見出し画像

宇宙ビジネスの現在地と今後|市場規模や課題、日本の注目企業を紹介

2021年、ZOZOの創業者である前澤友作氏が、民間人として日本で初めて国際宇宙ステーションに滞在したことは、記憶に新しいでしょう。この年は「宇宙旅行元年」と呼ばれており、数々のビリオネアが宇宙旅行を実現させました。
 
さらには、2022年から始まったロシアとウクライナの紛争で一躍注目を浴びたのが、イーロン・マスク氏率いるスペースX社の衛星サービス「Starlink(スターリンク)」の存在です。ウクライナがロシアの攻撃で重要なインフラを破壊された際、同社がスターリンクを無償提供して通信網の安定化に一役を買いました。
 
このように、現在宇宙ビジネスは急速な発展を遂げており、陸、海、空、サイバー空間に続く新たなビジネス市場として、世界各国が技術開発や市場開拓を行っています。
 
この記事では、宇宙ビジネスの成り立ちや歴史から市場規模、各国の動向、今後の展望などについて徹底解説します。


宇宙ビジネスとは?


宇宙ビジネスとは、明確に定義はされていないものの、ロケットや人工衛星の打ち上げだけでなく 、宇宙機の開発・製造や空間を活用したビジネス、またはそれらを地上ビジネスに活用した宇宙に関連する民間企業による経済活動全般を指すのが一般的です。

具体的には、人工衛星の運用とそれによるサービスの提供や民間宇宙旅行、月や小惑星などを目標にした資源探査、宇宙バイオ実験と呼ばれる微小重力状態を活用した創薬事業なども、広義の「宇宙ビジネス」の一部です。

宇宙産業の構造イメージ(経済産業省「宇宙産業の発展に向けて」を参考に、IISEで作成)

新興企業による宇宙ビジネスの興り


民間の新興企業による宇宙開発事業本格化の背景には、アメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)による、ある取り組みがありました。それが国際宇宙ステーション(ISS)と地上とをつなぐ、「宇宙輸送サービスの民間委託」です。

ISSは、1998年の基本機能モジュール以降、40数回に分けてモジュールのパーツがロケットで宇宙空間へ送られ、 2011年7月にようやく完成しました。一方、1980年代から宇宙輸送を担っていたスペースシャトルの退役が決まったことで、ISS完成後には地上からISSへ人や物資を送る新しい手段が必要になりました。

2021年、スペースXのクルードラゴン・エンデバーから撮影された国際宇宙ステーション
NASA公式イメージ&ビデオライブラリより)

そこでより低コストな代替手段を求めたNASAが考案したのが、宇宙輸送を請け負う民間宇宙ビジネス企業の育成プログラムです。そのプログラムに参加した企業のイノベーションが、現在に至る「民間企業による宇宙ビジネス」の市場を新しく広げていったといわれています。

官から民へ|レガシースペースとニュースペース


ここで抑えておきたいのが、「レガシースペース」と「ニュースペース」というワードです。 

ニュースペース」とは、民間ベンチャーのような新規参入企業によって宇宙産業の裾野が広がる動きのこと。「レガシースペース」はその反対で、政府系機関による計画に沿って大手企業などが行う宇宙開発のことを指します。

NASAが、ISSへの物資やクルー輸送を民間企業に委託する発表をしたのを契機に、宇宙開発のプレイヤーは大きく国家や政府から民間企業へと移っていきます。

宇宙が民間ビジネスのフィールドになるまで


民間企業が主体になってから、宇宙ビジネスの規模や領域は大きく広がりつつあります。 

2020年時点で、宇宙ベンチャーは世界で1000社以上あるといわれており、市場の急成長ぶりが伺えます。これほどまでに発展したのは、一体どのような要因があったのでしょうか。

NASAによる宇宙ベンチャー育成プログラム

スペースシャトルの退役後を見越して2006年にNASAが開始したのが、民間企業に低軌道の宇宙空間への輸送を発注するための民間宇宙ベンチャー企業の育成プログラムCOTS(Commercial Orbital Transportation Services)」です。

COTSは、具体的には民間企業が低軌道への輸送システム(ロケットや補給機)を開発する事業を支援するプログラム。支援企業は合意したマイルストーンを達成するたびに支払いを受ける契約で、NASAから先端技術の継承と資金補助を段階的に受けられる仕組みになっています。

2006年に行われた第1回目の公募には20社ほどから提案が寄せられ、最終的に2社に決定。このうち1社が、イーロン・マスクが率いる「スペースX」です。

2010年、COTSプログラム最初のデモンストレーション飛行として、
スペースXのロケット・ファルコン9ロケットと宇宙船・ドラゴンが打ち上げられる様子
NASA公式イメージ&ビデオライブラリより

また、単年度ではなく複数年度での委託契約、かつ「コストプラス方式」ではなく通常の商取引と同様に「固定価格方式」を採用したことで、一定の有効需要が生まれただけでなく、アメリカにおける健全な宇宙開発市場の発展にもつながりました。

このように、民間産業の育成や基盤の安定を目的に、政府や軍が企業と契約して製品やサービスを継続的に購入する考え方は「アンカーテナンシー」(関連記事)と呼ばれ、2023年現在、日本に宇宙開発市場が定着するためのカギとして注目されています。

そんなスペースXが自社によるロケット「ファルコン9」によって起こした変化が、ロケット打ち上げの低コスト化です。

1980年代のスペースシャトルでは、ロケットで人工衛星を低軌道に打ち上げる際の費用は、1kgあたり約10万ドル(約1500万円)とかなり高額なものでした。しかし、生産技術の進歩や、従来の宇宙用部品よりも低価格な自動車用部品を使うといった工夫によって、現在は1kgあたり2000ドル程度(約30万円)とおよそ50分の1まで低価格化しています。

