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テッド・バンディ

Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile (2019)

 エリザベス・ケンドールの回顧録「The Phantom Prince: My Life with Ted Bundy」を原作とする犯罪映画。監督のジョー・バーリンジャーは同年のドキュメンタリー「​殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合」も手掛けたほか、2004年のロキュメンタリー「メタリカ:真実の瞬間」の制作/監督(ともに共同)も行った関係からか、バンディを最初に逮捕するユタ州の警察官を、メタリカのシンガー兼ギタリスト:ジェイムズ・ヘットフィールドが演じました。劇中でもメタリカの楽曲「Four Horsemen」が使われています。

 おそらくアメリカでもっとも有名な連続殺人犯を演じるのは、当代きってのイケメン俳優ザック・エフロン。「グレイテスト・ショーマン」の翌年にこれですから、何とも挑戦的ですよね。原作者でバンディのガールフレンドだったエリザベス/リズに「あと1センチの恋」のリリー・コリンズ。ミュージシャンのフィル・コリンズの娘ですね。バンディを支持し、彼の子を身ごもるキャロル・アン・ブーンに「メイズ・ランナー」シリーズのカヤ・スコデラリオ。フロリダの裁判長にジョン・マルコヴィッチ、ユタの弁護士に「ボーダーライン」シリーズのジェフリー・ドノヴァン、フロリダの弁護士に「ハート・ロッカー」のブライアン・ジェラティ、リズの同僚に子役で活躍したハーレイ・ジョエル・オスメント。豪華すぎないですかこれ。

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 原作が回顧録ですから、基本的にリズの視点を中心に描かれています。ただ、当時彼女が知り得たことだけではストーリーが構築できないので、バンディの逮捕や収監~脱獄・脱走、裁判の詳細は記録に頼っているようです。実際のバンディが証言や取材等に対して一貫した主張をしていないので、彼の実像をこれまで以上に深掘りするような作品にはなっていません。そこにあえて制作者の想像を組み込むことなく、謎を謎のままとし、犯行の猟奇性もビジュアルとしては極力描かず、人間ドラマとして再構築した点は納得。

 そうなると演者の力量が俄然モノを言う訳ですが、この点についてはさすがのひと言ですね。演出/演技の本気がひしひしと伝わってきて、隙がありません。エフロンは「もしかして、こいつは本当にやってないんじゃないか?」と、事件についてある程度知っている現代の観客にも思わせることにかなりの程度成功していますし、その裏にある深い闇も垣間見せてくれます。コリンズの薄幸感と、後半で必死にそれを支えようとするオスメントの誠実さ。スコデラリオの正常と異常の境界をフラフラしてる危なげな感じ。そしてマルコヴィッチの「あんた本当は真相知ってんじゃないの?」と言いたくなるような揺るぎない貫録。

 脚本が批判されているようですが……難しいところですねえ。死刑直前のバンディとリズのやり取りにクライマックスを持って来たかったでしょうから、こうならざるを得ないかなあ、と思います。このクライマックス、かなり破壊力が高い。そこまでの積み重ねが一瞬で突き崩されて、すべてが明らかになるのかと思いきや、さらに深い闇のなかに取り残される気分を味わえます。エンドロールには当時の映像が挿入されていますが、これまたイヤーな余韻を残しますね。

 ヘヴィメタル、特にスラッシュメタルやデスメタルといったより過激なサブジャンルでは、連続殺人は主要なモチーフなんですが、ジェフリー・ダーマ―やジョン・ウェイン・ゲイシー、リチャード・ラミレスなんかに比べると、テッド・バンディは実はあまり人気がありません。彼が表面上は知的なハンサムで、わかりやすい鬱屈や狂気が表面化していないから、インスピレーション源になりにくいのかな、と思います。実際は、本作もそう主張していると思いますが、そういう奴のほうがよっぽどヤバイと言うことなんでしょうが。

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