【IISEセミナー開催レポート#1】講演1「地域交通の現状と持続可能性への取り組み」
国際社会経済研究所(IISE)は、ソートリーダーシップ活動の一環として、「未来の地域公共交通を考える」をテーマとしたIISEセミナーを11月18日(月)に開催しました。
近年、運転手不足、2024年問題、日本版ライドシェアなど、地域公共交通周辺では様々な変容が生まれている中、自動運転を活用した新たな交通サービスが社会実装フェーズを迎えつつあります。新たなサービスとどのように共存し、より安全・安心でサスティナブルな地域交通を実現していくか、本セミナーでは、公共交通や自動運転に関する様々な領域の専門家をお招きし、最新動向を共有いただくとともに、現状の課題や今後への期待について議論いたしました。
今回は、第一交通産業株式会社 代表取締役社長 田中 亮一郎氏「地域交通の現状と持続可能性への取り組み」の講演について、レポートを公開しますので、ぜひご覧ください。
1.地域交通を支える第一交通産業
第一交通産業は、北九州で5台のタクシーからスタートしました。現在では、34の都道府県、約200の営業所で約8,000台のタクシーを運行し、約13,000人の社員が活躍するグループ総売上約1,000億円の会社です。沖縄では、路線バスや観光バスの約75%を我々のグループで運行しております。また、各地域では、交通を中心に不動産事業や飲食ビルの運営も行っています。
2.タクシー業界の現状と新たな交通サービスの展開
全国で法人タクシーの登録台数は約20万台存在しており、会社数は約5,500社に減少しています。これは、コロナ前の約7,000社から減少した結果です。営業区域は全国47都道府県をカバーしていますが、地域によってはタクシー会社がない場所も存在します。第一交通産業は、先ほどお伝えしたように約8,000台を保有し、これは業界最大規模ですが、全体のシェアとしては約4%に過ぎません。
第一交通産業では、2011年以降、タクシー会社や地方自治体が提供する乗合タクシー「おでかけ交通」などの新しい交通サービスの展開を開始しました。地域特化型の自家用有償運送や福祉有償運送にも取り組んでいます。
3.地域交通としてのタクシーの役割
乗合タクシーは全国で展開しており、約80の市町村で300路線を運行し、高齢者や交通の便が悪い地域の住民を支えています。特に、バス路線のない地域や地形的に移動が困難な場所に焦点を当てています。
例えば、北九州の枝光では、新日鉄の影響で人口が集中している地域がありますが、高齢化し、住民の移動が困難になっています。そこで、15〜20分間隔で周回する4つの路線を設定し、ガードレールにシールを貼るなど分かりやすい乗車案内を行い、地域の乗合タクシーとして1日平均約120名、多いときには200名以上が利用し、高齢者の支援にも寄与しています。また一般タクシーも年間約4000万人が利用し、都市部と地方の交通インフラの一翼を担っています。
加賀市では、地域交通問題に対処するためデマンドタクシーを展開しています。もともと地元には大きなタクシー会社とバス会社が運行をしていましたが、主要駅だった大聖寺駅への新幹線停車の計画がなくなった影響で、商店街や地域の活気が低下し、路線バスの減便が進みました。このため、市役所から提案を受けた当社が、加賀市全域にわたりデマンドタクシーを運行することになりました。このサービスは、利用者が指定する停留所に15分以内にタクシーが到着する仕組みです。停留所は650箇所に及び、地域住民の通院や通勤、買い物などに利用されています。このデマンドタクシーサービスは、年間で約15,000から16,000人が利用しており、地域密着型交通サービスの一例として評価されています。
おでかけ交通には4種類あります。自家用有償運送は、ボランティアやNPOが主に運営し、福祉有償運送では福祉事業者が福祉自動車を使用します。また、タクシー会社が道路運送法78条2号に基づき営利目的でない自家用有償運送を行う方法があります。加えて、地域の公共の福祉を確保するための78条3号による日本版ライドシェアがあります。78条2号の多くは自治体様にお願いして赤字補填をしていただいております。