2012年、COTSにおけるスペースX2回目の実証試験飛行を控えたファルコン9ロケット
NASA公式イメージ&ビデオライブラリより)

宇宙輸送の低価格化による、衛星システムの変化

 そして、宇宙輸送の低価格化により、人工衛星を活用したシステム構築のあり方も大きく変化していきました。 

ロケット打ち上げの低価格化の裏で、その荷物にあたる人工衛星が小型化。それまでは「大型の人工衛星1機」によって運用されていた地球観測といった一部のシステムが、「複数の小型人工衛星」でも提供可能になりました。なお、このように複数の人工衛星を打ち上げて一体的に機能させるシステムを「衛星コンステレーション」と呼びます(関連記事)。

システムを構成する人工衛星は、低コストで製造された、10cm四方の手のひらサイズといった超小型なもの。大型人工衛星と比較するとスペックが劣る人工衛星であるものの、コストを抑えて人工衛星を製造し、複数機を同時に活用することで、大型衛星に並ぶ機能・サービスを低価格で提供できるように変化していきました。

これに加えてロケット打ち上げが低価格化したことで、衛星の製造から打ち上げまで、必ずしも数億円の費用をかけずとも衛星サービスが提供できるようになりました。衛星コンステレーションが衛星ビジネス事業の新たなスタンダードとなった結果、人工衛星を活用したビジネスの参入障壁も下がっています。

ビリオネアの参入

宇宙ベンチャーの台頭を見ていくうえで欠かせないのが、ビリオネアの存在でしょう。 

特に代表的なのが、スペースXのイーロン・マスク氏、民間の有人ロケット開発レース「ANSARI X PRIZE」に優勝したスペースシップワンの技術ライセンスを供与され、2004年にヴァージン・ギャラクティック社を設立したリチャード・ブランソン氏、アメリカの宇宙開発企業・ブルーオリジン社を設立したジェフ・ベゾス氏の3名です。

日本では、ZOZO創業者の前澤友作氏が、2021年12月に日本の民間人で初めて、ISSに滞在したことで話題となりました。

通常、リスクマネーの提供者である投資家と、宇宙ベンチャーの経営者は別であることが大半です。宇宙ビジネスは失敗がつきもので、一定程度の失敗を許容して進まないと、産業の発展は望めません。しかしながら、人命を伴うリスクのあるアイデアは投資家によって反対されてしまうこともあります。

上で紹介した3名は経営者でありながらも、投資家としての側面もあります。さらに、全員が、失敗を許容しながらエネルギッシュに目標に向かって突き進む性質を持ち合わせていました。

このようなビリオネアの宇宙ビジネスへの参入によって、ビジネス機会を感じ取ったスタートアップの勃興や異業種からの参入が相次いだことも変革の一要因になったといえるでしょう。

衛星データを活用しサービス展開する、ユーザー産業の盛り上がり


民間企業による宇宙ビジネスが多岐にわたって展開した結果、衛星データから二次的にサービスを提供する“ユーザー企業”のビジネスも多く見られるようになっています。 

具体的には、衛星ビジネス事業者からデータの提供を受け、その分析・活用を自社で行い、それを独自のサービスとして提供するというもの。例えばスマホで使用する地図アプリも、そのほとんどが測位データの提供を受けたアプリの開発会社、つまりユーザー企業によって提供されているものです。

ユーザー企業によって活用の幅が広がっているのが人工衛星による地球観測データです。農業分野では衛星データを使って土地の評価を行うサービス、漁業分野では魚群行動の解析を行うサービスを展開する企業もあります。

一般企業が衛星データ活用を進められるようなITプラットフォームを立ち上げる企業もおり、データ活用の幅を広げる役割のユーザー企業も、注目すべき存在になっています。

経済産業省が開発した衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」。政府の様々な衛星データをオープン&フリーで提供し、衛星データビジネス創出の促進を図っている
Tellus公式サイトより)

宇宙ビジネスの動向と市場規模

世界各国の宇宙ビジネスの取り組み・市場規模

ここからは、世界各国の宇宙ビジネスの取り組みや市場規模について、主要国を中心に紹介したいと思います。 

宇宙ビジネスの市場分布

米国のスペース財団(Space Foundation)が発行している「The Space Report」によれば、世界の宇宙産業市場は2022年で年間5460億ドル、日本円にして約79兆5600億円となっています。ここ5年以上は毎年約5~15%ずつ増加しており、5年前の2017年と比べると約42.1%増と、市場が大きく広がってきていることがわかります。

世界の宇宙産業市場の推移。
日本航空宇宙工業会の「世界宇宙産業動向」(2021年版)と
米国のSpace Foundationが発行する「The Space Report」をもとに、IISEで作成

また、アメリカの衛星産業協会(SIA)のレポートでは、宇宙ビジネスの中でも衛星産業の市場を「1.通信や放送などのサービスを提供する衛星サービス」、「2.衛星管制や衛星測位機器に関する地上機器」「3.衛星の開発・製造」、「4.ロケットの開発・製造および打上げ」、「5.宇宙持続可能性活動」の5つに分類しています。

それぞれの分野の市場分布と売上高は、2022年時点で「1.衛星サービス」が1130億ドル(約30%)、「2.地上機器」が1450億ドル(約38%)、「3.衛星製造」が158億ドル(約4%)、「4.打上げ産業」が70億ドル(約1%)、「5.宇宙持続可能性活動」が10億ドル以下、計2810億ドルとなっています。

