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変態島

Vinyan (2008)

  ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督、エマニュエル・ベアール主演、仏・白・英・豪合作のサイコスリラー映画。ヴェルツ監督の「変態村」と「地獄愛」の間に制作された作品で、同系の不条理スリラー/ホラーながら、いわゆる「ベルギー闇の三部作」には入ってないみたいです。ベルギーが舞台じゃないからか。2004年のスマトラ島沖地震による津波で息子を亡くし、半年間プーケット島に留まっていたベルマー夫妻(ルーファス・シーウェル、ベアール)が、ミャンマーで撮影された慈善活動の映像に息子の姿を発見、怪しげな人々にお金を吸い取られながら現地にたどり着くと……というストーリー。

 未見の方も想像つくと思いますが、変態映画ではありません。ベアールのヌードは拝めますが、大してエロくもありません。それにしてもベアール、当時40代前半だと思いますが、見事な肢体ですねえ。そんな馬鹿なと言われるかもしれませんが、個人的には「美しき諍い女」の頃と印象があまり変わらないです。若いピチピチ感が熟女の魅力にスイッチしただけで。近年はさすがにちょっとスミマセンって感じですけど。些細な事ですが、英国人のシーウェルに対してベアールの英語が妙にたどたどしく聞こえました。前からこんなんだっけ。

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 プーケットで会った女性に、怪しいブローカー風の男ガオ(ペッチ・オササヌグラ)の島でも会うのですが、この女性を演じていたのがタレント/女優として日本でも活躍したジュリー・ドレフュス。「キル・ビル」と「イングロリアス・バスターズ」の間に本作に出演していたようです。夫を軽~く誘惑する謎めいたこの女性、結局何者なのかよくわかりません。生きて戻れぬ結末に「行ってらっしゃい」する役割なんですかね。

 ガオの島では海岸で天灯が行われており、幽玄なシーンとなっています。タイでは「コムローイ(โคมลอย)」と言うようです。ここで原題の「ヴィニャン」について、成仏できない霊魂のことであるとガオから妻に説明があります。タイ語では「วิญญาณ」。発音を聞いた感じでは「ウィニャーン」に近い。

 なかなか息子が見つからないばかりか、テキトーに見繕った現地の子供を売りつけられそうに(このシーン、さすがにキツかった……悪意あるギャグだ)すらなり、夫婦の神経は急速にすり減っていくのですが、2人の思惑もどんどんすれ違っていきます。「やってられっか、もう帰る」と憤った挙句、息子の幻影に「頼むから死んでてくれ」とまで言いだす夫。その夫の財布を盗んでガオに渡し、息子の捜索継続を頼む妻。最終的に子供ならばみんな息子に思えてくる妻だけが狂気に走っているように見えるのですが、夫も実は似たり寄ったりなのかなと。

 「ポゼッション」のイザベル・アジャーニ、「アンチクライスト」のシャルロット・ゲンズブールに比べると、本作のベアールはごく静かに、しかし急速に狂っていく感じですね。む、3人ともフランス人だ。「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」「屋敷女」のベアトリス・ダルと言い、フランスの女優さんは狂気演技に惹かれるDNAでも持ってるんですかね。ああ、「反撥」のカトリーヌ・ドヌーヴもそうか。

 終盤に向けての、ジャングルに霧が立ち込める映像はすごく「地獄の黙示録」っぽい。泥だらけで顔を白塗りにした子供軍団も「カーツ王国」を思い出します。夫の殺害シーンに至っては「ジ・エンド」の「Come on baby take a chance with us~♪」が頭の中で鳴りっぱなし。妻は、カーツ大佐のように白塗りチルドレンの「母」として君臨するんですかね。ニヤニヤしながらベアールのおっぱいさわってる子供、マジメにやれ。羨ましくなるだろ。

 思うにこの白塗りチルドレンは「ヴィニャン」なんでしょうね。だから妻にはどの子も死んだ息子に見えるんじゃないかと。妻は夫に「あの子を解放して」と執拗に迫るのですが、勝手に死んだことにして記憶の箱に閉じ込めるな、と言いたいんでしょうね。

 陰鬱で不気味で不条理、映画的娯楽とは遠く距離をおいた作品なので、好き嫌いがはっきり分かれると思います。と言うか、ネット上でも本作を褒める記事になかなか当たりません。(笑) かく言う私もそんなに入れ込みたい訳ではないのですが、なぜか気にかかる映画ではあります。「変態村」よりは、胸糞感はソフトなんじゃないかな。

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