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名誉と栄光のためでなく

Lost Command (1966)

 アンソニー・クイン、アラン・ドロン、ジョージ・シーガル、モーリス・ロネ、ミシェル・モルガン、クラウディア・カルディナーレと錚々たる出演陣による戦争ドラマ映画。第一次インドシナ戦争およびアルジェリア独立戦争のフランス軍を描いており、フランスでは10年間にわたって上映禁止され、仏盤DVDは2002年に完全版がリリースされるまで大幅な編集が施されていたそう。そもそも制作国はアメリカで、台詞も英語です。監督は「トコリの橋 」「脱走特急」のマーク・ロブソン。原作はジャン・ラルテギーの小説で、フランス戦争文学の傑作とされていますが、恥ずかしながら未読。

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 戦闘シーンは、撮影の上手さとリアリティのある近接戦闘(演者のすぐ近くで爆発が……大丈夫だったのかな?)で、この時代にしては迫力があります。ヘリコプターやジープを使った作戦の面白さや、誰が敵か判らない対ゲリラ戦の緊迫感、さらに疑念がこじれて生じる残虐行為など、戦争映画の娯楽要素が一通り網羅され、見事とは言いませんが見飽きがしません。

 主要登場人物は誰もかれも優れた面がありながら、いっぽうで欠落もしてもおり不完全です。縦軸が戦争アクションであれば、横軸は人間ドラマであり、そのバランスがとてもよく、作品にリアリティと奥行きを与えています。

 クイン演じるラスペギーは農民出身の職業軍人で、有能な指揮官である反面、軍人としての地位や名誉に固執します。地位に固執するのは、軍人でなければ密輸をやるぐらいでしか生計が立てられないから。(農家は死んでも嫌なんでしょう) 名誉に固執するのは、インドシナで戦死した上官の未亡人/伯爵夫人と結婚したいから。民間人虐殺の責任を問われ本国に呼び戻されそうになるところ、ラストはゲリラ掃討の手柄を立てて伯爵夫人の目の前で栄誉の叙勲を受けますが、ごり押ししてまでもアルジェに連れてきたエスクラヴィエ(ドロン)とは決別。いろんな感慨が一気に入り混じって受けとめきれないような、複雑な表情をみせるクインの演技が素晴らしい。

 ドロン演じるエスクラヴィエは理想主義者で正義漢ですが、地に足が着いておらず、彼の能力を買っているラスペギーの手を事あるごとに煩わせます。かつては戦友だったのに独立運動に身を投じたマヒディ(シーガル)の妹で、ゲリラでもあるカルディナーレに利用され、それが判明するとマヒディの居場所を吐かせる有能さも見せるけれど、マヒディを殺さず生け捕りにすることをラスペギーに承知させます。ラストは除隊してラスペギーと決別、ピンを拾って「これが俺の勲章だ」と嘯きます。別な見方をすれば、1つの紛争が収束すればまた別の紛争が起こるアルジェリア(ひいては全世界情勢)から無責任に逃げ出したともとれます。何せ演者がドロンですから、観客はエスクラヴィエの肩を持ちがちですが、戦争に心を痛めるばかりで何の責任も負わない、負おうとしない我ら一般ピープルに対する当てつけかもしれません。ドロンの英語はとても流暢ですが、やっぱり違和感はありますね。(笑)

 エスクラヴィエがラスペギーの右腕なら、左腕はロネ演じるボワフラです。有能な職業軍人で、目的達成のために手段を選ばないリアリスト。ナイフ格闘の訓練で、部下の顔に平気で、何なら嬉々として切りつけるようなサディストの面も。あらゆる意味でエスクラヴィエとは対照的(英語が流暢なドロンに対し、仏語訛りが抜けない点も/笑)ですが、ラスペギーに禁じられていたマヒディ殺害を彼がやってのけたのは、ゲリラに部下を惨殺され続けていた経緯からある程度同情できますし、ラスペギーも激昂するエスクラヴィエから彼を庇います。右腕:エスクラヴィエと左腕:ボワフラの対称性は、そのままラスペギー自身の二律背反性につながっているのかもしれません。「太陽がいっぱい」のトム(ドロン)とフィリップ(ロネ)にはゲイ説がありますが、本作のラスペギーはキャラの異なる2人の愛人の板挟みに苦しんでいるようにもとれる……と言ったら、さすがに穿ちすぎか。そう言えば「太陽がいっぱい」は、アメリカ人がイタリアでフランス語を話す映画だなあ。

 ラスペギーのモデルは、フランスの軍人/政治家マルセル・ビジャール。劇中で描かれる通り、第一次インドシナ戦争ではディエンビエンフーでベトミン軍に捕らわれ、その後アルジェリアの第3植民地落下傘連隊を率いて民族解放戦線(FLN)と戦いました。劇中でトカゲに譬えられる戦闘帽は「キャスケット・ビジャール」とも呼ばれ、精鋭空挺部隊のシンボルでした。ちなみに戦闘服のカモフラージュ・パターンも、通称「トカゲ迷彩」と呼ばれています。

 ボワフラのモデルは、アルジェでの残虐行為を21世紀になってから認めたポール・オサレス。マヒディはFLNの幹部ラルビ・ベン・ムヒディがモデルかと思いますが、フランス兵としてインドシナで戦ってはいないと思うので、脚色された登場人物でしょう。

 劇中で多くのフランス兵が使っている短機関銃はMAT 49。使用弾薬は9mmパラベラムでフルオートのみ、ストックは伸縮式で、さらにフォアグリップも兼ねたマガジンハウジングを前方に折り畳めるのが特徴です。ベトナム戦争では、インドシナ戦争時にフランス軍から鹵獲したこの銃を、ベトコンが7.62x25mm弾仕様に改造して使用しました。

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