米国のSatellite Industry Associationが発行している
State of the Satellite Industry Report」をもとに、IISEで作成

観測データや測位データといった、人工衛星によって取得した情報を農業や金融に活用する衛星データのユーザー産業は、今後ますます市場を拡大していくと見られています。

Euroconsultの調査では、地球観測衛星データを利用したサービスの市場規模は2022年は28.6億ドルで、予想では2032年には49億ドルに。通信衛星によるサービスの市場規模は2023年は1,080億ドルで、2032年には1,230億ドルになると予想されています。

今後の市場規模はどのように拡大するのか

 Space Foundationの調査によれば、世界全体における宇宙産業の市場規模は2020年に4240億ドルに達し、これは2010年と比べると70%も拡大している数値です。 

また、シティグループが2022年に発表した宇宙市場レポートによると、2040年までに宇宙ビジネスの市場は収益ベースで年間1兆ドルの規模に拡大するとされていることから、一大産業になることが見て取れます。

アメリカ

アメリカは、アポロ計画やスペースシャトル計画など、世界を牽引してきた宇宙産業国の1つです。世界の宇宙ビジネス市場のおよそ半分のシェアを占めているともいわれています

2010年代から宇宙ベンチャーへの投資熱が続き、いくつものネットベンチャーを築いたベンチャーキャピタルたちが宇宙ベンチャーに出資しています。

また、法改正も迅速であり、1984年にはロケットの商業利用の促進を目的とした「米国商業打上げ法」を制定しているほか、2004年12月には、世界で初めて商業宇宙旅行を産業化し育成することを目的とした法整備を行っています。

EU

欧州は米国と並び、世界の宇宙産業において主導的な役割を担っています。欧州各国はESA(欧州宇宙機関)に加盟・連携する形でロケット開発が進められています。

また、宇宙産業の製造部門は、フランス、ドイツ、イタリアなどに拠点をおく大手企業によってまかなわれています。具体的には、フランスのThales(タレス)社、ドイツOHBグループ、イタリアのLeonardo SpA(レオナルド)グループなどで欧州全体の雇用の63%に達しています。

イギリス

古くは1962年、NASA(米航空宇宙局)と共同で人工衛星「アリエル1号」を打ち上げた実績を持っており、米国、ロシアに次ぐ世界で3番目の衛星保有国です。

近年は、宇宙産業を戦略投資分野と位置付けており、2010年に公表した「Space Innovation and Growth Strategy(SpaceIGS)」では、長期目標として2030年に宇宙ビジネス市場のシェア10%を獲得すること、中期目標として2020年までにイギリスの宇宙産業を190億ポンド(約3兆円強)まで成長させることが記載されています。

ロシア

世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたように、 宇宙開発が始まった当初から、宇宙開発・宇宙ビジネスの研究開発に積極投資をしています。人工衛星の数で見ると、世界で打ち上げられた約1.3万機の人工衛星のうち、6198機と全体の半数を占めるのがアメリカによるもので、それに続いて3620機と約3割を占めているのがロシアです。

また、アメリカはスペースシャトル退役後、2011年から2020年5月まで独自の輸送手段を持っておらず、ISSへのクルー輸送をロシアの「ソユーズ」に任せていました。近年は、冷却水漏れなどの深刻な技術的懸念が生じており、2020年以降は、スペースX社の「クルードラゴン」へ切り替えています。

さらには、ウクライナ紛争を機に欧米諸国との関係が悪化したため、宇宙ビジネスにおける技術的協力・交流などは今後難しくなるとされています。

中国

近年、中国は急成長を遂げており、2021年度のロケット打ち上げ回数は55回で、米国を超えて世界一 となりました。2013年には嫦娥(じょうが)3号で世界3番目に月へ到達、2019年には嫦娥4号で人類史上初、月の裏側への着陸に成功しています。さらに2022年には、中国単独で宇宙ステーション「天宮」を完成させています。

一方で、中国は非常に高い技術をもっているものの、ウクライナ紛争を契機にして、協調路線から独自路線になることが想定されるため、今後、中国・ロシアと欧米諸国での対立が生まれることが予想されています。

インド

今後の宇宙産業で自国の存在感を高めるべく、宇宙産業の成長に注力しているのがインドです。

近年では2020年に「自立したインド」を冠した政策を発表。これは新型コロナウイルスの流行を受けて自国内の産業振興を目的としたもので、その中では「宇宙分野」が重要な政策のひとつとして掲げられています。この政策によりインド国立宇宙推進認可センター(IN-SPACe)が設立され、宇宙開発への民間企業の参加をサポート。現在インド内には、約150もの宇宙スタートアップ企業があるとされています。

また、2023年にはインドによる無人探査機「チャンドラヤーン3号」が月面に着陸。アメリカ、ロシア、中国に続く4番目の無人機の月面着陸を成し遂げた国となりました。「月面の南極着陸を成功させた」という点では、世界初になります。

ルクセンブルク

欧州最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「NewSpace Europe」の開催国でもあるように、宇宙産業との結びつきが強い国の1つです。1985年に創業した「SES」は欧州初の民間衛星で、人工衛星による通信サービスを提供しています。世界中の放送局や企業・政府機関にサービスを提供する世界最大手の一角といわれています。

2016年には、金融の次に宇宙資源探査を国家重点セクターと位置づけ、宇宙ベンチャーの誘致・育成を推進することを掲げています。

日本の宇宙ビジネスの取り組み・市場規模 


日本の宇宙ビジネスの市場規模は約1.2兆円。これは、世界全体でみると大きなシェアをもっているとは言えない数字です。

日本は、もともと宇宙科学研究所(ISAS)、宇宙開発事業団(NASDA) 、航空技術研究所(NAL)の3つの機関がそれぞれ航空宇宙技術の開発を行っていました。その後、2003年に3つの機関が統合し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が設立された経緯があります。

