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バラキ
The Valachi Papers / Cosa Nostra - L'affaire Valachi (1972)
チャールズ・ブロンソン主演のマフィア映画。監督は初期の007シリーズを手掛けたテレンス・ヤング。
ブロンソンが演じるのは、ニューヨーク・マフィアの構成員で、1963年にその内幕を司法取引により暴露した実在の人物ジョセフ・バラキ。
ピーター・マーズがバラキの手記を再構成して出版した「マフィア/恐怖の犯罪シンジケート」を原作に映画化しており、おもにフランス映画界で活躍したイタリア人俳優リノ・ヴァンチュラ演じるヴィト・ジェノベーゼをはじめ、ほとんどの登場人物は実在の人物、描かれるエピソードも実際の事件です。
本作のクランクインは奇しくも「ゴッドファーザー」が米国で封切られた数日後でした。と言っても、早々に二匹目のどじょうを狙った訳ではなく、ジェノベーゼが1969年に、バラキが1971年にそれぞれ亡くなったことで、ようやく制作会社から撮影開始の許可が出されたためです。マーズの原作もマリオ・プーゾの「ゴッドファーザー」より先に出版されているので、企画自体は本作のほうがわずかに先んじていたものと思われます。
すべてにおいて「ゴッドファーザー」に勝てる要素はありませんが、それでもヤング監督のテンポのいい演出、「世界残酷物語」でアカデミー賞にノミネートされたリズ・オルトラーニの音楽は素晴らしいです。惜しむらくは、スタイリッシュに磨かれるでもなく、それを捨てて実録ものの凄味と熱さで勝負するでもなく、悪く言えば中途半端に終わった印象が否めないところでしょうか。
そのあたりは、バラキの人物像に影響されるところが大きいのかもしれません。コロコロ変わる親分達の横暴に心折れ、一家の誰が味方で誰が敵かもわからなくなり、ただ自分と家族を守ることだけを求める、非常に人間臭い男として描かれています。何人もの人をその手に掛けた悪党ではあるのですが、公聴会で見世物にされ、ジェノベーゼに対する復讐も果たせず、ただただ組織の裏切り者となった我が身を恥じて自殺を図る姿はとても哀れです。こういう、タフガイなのに翳りや弱みのある人物をやらせると、ブロンソンはほんと一級品ですよね。
どうしても「ゴッドファーザー」と比べられてしまうのは気の毒ですが、それでも大河フィクションをとらず、あえて実録の姿勢を崩さなかったプロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスは、やはり映画屋として偉大だなと思います。
ちなみに今回は日本語吹替で鑑賞しました。私は映画を見る場合、可能なかぎり日本語吹替で見るようにしています。よく言われる通り、絵と字幕を両方追うのが疲れるからなのが一番の理由ですが、本作のように背景や人間関係が複雑だと、字幕を頭に叩き込むので精一杯になってしまうからです。戦争映画なんかもそうですよね。字幕より吹替のほうが言語情報量が多いという事実もありますし。また、複数の人物が立て続けに、またはいっぺんにしゃべるようなシーンでも、やっぱり字幕表現には限界があります。
それに……T田字幕とかS田字幕には、結構やられてますからねえ。(苦笑)