そして、神はカインに語った
ピラニア映画「キラーフィッシュ」やベトナム戦争+人食映画「地獄の謝肉祭」など、アクの強い作品で知られるアントニオ・マルゲリーティ監督、西独の怪人クラウス・キンスキー主演のマカロニウエスタン。
無実の罪で服役していたゲイリー・ハミルトン(キンスキー)が恩赦により出所、人類初の殺人を犯して楽園を追放されたカインのようになろうともコノウラミハラサデオクベキカと、仇敵アコンバール(ペーター・カルステン)のもとへ……という復讐譚。
クレジット上明言しないものの、粗々のプロットや登場人物から「パソ・ブラボーの流れ者」(以下パソブラ)のリメイクであることは明白。出所したハミルトンが蹄鉄屋の仕事を眺めていたり、クライマックスの舞台が火に包まれる鏡張りの部屋だったりと、細かいところにもパソブラとのリンクがみえます。
パソブラのハミルトン(アンソニー・ステファン)には復讐に燃える男の陰がさほど見えませんでしたが、本作は怪人キンスキーが演じているだけに、のっけから暴発寸前のルサンチマンがぐつぐつと。銃を持たないパソブラハミルトンと違い、凄腕を最初から披露します。日暮れを皮切りに加速する、復讐鬼を通り越して殺人鬼の域に踏み込む狂気はまさに怪人キンスキーの面目躍如。闇に紛れてはぬるっと現れ、アコンバールの手下を1人また1人と片付けていく様は、「13日の金曜日」シリーズのジェイソンさながらです。
復讐系のマカロニは、仇敵の現在を復讐者が目の当たりにして「絶対殺してやるう」と復讐心を滾らせ、仲間を募りつつ入念に計画するなか、見つかってリンチを食らうなどの定番エピソードを織り込みつつ、クライマックスに向けて盛り上げていくのが定石ですが、斜陽期の異色マカロニ映画である本作はその手法をとらず、序盤で日が暮れ嵐が来ると同時にフルスロットルの復讐劇が始まります。(闇と嵐はハミルトン自身のメタファー) はなからいきなりクライマックスみたいなものですが、ホラー映画調の演出や特にアコンバール側の登場人物の葛藤などを交えながら、何とか一本調子にならないような工夫が、見事にとは言いませんが精々凝らされています。
パソブラのアコンバール(エドゥアルド・ファヤルド)は尊大で冷酷なボスでしたが、本作ではそれに野蛮さを加えるとともに、息子(アントニオ・カンタフォラ)への溺愛をクローズアップしています。
クソ野郎だったパソブラの息子(アントニオ・シンタード)は、本作では父の悪行を知らされて苦悩する真人間。名前も異なります。
パソブラではすでに殺されていたハミルトンの妻マリアは、本作ではアコンバールに唆されてハミルトンを裏切った共犯者に設定されています。
その他の登場人物設定にもパソブラとの差異が。まず水売りの親爺(ホセ・カルヴォ)はただの脇役(フランコ・ギュラ)に。パソブラではハミルトンの殴り込みに加勢する重要な役でしたが、本作では事情を知ってるくせにハミルトンに馬と銃を売り、ラストで再登場してびっくりするだけ。
ジョナサン神父(コラード・オルミ)はジョナサン医師(ジュリアーノ・ラファエッリ)に。名前が同じですが、本作ではアコンバールを怨みハミルトンに加勢する人物です。パソブラでは何人かいたハミルトンの仲間も、本作では医師と酒場の女ロージー(マリア・ルイサ・サラ)のみ。
マカロニ衰退期の作品ですが、本作のように定番を破る異色の作品が生まれる時期でもあり、丹念に見ていく価値はありますね。
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