日本の強みは小型衛星です。2003年には、世界で初めて質量1kg、10cm四方の立方体状の超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」の打ち上げに成功しています。

2003年に世界初の超小型衛星を実現させた東京工業大学で、現在開発が進められている
超小型衛星キューブサット「OrigamiSat-2」(10 cm×10 cm×34 cm、4 kg)

日本の宇宙ビジネスの動向、政策

日本では、宇宙ビジネスは長らく政府主導で進められてきましたが、2008年に成立した宇宙基本法に基づき、翌年には政府が宇宙基本計画を策定。2020年の改正版では、⺠間調達の拡大や、異業種企業等の宇宙産業への参入促進という文言が追加されており、宇宙ベンチャーへの門戸が広がりつつあります。

さらに、2017年に公表した宇宙政策委員会による「宇宙産業ビジョン2030」では、国内の宇宙ビジネスの市場規模を2030年代初頭に、現在の1.2兆円から倍増させると発表しており、日本も、積極的に宇宙ビジネスへ参入していく狙いがみられます。

宇宙ビジネスの種類


世界で展開されている宇宙ビジネスのうち、特に大きな市場を持つビジネスを紹介します。

ロケット打ち上げ

地上から宇宙へ、人や人工衛星を送る際の手段となるロケットを販売、打ち上げを請け負うビジネスが行われています。民間主導になってから打ち上げられるロケットが大型化、1台あたりにたくさんの小型衛星が積載できるようになり、宇宙輸送の低コスト化が進んでいます

スペースシャトルも再利用を前提にした作りではあるものの、それには莫大な予算がかかったため、経済的とは言い難いものでした。しかしスペースX社は、2017年にロケット第1段の再利用に成功し、通常の打ち上げ費用を従来の半額近くまで下げることに成功しました。

一方で、開発費や打ち上げと再利用に必要な燃料を考慮すると、必ずしもロケットの再利用が経済的ではない、という見方もあります。

また、人工衛星を打ち上げるにあたっても、別の目的のもとで打ち上げられるロケットに人工衛星を便乗させてもらう「ピギーバッグ」や、複数社で同一のロケットに衛星を乗せて打ち上げる「ライドシェア」など、コストを抑えた打ち上げの選択肢も増えています。

2022年1月には、NASAがVADR(Venture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshare)というプログラムのなかで、有力なロケットベンチャーおよび代理店を12社の選定し、資金を提供する契約を発表しています。この取り組みにより、今後ロケットを用いた宇宙輸送サービスはより市場競争が激しくなっていくでしょう。

通信

中・低軌道に打ち上げた多数の小型衛星による「衛星コンステレーション」を活用することで、世界全域に高速大容量の通信の提供が可能となります。 

代表例はスターリンクです。ウクライナ紛争における無償提供でも話題となりました。その後、ワンウェブ社、アマゾン社などもあとに続く形で、それぞれ数千、数万機といった大規模な通信コンステレーションの構築計画を進めており、覇権争いが繰り広げられています。

衛星コンステレーションのイメージ(IISEで作成)

リモートセンシング(地球観測)

リモートセンシングとは、人工衛星に専用の測定器を搭載し、地球を観測する技術のことを言います。 

近年では、マイクロ波を地球に照射し、反射波を受信する「SAR(合成開口レーダー)センサー」によって取得した衛星データの活用の幅が広がっています。天候や地形にかかわらず地上を撮影できる、対象物の材質や変化を細かく観測できるのが強みで、解析技術の進歩によって観測データから様々な情報を読み取れるようになりました。

例えば、農作物の生育状況といった農地の管理、漁業のための魚群の来遊予測だけでなく、火山観測や土砂崩れの予防など防災の分野などで観測データが活躍しています。

経済産業省の助成事業としてNECが開発したSAR衛星「ASNARO-2」による観測データ。衛星データプラットフォーム「Tellus」で無料提供されている(Tellus公式ページより)

測位

スマホの地図アプリ等で利用できる位置情報システムは、軌道上の測位衛星によって提供されているものです。アメリカによる「GPS(Global Positioning System)」もそのひとつで、こういった衛星測位システムを総称して「GNSS(Global Navigation Satellite System、全地球航法衛星システム)」と呼びます。

政府によって運用されている測位衛星システムには、EUによる「Gallileo(ガリレオ)」やロシアによる「GLONASS(グロナス)」なども。日本では、アジア・オセアニア地域でより安定した位置情報を取得できる「準天頂衛星システム(通称、みちびき)」が運用されています。

一般的に、最もメジャーなサービス名から「GPS」と呼ばれることが多い測位衛星システムですが、現在は同サービスだけでなくGallileoやGLONASSほか、様々な信号を同時に利用する「マルチGNSS」の導入が進んでいます。異なる衛星測位システムを利用することで、より高精度に位置情報を計測できるようになるのが、マルチGNSSの強みです。

民間宇宙旅行

現在、宇宙旅行の種類は「サブオービタル旅行」と「オービタル旅行」の2つに大別されます。サブオービタル旅行とは、高度100kmに数分間滞在し、無重力体験をしたのち地球へ帰還する10分から数時間程度の宇宙旅行を指します。オービタル旅行は、地球を周回する軌道に入る旅行をいいます。

例えば、後述するブルーオリジン社やヴァージン・ギャラクティック社による商用宇宙旅行は前者、ZOZO創業者の前澤友作氏による12日間のISS滞在は後者に該当します。

