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鷲は舞いおりた

The Eagle Has Landed (1976)

 ジャック・ヒギンズのベストセラー小説を原作とする戦争映画です。ドイツ軍の特殊部隊がチャーチル誘拐を試みるお話。もちろんフィクションですが、検討自体は実際になされたようです。いわば特殊部隊ものなので、戦闘シーンは少なめ。監督は「OK牧場の決斗」「荒野の七人」「大脱走」のジョン・スタージェスで、これが最後の作品となりました。主演はマイケル・ケイン。

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 私は原作を読んで大好きになり、映画は後にVHSで見たのですが、差異やオミットはあるにせよ、概ね原作に忠実な映画化だと思います。主要な登場人物はシュタイナー空軍大佐(ケイン)、ラードル陸軍大佐(ロバート・デュヴァル)、IRA工作員リーアム・デヴリン(ドナルド・サザーランド)で、原作のファンはこの3人がちゃんと描かれていなければスクリーンを切り裂いて映画館に火をつける奴がいてもおかしくないほどですが、そこは満足のいくところでしょう。(軍人2人の階級がなぜか上がってますが)

 軍人らしく重厚なデュヴァルと、快活で抜け目のないサザーランドは、うれしさで鼻血が出るほど原作のイメージにぴったりです。特にサザーランドは、英国を憎みながらもテロには与せず、女たらしなばかりかわんこまで誑かす、魅力的で難しい役どころを上手にこなしています。

 いっぽう、ケインはあまりにも英国人のイメージが強いので、シュタイナー役としてはイマイチだなと長年思っていたのですが、「戦争のはらわた」のジェームズ・コバーン(こちらの役名もシュタイナー。軍隊組織を嫌う優秀な軍人というキャラも通じています)ほどではないにせよ、改めて見るとそんなに悪くない。あの人を見透かすような冷ややかな目つきと、負傷した部下を魚雷艇に乗せるときの、穏やかだけど有無を言わせない態度にはしびれました。

 脇を固める俳優陣も上々。アンソニー・クエイル(カナリス提督)、ドナルド・プレザンス(ヒムラー親衛隊長官)が実在の人物を演じますが、英国を代表する名優の名に恥じない素晴らしい演技です。そして2人ともやたら似てる。(笑) 米軍将校役のトリート・ウィリアムズは本作が本格的なデビュー作ですが、いかにも米軍人らしい真っすぐさがいいですね。功を焦る米軍大佐を演じたラリー・ハグマン、地元の娘モリー役のジェニー・アガター、ドイツ工作員のグレイ夫人役のジーン・マーシュもいいです。

 モリーとデヴリンの恋仲は、原作だともっとこってりしているのですが、映画ではずいぶんライトな関係。また、グレイ夫人には英国を恨んでドイツのスパイとなる重い経緯があるのですが、すっぱり端折られてます。このあたりは小説の映画化の定めかなあとも思いますが、男はかっこよく撮るくせに、女性が出てくると演出が鈍りがちなスタージェス監督のせいなのかもしれません。

 後年、ケインは自伝の中で、本作の完成版を見て少々落胆したと語っています。ハリウッドから大物監督が来るので期待したが、彼はケインに「引退し、釣りをして過ごす資金を得るために本作の監督を引き受けた」と語り、編集やポスト・プロダクションにも参加しなかった……ということです。確かにスタージェス、70年代の作品はどれもこれもパッとしません。クリント・イーストウッド主演の「シノーラ」、チャールズ・ブロンソン主演の「さらばバルデス」、ジョン・ウェイン主演の「マックQ」とか。もちろん本作も「荒野の七人」「大脱走」には及ぶべくもないですが、原作の力もあって70年代のスタージェス作品の中では上々の出来。それでも大監督の有終の美を飾る……とまでいかないのが何ですが。

 小説でも漫画でも、原作を先に読んだファンが映画化作品に厳しい目を向けることはままありまして、本作も例外ではなかったようです。原作を高く評価した作家の伴野朗氏などは、映画を「箸にも棒にもかからない駄作」とひどくこき下ろしたそうで。同じく先に原作を読んでいた私は、それほどネガティブな感想を抱くことはなかったし、むしろ同系統の「荒鷲の要塞」などよりも好きな映画なのですが、もっと野心のある監督が熱のこもった絵を撮っていたら、伴野氏もそこまで言わなかったのかなあ、とも思います。

 原作と映画について、松崎まことさんのこちらのコラムもぜひ。細かな間違いもありますが、「原作は後から読め」というご主張には賛同します。

 本作、もう少し語りたいことがあるので別稿にて。

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