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ノマドランド

 クロエ・ジャオ監督、フランシス・マクドーマンド主演作。映画館で2回目の鑑賞。

 アカデミー賞3冠を受賞した割に「つまらなかった」「途中で寝た」という意見も少なくなかったり。実は私も、現在の私には刺さるものが少ないとか、マクドーマンドを含む登場人物に興味が湧かないとかいった感想はありまして、それは今回見てもあまり変わらなかったです。

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 映画=ファンタジーとしてのエキサイトメントに大きく欠けるのは、ドキュメンタリータッチを狙った作品だからしょうがないんでしょうが、それを超えて訴えてくるものはありませんでした。ただ、何かを強く訴えたくて作られた作品ではないんだろうと思います。本作で描かれているノマド達は、不幸でも貧しくもなく、社会的にこぼれ落ちた人たちでもない。Amazonの倉庫で働くエピソードがありますが、見ようによっては大企業がノマド達を搾取しているようにも見えますけど、資本主義を嫌っているかのようなセリフを吐くような人たちが、巨大資本に寄生しているような矛盾さえ感じました。(もっとも、「資本主義を嫌っているかのようなセリフ」は、マクドーマンドが姉宅で放った、不動産取引に関する皮肉ぐらいでしたが。これは私、主人公の強がりからくる「失言」なんだと思います)

 では、巨大資本に寄生しつつも自由に生きるノマドに憧れるかと問われれば、答えは完璧に「否」です。そもそも私、究極の自由とは存在しないことであって、自由 ≠ 絶対善と考えているので。本作で描かれるノマド達も、社会的にはかなり自由ですけど、それぞれに乗り越えなければならない(と感じている)固執や葛藤を抱え、それぞれに孤独です。家庭を持ち、仕事を持ち、常に悩み事を抱えている私とは、さほど違いがないように思えます。実はもう、世の中の誰もかれもが多少なりともノマドってて、ノマドランドどころかノマドワールド、ノマドプラネットなんだとかね。

 主人公は、亡き夫と、彼とともに暮らしたネバダ州エンパイアの思い出に縛られています。リーマンショックは2008年ですから、主人公のノマド歴は10年弱ぐらいなんでしょうか。それにしては、スペアタイヤを用意してなくて先輩に叱られたりと、結構ビギナーなのかな、と思ったり。何だかやっぱり、他のノマド達と比べると今いち振り切れてない印象を受けます。

 それが、姉宅に車の修理費用を立て替えてもらいに行ったり、孫の誕生を機にノマド生活を捨てた男(デビッド・ストラザーン)の家に泊まりに行ったり、大自然との一体感を味わったり、エンパイアのかつての家を訪れたりするなかで、自分を縛っていたものどもを受け容れ、整理して、消化して、よりノマドとしてレベルアップする……という物語なのだと思います。

 2度目の鑑賞でようやく確認しましたが、再開した若い男に頼まれて主人公が暗唱した詩は、シェイクスピアのソネット第18番でしたね。「So long as men can breathe or eyes can see, / So long lives this, and this gives life to thee」という最後の2行、主人公の決意を示しているようにも思えます。

 絵も音楽も素晴らしいですが、正直言って(最近で言えば)「ミッション・ワイルド」ほどの感銘は受けませんでした。先述の通りストーリーは淡々として起伏に乏しく、登場人物はさほどの魅力もない。それでも「いい映画を見たなあ」という気持ちは少なからずわきましたし、あるいは本作が誰かの人生の転機のきっかけとなってもおかしくはない、とは思いましたね、やはり。

 日本語吹替で見たいので、ソフトが出たら間違いなく買います。マクドーマンドの声は、塩田朋子さんのおばちゃんボイスでぜひ!

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