ヴァージン・ギャラクティック社が、2023年6月29日に同社初の商用の宇宙飛行に成功したときの機内写真(ヴァージン・ギャラクティック公式サイトより)

製造・開発

製造の対象となるものは、大きくロケット、地上局、人工衛星の3つが挙げられます。

さらに細かいところでいくと、宇宙用のネジやケーブルをはじめとした各機器の関連製品、宇宙機の管理・運用を行うためのITシステム開発[3] も行われています。

宇宙資源開発

月や小惑星での非生物資源の探査・採掘を目的とする事業を指します。人の宇宙における活動範囲をより拡大していくため、地球から物資を輸送するのではなく「宇宙での資源調達」を目的とするもので、現在は燃料としての活用も可能な「水」に注目が集まっています。

2025年以降に月面に人類を送り、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設などを通じて、月への物資運搬、月や火星の探査などの活動を含む一大プロジェクト「アルテミス計画」がその代表例です。

 

その他(デブリ回収・衛星延命サービスなど)

近年は、スペースデブリ回収事業や、衛星延命サービスといった事業も存在します。

スペースデブリとは通称「宇宙ゴミ」、軌道上にある不要な人工物体のこと。例えば、使用済みあるいは故障した人工衛星、打ち上げに使われた上段ロケット、爆発・衝突して発生した破片などが該当し、これを専用の宇宙機によって回収する事業が構想されています。

また人工衛星の軌道修正や燃料補給など、人工衛星を長期的に運用するためのサポートを提供するサービスも。衛星ビジネス事業者をターゲットとしたビジネスも広がっています。

そのほか、搭乗客の死亡事故、ロケット打ち上げの延期、輸送貨物の破損といったリスクを低減する保険を提供する会社も存在します。例えば、日本では三井住友海上火災保険がispaceと共同で世界初となる「月保険」を開発しました。具体的な内容としては、ロケットの打ち上げから月面着陸までに発生する損害を切れ目なく補償するというものになります。

世界、および国内の宇宙ビジネスに取り組む企業


実際の企業では、どのような宇宙ビジネスが展開されているのでしょうか。国内と海外で、「レガシースペース」と「ニュースペース」それぞれに該当する企業を紹介します。

海外のレガシースペース

ボーイング(Boeing Company、アメリカ)

大型旅客機メーカーとして知られているアメリカのボーイングは、防衛・軍用機とそれに用いる情報システムだけでなく、有人宇宙船や人工衛星、ロケットの開発を行っています。

現在は、宇宙船「スターライナー(CST-100 Starliner)」によってISSへ宇宙飛行士を送る有人飛行ミッションに取り組んでいます。

 

アリアンスペース(Arianespace、欧州)

アリアンスペースは、ヨーロッパ各国が共同で設立したロケット打ち上げを主要事業とする企業。フランスに拠点を持ち、親会社である同じくフランスのアリアングループが製造・開発したロケットを打ち上げる会社として設立されました。

アリアングループ以外の企業によるロケット・人工衛星の打ち上げも請け負っており、その高い打ち上げ成功率によるサービスの信頼性は、同社の強みのひとつです。

 

ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman Corporation、アメリカ)

ノースロップ・グラマンは、アメリカの軍事機器メーカーです。1993年に航空機メーカーであるノースロップ社が競合のグラマン社を買収し、生まれた同社。グラマン社は、1994年に月に着陸したアポロ月着陸船を開発したメーカーです。

現在は軍用機・軍艦やそれに紐づく情報システムだけでなく、ミサイル探知・追尾システムを備えた宇宙領域把握用途の人工衛星の開発を行っています。

海外のニュースペース

スペースX(SpaceX、アメリカ)

アメリカの起業家であるイーロン・マスク氏が代表を務めるスペースXは、2002年に設立された航空宇宙メーカーです。宇宙への輸送コスト削減を目標として掲げており、民間企業として初めてISSに物資を届ける補給ミッションを達成。これまで使い捨てされていたロケットを再利用するシステムを実装した結果、打ち上げのコスト削減にも成功しています。

近年では、地球の低軌道上に配備した人工衛星による通信用途の衛星コンステレーション「スターリンク(Starlink)」を用いた、インターネット接続サービスも展開しています。

 

ブルーオリジン(Blue Origin, LLC、アメリカ)

有人宇宙飛行サービスを展開するのが、アメリカのブルーオリジンです。同社による宇宙機「ニューシェパード(New Shepard)」は乗客が約10分の宇宙旅行を体験できる有人宇宙船です。2021年には同社を設立・アマゾンの創業者でもあるジェフ・ベゾス氏ら計4名が搭乗し、高度約100kmにて数分間の無重力体験を行いました。

同サービスは、宇宙旅行だけでなく科学実験などで活用される道もあるとのこと。ニューシェパードは2021年以降も度々有人宇宙飛行を行っており、同サービスの利用者によって、「宇宙旅行者の最年長記録」と「最年少記録」がいずれも更新されています。

 

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic、アメリカ)

ブルーオリジン社と同様に、宇宙旅行ビジネスを展開しているのがアメリカのヴァージン・ギャラクティック社です。

同社による宇宙旅行は、乗客の乗った宇宙船と、宇宙船を運ぶ母船によって行われます。滑走路から離陸した母線は高度15kmまで上昇し、宇宙船を切り離し。そこから宇宙船のロケットエンジンを使って宇宙空間へ向かう、というものです。

プログラムは離陸から着陸まで2時間程度で、その料金は45万ドル(約6500万円、2023年11月時点)です。2023年6月には同社による商用の宇宙旅行が初めて成功したことが発表されており、すでにおよそ800名が同プログラムに申し込みしているとのこと。

