回しも特徴と輝きを感じるが、僕に佐藤さんのささいな単語の使い方や何気ない言葉には人一倍きらめきを感じる。
2.なぜ彼はあえて「暗い」と言わなかったのか
佐藤さんの言葉使いでぜひ見てほしいのが、#4でのシーンだ。
3次審査で参加者は4チームに分かれ、3日間で課題曲を仕上げる。#4ではteam BlueがSMAPの「SHAKE」を悪戦苦闘しながらも形にしていく様子が配信された。
2日目途中の中間発表で彼らの「SHAKE」を見た佐藤さんの言葉がこちらだ。
この言葉には前振りがある。元々team Blueは暗さを懸念されていた。そして佐藤さんもこの言葉の前に、こんな前置きをした。
これらを踏まえて彼の言葉のチョイスを考えてみる。暗さを懸念されているチームが、案の定明るくなかった。となれば「明るい」の対義語である「暗い」を言葉して選択するのが普通だろう。
ところが彼は対義語の「暗い」ではなく「曇っている」をとっさにチョイスした。これに僕はしびれた。
実際にチームのパフォーマンスを見た上でこの言葉を聞くと「確かに暗いってほど真っ黒じゃない。だから曇ってるか……」と納得する。解像度がより高いのだ。そして何より詩的だ。
他のシーンでも佐藤さんの言葉や、それを紡ぐ間はひきつける何かを感じる。別に特異な表現をしているわけでもなく、分かりやすい説明でもない。それなのに耳や脳をひきつける。これからの回も注目だ。
余談だが、佐藤さんは「アイドルには顔や華なんかよりも大切なものがいくらでもある」と本気で思っていそうで僕は好きだ。思わず八度見してしまうような整った顔立ちだが、「顔がいい」からこそ人知れずなめた辛酸も多かったようにも思えてしまう。
なお、オーディションを訪れたSUPER EIGHTの大倉忠義さんの存在感はとんでもなかった。サッカークラブのGMとしてあの眼光で選手を見定めてほしさまである。頼む、クラブを救ってくれ。