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宇宙ビジネスに関連する記事をまとめています。
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人類の未来を拓く宇宙コモンズ <野口聡一氏インタビュー>

国際社会経済研究所(IISE)では、人類の未来を拓くカギの1つとして、宇宙コモンズを探索しています。 地上の共有資産(コモンズ)には、牧草地や漁場、医療や教育があります。これらは、利用者の視点に基づいたルール形成により、持続的に運営され、利用者のウェルビーイングに貢献してきました。このような地上の成功例を参考に、宇宙にもコモンズの可能性があると考え、宇宙ステーションや月面、衛星データなどを対象にその可能性を探索してきました。(No.1,2,3,4,5) これから、宇宙コモン

衛星データコモンズが拓く人類の未来

はじめに人工衛星は以前ご紹介しましたように(こちら)、気象衛星「ひまわり」などの地球観測衛星、カーナビなどの位置情報を提供する測位衛星、BS放送などを提供する通信衛星と、主に3つの形態があります。 現在、多数の衛星が地球低軌道に配置され、コモンズ(共有資産)としての宇宙空間や周波数に限りが出ており、新しいルールメイキング、ガバナンスが必要という点を以前(こちら)紹介しました。今回は、これら人工衛星から得られるデータが、はたして共有材として、デジタルコモンズとして地上で使わ

月面コモンズが拓く人類の未来

はじめに前号では、国際宇宙ステーションの運用がコモンズ成功の原則に合致し、国際協力のもと数10年にわたり平和に運用されていることや、宇宙食コモンズや水コモンズの宇宙飛行士との関わりについて見てきました。今回は、それらを参考にしつつ、月面コモンズの持続可能な利用について、その可能性を探っていきます。 月面産業の盛り上がり人類が再び月を目指す時代がやってきました。1969年のアポロ11号月面着陸から50年以上が経ち、米国主導のアルテミス計画などで再び人類が月面に戻ろうとしていま

コモンズとしての宇宙ステーション

はじめに 前号(リンク参照)では、宇宙デブリの課題などを通じて、コモンズ(共有財)利用の成功原則と宇宙利用の現状との比較や、宇宙コモンズのマッピングを行いました。今回は、人間が滞在する宇宙ステーションのコモンズについて、国際宇宙ステーションを参考にしながら、今後の民間宇宙ステーションの可能性や地上生活とのつながりを探っていきます。 2021年は宇宙旅行者の数(29人)が初めて、宇宙飛行士として宇宙に行った人の数(19人)を超えて、宇宙旅行元年とも呼ばれています。これまで宇宙

宇宙コモンズの探索

前号(リンク参照)では、コモンズとは何かを紹介いたしました。コモンズは、「国有」でも「私有」でもなく双方の特性をあわせもち、適切に管理されることで長く保全され、社会と個人にサステナビリティとウェルビーイングをもたらします。この考え(ソート)は、オストロム※により数千の実例と理論で実証され、未来を切り拓く新しいソートとして、コモンズ・ルネッサンスをもたらしました。その後、ニューコモンズも現れ、その1つである「グローバル・コモンズ」に南極や大気、海洋とともに「宇宙」がマッピングさ

コモンズとは何か ~宇宙コモンズの検討に向けて~

はじめに 宇宙事業の主体が国から民間へと世界的にシフトしている現在、宇宙空間や宇宙資源の使い方やルールメイキングも国家間だけでなく、国と企業、企業と企業、あるいは民間団体との対話も必要な時代になってきました。そのような中、地上社会では政府でもなく、民間でもなく、その双方の特性をあわせもつ共有財「コモンズ」という考え方が未来の社会を開く概念(ソート)として活用されています。本note宇宙マガジンでは、地上のコモンズと比較しながら、宇宙コモンズの可能性を探り、その未来像や課題を発

【図解コラム】私たちはデジタル情報をどのように電波や光で送っているか

民間企業による人工衛星を使ったビジネスによって、今後10、20年で市場が爆発的に広がると期待されている宇宙産業。さらに人工衛星の通信における媒体が「電波」から「光」へと変わると、地球上ではさらなる高速・大容量・低遅延の通信が実現すると言われています。  以前、IISE noteのコラム記事では「情報通信において電波と光にはそれぞれどんなメリットがあるのか」を紹介しました(記事リンク)。そもそも、私たちは普段スマホやPCで文字や音声、画像に映像と、さまざまなデータを送り合って