 

アクシオム・スペース(Axiom Space、アメリカ)

ISSの運用年数が残り少なくなっていることを受け、新しい宇宙ステーション構築をNASAと共同で進めているのが、アメリカのアクシオム・スペースです。同社による宇宙ステーション「アクシオム・ステーション(Axiom Station)」は現在建設中で、2026年の打ち上げにむけて準備を進めているとのこと。

並行してISSの施設を利用した研究・開発活動も行っており、これまで3度にわたり、スペースXのロケットを使用した有人宇宙飛行を行っています。

 

アイサイ(ICEYE、フィンランド)

アイサイは、フィンランドに拠点を持つ小型観測衛星の開発・運用を行う企業です。同社が観測に用いるのは、電波を使用することで天候に左右されずデータを取得できるSAR衛星。ICEYE社の人工衛星は100kg以下と、他社のSAR衛星よりも小型であることが強みです。

SAR衛星による大規模な衛星コンステレーションを構築しており、2022年には同社による人工衛星は21機が運用中と発表されています。

国内のレガシースペース

三菱グループ

日本の三菱グループでは、三菱重工業と三菱電機がそれぞれの分野で宇宙開発事業に取り組んでいます。

三菱重工業は、ロケットや人工衛星の搭載機器、宇宙環境における実験装置の開発・生産だけでなく、自社によるロケット打ち上げ輸送サービスも手掛けています。また、国際宇宙ステーション(ISS)内の日本の宇宙実験棟「きぼう」では、与圧部や補給部与圧区の製造を担当しています。そして、これまで多くの人工衛星開発を手掛けてきたのが三菱電機です。通信・放送、測位などそれぞれの機能を持つ人工衛星を、製造開発から運用まで自社で行っています。

 

川崎重工

川崎重工業が宇宙開発機器のなかでも特に力を入れているのが、ロケットのフェアリング(ロケット最先端に搭載される、打ち上げ時の熱や摩擦から荷物を守る役割を持つ部位)の設計・製造です。

加えて、ISSにおける宇宙実験棟「きぼう」では、エアロック等の施設の一部の開発を手掛けるだけでなく、船外実験用の簡易曝露実験装置の開発も行いました。

 

IHIエアロスペース

IHIエアロスペースは、JAXAと共同でイプシロンロケットを開発した企業として知られています。イプシロンロケット以外にもH3ロケットでは固体ブースタの開発を手掛けるなど、ロケットに関わる機器・装置の開発を担当しています。

 

NEC(日本電気)

1970年に、日本で初めて打ち上げに成功した人工衛星「おおすみ」の開発を手掛けて以降、人工衛星関連機器の製造・開発を手掛けるだけでなく、自社でこれまで約80機の人工衛星を開発・製造しているのがNEC。2023年現在も2機の人工衛星を保有し、衛星に搭載する光通信端末の製造・開発など、宇宙空間における通信機器の開発にも取り組んでいます。

2010年には、NECが開発・製造を手掛けた小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星「イトカワ」の探査を終えて7年ぶりに地球に帰還したことが大きなニュースになりました。

 

国内のニュースペース

ispace(アイスペース)

「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」というスローガンを掲げるispaceは、宇宙資源の活用を大きな目標に向け、2023年現在は民間企業による月面探査に取り組んでいます

同社による月面探査プログラム「HAKUTO(ハクト)」では、2023年のランダー(月着陸船)の月面着陸を予定していたもののこれに失敗、今後は2024年の月面探査実現に向け、プロジェクトを推進中です。

 

アクセルスペース

アクセルスペースは、日本の宇宙ベンチャーの先駆者ともいえる企業です。小型の光学観測衛星5基による衛星コンステレーション「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を運用、衛星画像データの提供を行っています。

記録された衛星画像は、同社によるソリューションを通して使用でき、農業用や建設用途、または災害時の被害状況のモニタリングで活用可能。今後も、同社による衛星コンステレーションは規模拡大していく予定であることが発表されています。

 

インターステラテクノロジズ

宇宙における輸送手段であるロケットを低コストで高頻度に打ち上げる、「宇宙産業のプラットフォーム」構築を目指しているのが、インターステラテクノロジズです。

宇宙開発ビジネスにおいて超小型人工衛星の打ち上げ需要が高まっていることに注目する同社は、そのニーズに合わせたロケット「ZERO」の開発を進めています。実業家である堀江貴文さんがファウンダーとして携わっています。

 

アストロスケール

「宇宙の持続可能性の確保」を掲げて事業展開するアストロスケールは、宇宙開発の加速に伴い大きくなっている宇宙ゴミ、つまり「スペースデブリ」問題に取り組んでいます。

すでに軌道上にあるスペースデブリを除去するものや、運用後の人工衛星のデブリ化を防止するサービスだけでなく、燃料枯渇後の人工衛星運用を継続できるようにするサービスも構想されており、様々な方法で「宇宙の持続性の確保」に取り組んでいます。

 

ALE(エール)

宇宙を舞台にしたエンターテイメント事業の展開を構想するのが、ALEです。同社が取り組んでいるのが、夜空を彩る人工の流れ星。人工衛星から「流星源」を放出することで、人工的に流れ星を作ることができる、というもの。

