ロスト・バケーション
「蝋人形の館」「エスター」のジャウム・コレット=セラ監督のサメ映画。サーフィン中にサメに襲われた女性の死闘を描きます。主演は「アデライン 100年目の恋」のブレイク・ライブリー。ライアン・レイノルズの奥さんですね。
ストーリーが単純で台詞も少なく、ずっと同じロケーションであるぶん、カメラと演出の力量が問われるところですが、両方ともに文句なしです。特に海の映像が素晴らしい。ナショジオで見られるような、この世のものとは思えない上空からのショットや、緩急のきいた序盤のサーフィンシーンなどは大いに見どころです。私はサーフィンもやらないし、実はそもそも海が好きではないのですが、この映像は本当に魅力的。
波が凪いでサメが現れそうな雰囲気になると、その極楽描写も一変し、トーンが暗くなります。ドバーン! ギャー! みたいな演出もないではないものの必要最低限、見えない恐怖・見える恐怖・ギリギリで助かる緊張感と、助かった後の弛緩のバランスが非常に心地よい。主人公は最初に足を噛まれて大ケガをしているため、サメの襲撃をギリギリで脱しても、痛みとの戦いがありいつまでも気を抜いていられません。
思うに、登場人物が最小限であるぶん、演出や撮影、編集に思う存分労力を割くことができたんでしょうね。ライブリーも出番のほとんどは自分1人ですから、さすがに集中したいい演技をしています。その甲斐あって、「ジョーズ」のようなパニック映画ではないものの、焦点の定まった緊張感ある作品になっています。そんな感じで本筋がしっかりしているぶん、主人公の死んだ母・父と妹との関係や、象徴的なカモメ(その名もスティーブン・シーガル)の存在も印象的なものになりました。B級映画との決定的な違いはそこでしょう。
それとやたら音楽がいいなあと思ったら、やっぱりマルコ・ベルトラミでした。私はもはや、彼がポスト・モリコーネで異存ありません。
製作費1,700万ドルは、最近の映画にしてはかなり安いと思います。才能とアイディアと技量をフル活用して、それらでどうともならない部分にきちんとお金をかけているんだろうな、という印象です。今さらサメかい、なんて思いつつ軽い気持ちで見たのですが、実に気持ちよく裏切られました。気楽に他人に勧められる映画だと思います。
前述のように私は海が嫌いなのですが、その理由の1つは『海の生き物とは分かり合えない』からです。そもそも、人間は素のままでは海中に住めないじゃないですか。そんな環境に平気で住んでる、まして哺乳類ですらない連中が人間のことなんか忖度してくれる訳ないし、こっちも向こうの考えなんか読めない。いきなり噛みついたり、触手で刺したりするんですよ? エイリアンや物体Xと変わんないです。怖い怖い……。