⑥思い出せないこと
オリンピック最終日に台風に見舞われ雨が降っている。閉会式だというのに出席者は気の毒だと思うが、いろいろあって強行したオリンピックには少しお似合いなような気もする。競技に影響がないことを祈る。
雨の日は過去のことを思い出すのにぴったりだが、私には思い出せないことがある。発病前後の自分の言動だ。
発病を自覚する数週間前は、勤務中に涙が止まらないようになり、自席での集中ができなかった。そのため、できる限り席を離れて仕事をしていた。
そんな中、後輩のミスがあった。後輩が遠隔地の新人と連携をして作業をしする定型作業で、新人とおぼつかない後輩の監督を遠隔地の同僚がすることになっていた。私はそこにいる必要はなかったが、事故続きの後輩を一人にするが怖かったので念のため自席に戻っていたところ、最後の最後でミスを起こした。状況を確認すると、通常の手順を守らなかったため起こった事故だったが、なぜそうなったかを後輩に聞いたところ、「(遠隔地の新人)〇〇さんがそうしてと言ったから」という回答だった。
ピザ屋に例えるなら、後輩はピザを作っていた。ピザはトッピング途中で焼けていなかった。その時、宅配担当ドライバーが「早く出して」と急がしたため、後輩はまだ焼いていないピザを箱に入れてドライバーに渡した。近くで監督していた正社員は気づかなかった。そんな感じだ。
自分はさしづめ、お客様のところに謝りにいった先輩社員というところか。
絶句した。それ以上彼と話すことができなくなった。あれだけ繰り返してきた「なぜ?」も言えなくなった。
頭では、彼の特性を理解していたが、それ以上受け入れることができなくなった。
その翌日、彼を別室に呼び出し、彼の経歴を改めて聞いた。そして、この仕事に向いていないこと、事故が起き続けていること、この4年間定型業務が定着していないこと、そのほかも成長できていないこと、自分が好きで向いている仕事に就いたほうが良い、副業でやっているスポーツインストラクターとして働いたほうがいい、彼のことを理解できない、もう一緒に働けないと伝えた。吐き気を抑え、涙を拭きながら、自分なりの同僚としての別れを告げた。その時の内容を彼は録音していた。
この日のことが私はよく思い出せない。自分で自分にロックをかけているのだと思う。