もちろん流れ星の元になる素材は地上に落ちる心配もなく、デブリにもならないように配慮されているのだとか。

IISEでは、人工衛星ビジネスを国内で展開している企業の
カオスマップも作成しました(関連記事

宇宙ビジネスの課題


目覚ましい発展を遂げる宇宙ビジネスですが、新しい産業であるがゆえに、さまざまな課題を抱えています。

スペースデブリの増加

1つ目の課題がスペースデブリの増加です。現在、打ち上げられている衛星のうち、稼働しているのは約6%程度で、残りはスペースデブリとして宇宙空間を漂っているといわれています。現在の観測範囲だと、スペースデブリの数は10cm以上の大型のデブリがおよそ2万個、10cm以下の粒子だと1億以上の数があるとされています。

スペースデブリのイメージ

ちなみに、2000km以下の地球低軌道では、スペースデブリはおよそ秒速8km(マッハ16.3に相当)で地球を周回しています。 万が一、人工衛星やロケットと衝突すれば、一撃で破壊させてしまう威力を持っているのです。

実際に、1996年7月にはフランスの軍事衛星「セリース」と衝突する事故が起きています。このときは、復旧作業によって、無事ミッションを完遂させることができました。

今後は、デブリ同士の連鎖衝突によって、爆発的にスペースデブリの数が増える「ケスラーシンドローム」の発生が危惧されています(関連記事)。

法制度の整備

次の課題は法規制と法整備です。宇宙に関する国際的な法律には、1967年に国連で採択された「宇宙条約」があります。そこでは、宇宙空間の探査や利用の自由や、領有の禁止、平和目的のための利用など、基本的な項目の記載にとどまります。

抜け穴となる部分については、知的財産法、個人情報保護法、電波法など、各国の法律で補完をする必要があります。

アメリカに関しては、先に述べた「米国商業打上げ法」が1984年に制定されており、2004年には商業宇宙旅行に関する法整備を行うなど、非常に迅速な対応を行っています。日本が2008年に宇宙基本法を制定したのと比べれば、一目瞭然といえるでしょう。

どれだけ、政府や国家がリスクをとる形で、積極的に法整備・法改正を行えるかがその国の宇宙ビジネスの発展の分かれ目になるといっても良いかもしれません。

電波の周波数資源の慢性的な不足状態

加えて、衛星通信を行うにあたって現在ボトルネックになっているのが、通信に使用する電波周波数資源の、慢性的な不足状態です。

使用できる帯域に上限がある電波は、国際電気通信連合(ITU)によって策定された国際的な共通ルールによって割当て、運用されています。これは、電波は広範囲に拡散する性質があり、無計画に通信を行うと混信(想定とは違う電波が通信に混入すること)を防ぐため。日本では、電波を利用したい団体は総務省にそれを申請、周波数が割り当てられることで、ようやく特定の周波数の電波が利用できるようになります。

しかし、多くの団体が電波を使用するようになった結果、有限である周波数のほとんどが「割り当て済み」の状態に。新しく人工衛星を打ち上げるにあたっても、電波の周波数割り当てが困難な場合も発生しています。

こういった状況を受け、無尽蔵に近い周波数帯を使用できる「光」を衛星通信で使用する取り組みもスタートしています。


天体観測への悪影響

そして、天体観測への影響も問題になっています。

打ち上げる衛星が増えれば、その分衛星から発する光跡や赤外線の痕跡、電波ノイズが頻発して観測が妨害されます。人工衛星の影響で「夜が約7%明るくなる」可能性も指摘されており、環境への悪影響も無視できません[4] 。今のところ、抜本的な解決策は示されていませんが、宇宙ビジネスと学問が共存するためにも、必要な議論の1つとなるでしょう。

世界の天文学者、環境学者らを中心に光害に取り組む非営利団体「Darksky」の
公式リリース より、天文観察の撮影画像に人工衛星の光跡が映り込んでいる様子

今後の宇宙ビジネスの発展

これから発展が見込める領域

直近で注目されている領域の1つが、3Dプリンターの活用です。高価な金型も不要で、さらに部品点数を大幅に削減できます。そのため、故障や破損リスクが減るほか、生産のリードタイムを短縮できるなど、非常にメリットが大きいとされています。

まだ、打ち上げに成功した例はありませんが、アメリカの宇宙ベンチャーである、レラティビティ・スペース社が打ち上げた「テラン1」はボディ全体のおよそ80%を3Dプリンターで製造しています。

また、ロケットや宇宙船が飛び立つ場所「スペースポート」の開発も注目分野の1つといえるでしょう。これまで、世界27か所に建設され、現在22か所で運用がされています。

世界初の「スペースポート」はニューメキシコ州にある「スペースポート・アメリカ」で、2011年に完成しました。日本では、2021年4月に北海道大樹町で「北海道スペースポート(HOSPO)がオープンしています。スペースポートは、地域活性の取り組みとして注目されており、今後、和歌山県の串本町、大分県国東市なども開発候補地に挙げられています。

北海道スペースポートの将来イメージ図

宇宙ビジネスで日本が頭角を表すためには?

今後、宇宙ビジネスで日本がプレゼンスを高めていくには、どのようなことが必要になるのでしょうか。

ひとつは宇宙ビジネスに関する法規制・法改正です。日本は、消費者契約法などに挙げられるように消費者保護の観点が強く、不確定要素の多い宇宙ビジネスの発展においては足枷になる恐れがあります。

しかしながら、明るいニュースもあります。2021年6月には、宇宙資源の私有を認める「宇宙資源法」が本国でも制定されました。日本は、米国、ルクセンブルク、UAEに次いで世界4番目の国となります。スロースタートではありながらも、政府の宇宙ビジネスに対する本気度がみられます。

