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司馬と源氏とペップ―2024年9月読んだ本紹介
2024年9月に読んだ本を感想と一緒に紹介する。本当は一冊ずつ書評を書きたいのだが到底追いつかないからだ。本選びの参考になれば幸いだ。
瀬戸内寂聴・訳『源氏物語 巻一』
桐壺〜若紫まで。「亡き母君さまとほんとにそっくり」という言葉が永遠の呪いの言葉になっていく物語とも読める。惟光がチャラいけど有能な家臣でクスクスしちゃう。『桐壺』は何度読んでも惚れ惚れするくらい完成されたプロローグ。美しい。
瀬戸内寂聴・訳『源氏物語 巻ニ』
怒涛の展開が待ち受ける巻だ。光源氏は「高ければ高い壁の方が登った時気持ちよくなる」タイプなんだろうなあ。恋愛小説だけども、交わりのあった人が誰なのかを探っていく過程はちょっとミステリーや冒険ものの雰囲気がある。
ブレイディみかこ『他者の靴を履く』
自分を知ったり、自立したりするには実は利他的になり、他者の靴を履いて考えることが重要である。利他的になるから利己的になるという逆説が面白い。寛容さと穏当さは自分に突きつけられた課題である。名言の宝庫だった。
司馬遼太郎『坂の上の雲 五』
旅順陥落、ロジェストウェンスキー艦隊の迷走、永沼挺進隊の活躍など見せ場だらけ。司馬さんが決して「明治日本の明るさ」ばかり書いたわけでないことがわかる。むしろ所々にじむように書かれてる「暗さ」こそ作品の読みどころではなかろうか。
瀬戸内寂聴・訳『源氏物語 巻三』
一つ一つの章が様々な種類のエピソードになっていてどれも読ませる。光源氏と比べると面白味なく書かれてるけど朱雀帝が不憫かつ、いじらしい。六条の御息所と源氏の最後の会話は圧巻。「釘を刺す」とはこのシーンのためにある言葉だ。
司馬遼太郎『坂の上の雲 六』
司馬さんは陸戦の描写が素晴らしい。軍団が動く様や指揮官・参謀の行動と思考が連動しており臨場感にあふれている。黒溝台会戦の混乱と激闘は彼の強みがまさに活きている。日本海軍の軍楽隊や明石元二郎の話も自分好みだった。
司馬遼太郎『坂の上の雲 七』
奉天会戦は司馬さんも首をひねりながら書いてたのかなあと想像しちゃう。バルチック艦隊がどこに来るかに右往左往する日本海軍が目の前に浮かび上がってくるようだ。宮古島のエピソードはとても好きだし、司馬さんらしい余談の挟み方だなと思った。
司馬遼太郎『坂の上の雲 八』
完結。表現が最もたぎっていた巻だった。小説なのか小説じゃないのか分からない本に見えがちだが、日本海海戦の描写を読む限りこれはやっぱり小説なのだと思う。世界遺産に指定されてる現代では沖ノ島の話はよりタイムリーである。
司馬遼太郎『ひとびとの跫音』
『坂の上の雲』の後日談のような物語。司馬が人物描写で使う「たとえ」の言い回しにうなる。明らかに共産党への興味がない司馬のタカジへの洞察や好意のギャップが面白い。自分はタカジや忠三郎のような心もちでは生きられないだろうな。
瀬戸内寂聴・訳『源氏物語 巻四』
源氏の栄華を極めた姿とともに、ねっとりと女性に言い寄る姿が所々で挿入される。彼はもう恋愛に生きる者ではなく、庇護者の役割を担うべきなのではと示唆させる。でもそうはなりきれないのが源氏らしさでもある。「玉鬘」はとても読ませる章。
おおうら『野球一・二年生』
野球を通じて初めての「好き」に出会った著者によるイラストを中心としたファイターズ観戦記。1ページに詰め込まれたイラストの情報量が半端じゃなく圧倒される。「好き」がつのっていく様はどんなことでも見ていて気持ちがいい。
※こちらは文学フリマで買った本です。
北十『砂時計 第6号』
思考の過程や葛藤が染みついた他人の日記はどうしてこんなに面白いのか。故永さんのエッセイはまさにそういう文章。柴田さんの文章は詩集の評論というより言葉を扱う表現者論として非常に興味深いものだった。絶妙に重い気持ちにさせる小説たちもよい。
※こちらは文学フリマで買った本です。
マルティ・ペラルナウ『神よ、ペップを救いたまえ。』
世界最高峰の監督ながら、まだまだ「のびしろしかない」ペップの物語。彼の偉大さよりも人間としての成長過程に目を見張る。学び続ける人間の強みだ。ペップやスタッフのリージョの言葉はきっと人生の役に立つ。
※カンゼン様よりご恵贈いただきました。
くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』
もっと料理したくなる。料理を通して心のもやもやを少しでもほぐして言葉にできないだろうかと考えてしまう。大学時代と就職後で日記の内容が様変わりしているのが生々しい。対談の「過去の日記を書き直す」話が興味深い。
マシュー・サイド『勝者の科学』
スポーツはスポーツだけのものじゃない。あらゆるものと繋がっている。特に後半の「美」と「政治」の章は何度も読み返したい面白さ。サッカーの強みが歴史による文化資本の積み重ねだとすれば、日本サッカーは違う強みを見つけるしかないか。
※ディスカヴァー・トゥエンティワン様よりご恵贈いただきました。
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