スペースXの背景にある米の支援構造 日本社会は宇宙ビジネスをどう支えるか?【『宇宙ベンチャーの時代』著者インタビュー】

世界で宇宙開発競争が激化するなか、2023年に日本政府はJAXAに10年で1兆円規模の「宇宙戦略基金」を設置することを発表した。民間企業や大学に宇宙開発のための資金を支援するもので、国内の宇宙ビジネスの活性化に期待がかかる一方、国内事業者からは「“補助金”で宇宙ビジネス市場が育つのだろうか」と懐疑的な声もあがっている。   宇宙産業においてベンチャー企業がビジネスの軌道に乗るまでには大きなリスクがあり、イーロン・マスク氏率いるスペースXが成長を遂げたのは、NASAによる新しい

OneWeb、Project Kuiper、中国政府……スターリンク以外の衛星コンステレーションの動向

急拡大する宇宙ビジネスの中で特に注目されている「衛星コンステレーション」。一定の軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、一体的に機能させるシステムを指しますが、中でも近年は米Space Xの「Starlink(スターリンク)」を筆頭に、高度200km~2000kmの軌道上に何百、何千、何万機と衛星を打ち上げて連携させる"低軌道・大規模”の衛星コンステレーションを各企業や政府が計画しており、関心が寄せられています。   Starlinkはすでに高度550kmの低軌道に5250機以上

なぜルクセンブルクは世界有数の宇宙ビジネス国家になりえたか

世界最大級の衛星通信企業であるSESが本社を構え、欧州最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「NewSpace Europe」を毎年開催するなど、世界の宇宙ビジネスにおいて大きな存在感を発揮しているルクセンブルク。 世界から宇宙分野の民間企業が70社以上集まっており、NASAから月への貨物輸送を委託されている日本の宇宙ベンチャー・ispaceも、2017年よりヨーロッパの事業開発拠点として同国にオフィスを構えています。 国土面積は神奈川県ほどという小国にもかかわらず、ルクセ

「必要なのは、衛星データが前提の社会デザイン」新しいルール構築に向けた、城戸彩乃さんの仲間づくり

宇宙ビジネスに取り組む企業の増加や衛星データ利活用の推進によって、宇宙産業は今後 より大きな発展が予想されています。そんな中で、将来的に宇宙ビジネスをより大きく育てていくため、携わる企業や人にとってはどういった取り組みが必要になるのでしょうか。 自身を「技術の翻訳者兼プレイヤー」とし、企業と連携した宇宙テクノロジーの社会実装に取り組んでいるのが、株式会社sorano me代表の城戸彩乃さん。同社は主に宇宙産業に関する業務支援やコンサルティングを行い、宇宙技術の利活用を考える

自動運転や防災・減災まで 地図アプリだけじゃない測位衛星の活用事例

自動車のカーナビゲーションシステムやスマートフォンの位置情報サービスに活用されている、衛星測位システム。アメリカによる28機の人口衛星からなる全地球測位システム「GPS」がおなじみですが、日本でも準天頂衛星システム「みちびき(Quasi-Zenith Satellite System、QZSS)」が、測位衛星4機体制で2018年から運用されています。 衛星測位システムは、複数の測位衛星から発信した電波を(スマートフォン等の)受信機が受け取り、測位衛星それぞれとの距離を測り受

環境問題解決に向けた先端技術、宇宙、資金~ASIA GREEN TECH SUMMITインタビュー~

IISEの野口聡一理事が、2024年3月8日にシンガポールで開催されたASIA GREEN TECH SUMMIT(日本経済新聞社・Financial Times共催)のキーノートインタビューに登壇しました。今回はこのキーノートインタビューの内容を報告します。 同イベントでは、アジア地域を中心とした各国のビジネスパーソンが参加し、アジアにおけるGXの方向性についての活発な議論が行われました。 キーノートインタビューのモデレーターは、日本経済新聞社の安藤淳編集委員が務められ

宇宙技術をいかにして生活に溶け込ませるか 北欧デンマークに学ぶ、オープンな社会実装プロセス

宇宙ビジネスの広がりにともなって、日常生活における「宇宙の利活用」が本格化することが予想されます。それによって生まれたインフラやテクノロジーを日常生活に浸透させていくためには、どういったプロセスが必要になるのでしょうか。 IT技術とテクノロジーの社会実装における成功例として注目されているのが、北欧・デンマークのスマートシティの事例です。ロスキレ大学准教授で北欧研究所の代表・安岡美佳さんは、デンマークによる技術実装の様子を、とても「さりげない」ものと表現します。 デンマーク