また、欧米諸国と比べると、民間ベンチャー・スタートアップへの積極投資も少ないものの、わずか10社だった宇宙ベンチャーは、今や50社以上にまで増えています。

2021年には、QPS研究所やアクセルスペース社など、いわゆるニュースペース企業の製造や打ち上げが増加し、衛星製造の実績では世界4位となりました。

さらに、2022年11月にデロイトトーマツグループが主催する宇宙産業の事業開発に特化したアクセラレーションプログラム「GRAVITY Challenge JP」が発足。これは、大手企業がスタートアップや研究機関と連携し、企業課題や社会課題について、宇宙利用を通じて解決を目指すもので、ENEOSホールディングス、京セラ株式会社、日本郵船株式会社などの大手企業が参画しています。

そして、2023年の11月にはJAXAによる法改正案が可決され、日本で新しく「宇宙戦略基金」の創設が決まりました。

これは国内の宇宙産業の市場規模の拡大を目指したもので、民間企業や大学といった研究機関に最長10年にわたり1兆円規模の資金提供を行うのがその主な内容です。世界中で急激な宇宙ビジネスの市場拡大を受けたもので、国際市場のなかで日本の競争力をより高めていく狙いがあるものと思われます。

同基金の設立により、新しい企業が宇宙ビジネスに参入するだけでなく、既存の宇宙ビジネス企業によるプロジェクト推進がより加速することが期待されています。

まとめ


宇宙ビジネスは、まだまだ参入余地を残したマーケットであり、日々新たなサービスや事業が誕生しています。高度経済成長期は、「ものづくり大国」と言われた日本。官民一丸となって、世界最高峰の技術力を結集させることができれば、宇宙産業大国として、世界的シェアを獲得することもできるでしょう。

宇宙ビジネスによって前向きな変化を引き起こすためには、ビジネスのプレイヤーが努力するだけでなく、より多くの人がそれに関心を持つことが必要でしょう。宇宙ビジネスが「日常の一部」になり、企業や政府の活動をより身近に感じ、意識することが、「宇宙が生活を大きく変える」近道になるのかもしれません。

 

企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文:俵谷龍佑 編集:伊藤駿、黒木貴啓(ノオト)
図版:小峰浩美(※4・5枚目のみ)


参考文献

 
・小松伸多佳/著,後藤大亮/著(2023) .『宇宙ベンチャーの時代 』.光文社
・宇宙航空研究開発機構.”スペースシャトル開発の歴史”.2010年04月28日
・宇宙航空研究開発機構.”スペースシャトルは開発されてから25年以上経ちますが、老朽化の心配はないのでしょうか”.2010年07月14日
・宇宙航空研究開発機構調査国際部.”米国の宇宙政策の概要”.2013年04月25日
・宇宙政策委員会.”宇宙産業ビジョン 2030”. 2017年05月29日
・秋山文野.”米スペースX、1機あたり1億円へ衛星ライドシェア打上げ価格を値下げ”.Space Biz.2019年09月05日
・経済産業省宇宙産業室.”宇宙輸送システムと宇宙産業について”.2020年02月01日
・宇宙航空研究開発機構.”スペースデブリに関する最近の状況”.2020年06月12日
・Science Portal.”米有人宇宙船が帰還 9年ぶり、ロシア依存に終止符”.2020年08月04日
・日本貿易振興機構.”欧州宇宙産業調査”.2021年03月01日
・佐藤将史.”宇宙ビジネスをリードするアメリカ。日本勢よ、世界最大市場に乗り遅れるな”.2021年05月08日
・日本貿易振興機構.”スペース 4.0:インド宇宙産業における官民の取り組みと中長期的ビジネスチャンス”.2022年03月01日
・AFPBB News.”中国の2021年宇宙打ち上げ回数が世界一に 火星・太陽探査や宇宙ステーション建設”. 2022年04月07日
・Michael Sheetz.”The space industry is on its way to reach $1 trillion in revenue by 2040, Citi says”.CNBC.2022年05月21日
・SPACEMedia編集部.”宇宙ビジネスを国全体で促進する小さな公国―ルクセンブルク”.SPACE Media.2022年06月28日
・日本貿易振興機構.” 拡大するインド宇宙産業のビジネスチャンス、ジェトロがウェビナー”.2022年07月14日
・経済産業省.”宇宙開発を巡る産業の動向について”.2022年07月22日
・Prashant Singhal.”The space economy in India is set to grow to US$13b by 2025 at a CAGR of 6%.”.EY.2022年11月04日
・松浦晋也.”「ほぼ3Dプリンター製」ロケット、米宇宙ベンチャーが打ち上げ”.日経クロステック.2023年05月31日
・松崎遥.”大手損保、宇宙保険で100兆円市場に照準 ノウハウ競う”.日経ビジネス.2023年07月20日
・Space Foundation.”SPACE FOUNDATION RELEASES THE SPACE REPORT 2023 Q2, SHOWING ANNUAL GROWTH OF GLOBAL SPACE ECONOMY TO $546B”.2023年07月25日
・日沼諭史.”「GRAVITY Challenge JP」に見る、宇宙での事業開発に乗り出す大企業の本気度”.UchuBiz.2023年09月22日
・総務省.”「令和4年 情報通信に関する現状報告の概要」-第2部 情報通信分野の現状と課題 “.2020年度
・上野信一.”世界の宇宙産業動向(2021年版)”.日本航空宇宙工業会
・文部科学省研究開発局参事官(宇宙航空政策担当).”米国衛星「UARS」の落下に関する情報について
・N.L. ジョンソン.”宇宙ゴミの脅威”.日経サイエンス. 1998年11月号
・橋口悠雅.”Vo.014 : 月面への新たなる足跡 インドの“宇宙産業”が切り開く未来!”.Global Japan Consulting
・NEC.”宙へのあくなき挑戦
・Satellite Industry Association.”The 2023 State of the Satellite Industry Report