最近では、インバウンドなどの観光客やビジネスの復活によりタクシーが不足しております。北九州市では高齢化が進み、路線バスが減便または廃止されるケースが増えており、地域交通の維持が困難となっています。
これらの課題を解決する方法の1つとして、自動運転があり、問題はありますが、これを活用することによって、ある程度不足をカバーしていけるのではと思います。
4.共助と協調による「No.1タクシーネットワーク」
第一交通産業の限られた営業エリアだけなく、全国をカバーするため、共助と協調による「No.1タクシーネットワーク」を作りました。このネットワークは47都道府県、離島も含めて全国をカバーし、800社以上4万台以上のタクシーが参加しています。
タクシー事業者は、コロナ禍で売り上げが8割減少し、カーボンニュートラル対応の車への移行が課題となっていました。30台程度の規模の会社では収益率が2〜3%しかなく、燃料や人件費の上昇で状況は悪化していました。また、電気自動車への転換には、従来の車両の倍近く費用がかかり、資金を調達できません。そこで、「No.1タクシーネットワーク」を通じて、スケールメリットを活かし、車両を一括で借り上げて転リースすることで、与信問題を解消しました。保険会社を含む様々な業種にも入っていただいています。
「No.1タクシーネットワーク」の活用例としては、北九州では、電気自動車専用の営業所を太陽光発電と助成金を利用して建設した例があります。さらに、1台の車両に搭載している4つのSIMカードを1つのスマートメーターに統合して月々のコストを削減したり、燃料も年間契約にしたりするなどコストダウンを図っています。このような取り組みを背景に、約800社4万台規模になっており、今も増加しています。
また、タクシー業界では派遣ができないため、繁忙期と閑散期に応じて出向で人員を配置する取り組みを推進しています。例えば、沖縄のバスガイドや運転手が観光時期の異なる利尻・礼文島へ移動したり、冬場のニセコでは東京から支援を行ったり、新潟から豪雪地帯から白馬のスキー場へ出向するなど、これにより、人員を増やさず、人手不足を効率的に補完しています。
5.タクシー業界の変革と課題
タクシー業界は「3K」と言われていましたが、労働時間の上限が定められ、年収も上がり、改善が進んでいます。東京ではタクシー運転手の平均年収が580万円で、一般産業の平均を上回ります。福岡でも差が縮小し、女性ドライバーも増加中で、全体30万人のうち12,000人が女性です。
貨客混載などのさまざまな規制緩和が進んでいますが、個人タクシーは30万人以上の都市でしかできない制約があり、地域密着に向けては、30万人未満の都市でもできるようにするのが必要だと思います。
地方タクシー会社が存続するためには、地域の公共交通と住民の移動をどう守るかが鍵となります。ライドシェアについては、当社ではUberやDiDiと提携していますが、利用者の安心安全への信頼が得られるまでは、交通事業者が地域交通を守っていくことが重要だと考えております。
6.自動運転と多様な交通ニーズへの対応
自動運転については、我々も豊見城市で取り組んでいます。着々と技術は進んでいくと思いますが、我々から見ると、それだけでは十分ではありません。地域ごとの異なる交通ニーズに対応することが重要です。
観光客が多い地域や道が狭い軽井沢や京都では渋滞の課題があります。また、無人駅では車椅子のサポートで乗降時にそれぞれ3人ずつで対応していますが、こういった車椅子利用者への対応も必要です。地方では高齢化が進み、高齢者同士での介護が増えています。そういった方々に自動運転を使っていただけるようにするには、ラストワンマイルではなくラスト5メートルを重視したサポートが必要です。
ぜひ、皆さんにそういった課題があることも感じていただいて、私の最初の話に代えさせていただきたいと思います。
企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップモビリティチーム(岡部稔哉、塚原督、丸山 孝司)