けいれんに遭遇したら:二次的脳損傷から脳を守るために 1. 症例紹介自宅でけいれん発作を起こし倒れているところを発見された高齢者。救急隊が到着時には、けいれんが続いており重度の意識障害(JCS 3桁)が遷延。酸素化の低下(SpO2 88%)もあり搬送。 2. けいれん重積は「Time is Brain」脳卒中と同様に、けいれん重積状態も時間との勝負です。発作が5分以上続く場合は「早期てんかん重積状態(early status epilepticus: SE)」とされ、即座
今回のテーマは「経口抗てんかん薬の使い分け」です。このテーマを考える上で重要なポイントは以下の三つです。 てんかんの診断が確実であること てんかんの分類や発作型が正確に把握されていること 合理的な薬剤選択を行うこと 確実な診断が全て てんかんの診断が確実であれば、自然と選択する薬剤が絞られてきます。これは感染症治療に似ており、感染臓器や起炎菌が想定できれば使用する薬剤が自ずと決まるのと同じです。そのため、診断と分類が確実であることが重要であり、次に合理的な薬剤選
心因性非てんかん発作(PNES)とは **心因性非てんかん発作(Psychogenic Nonepileptic Seizure:PNES)**は、「突然発生し、てんかん発作に似た精神的・身体的な症状で、身体的または生理学的な原因が認められないもの」を指します。かつては「偽発作(Pseudoseizure)」と呼ばれることもありましたが、これは「偽物」「本当の病気ではない」といった誤解を招く表現であり、適切ではありません。PNESは、例えば患者が自分をコントロールできなく
脳波を正しく読むという呪縛 どうやら私たちは「脳波は、正しく読まなければいけないもの」さらにいえば「正しく読める人しか脳波を読んではいけない」といった先入観にとらわれているように思います。ですが臨床の立場でいえば、決してそうではなく、むしろ深く読もうとしてはいけないのです。 例えばICUを回診中、突然のアラームとともに心室性細動っぽい波形を目にすれば、皆さんは脊髄反射的にサッと動き出すでしょう。決して「いや、私は不整脈の専門医ではないので…」とは言わないと思います。大事な
■「はじめての脳波トリアージ」の出版までもう少しなので、これからは救急脳波についてのアレコレを日々投稿したいと思います。 脳波を判読したことがある方はわかると思いますが、確かに難しいです。ですが、脳波を「正しく全部読もう」とするから難しくなるのであって、そもそも脳波の波形を全てを読む必要なんてありません。なぜなら救急の脳波でチェックすべきは2つしかないからです。それは ・てんかんがあるか(=spikeの有無) ・意識障害があるか(=背景活動の評価) の2つだけで。むし
今年最初に読んだ医学書はこれ 「正攻法ではないけれど 必ず書き上げられるはじめてのケースレポート論文」 もう、まさにタイトル通りで「必ず書きあげられる内容」の本でした。著者自身も述べているのですが、必要なのは「やる気」だけ。そのやる気さえあれば必要なmaterialが本書には見事に詰まっており、論文のpublishまでのプロセスを丁寧に導いてくれています。 何よりも、よし書いてみよう!というモチベーションがだんだんと上がっていくのが読んでいて自分でもわかりますので、本当
Periorbital petechiae または Periorbital Petechial Rash 突然出現した、無痛性でかゆみのない眼窩周囲の発疹 この写真の症例は 前日にアルコール摂取に関連して激しく嘔吐を数回繰り返したという病歴です。 嘔吐によるバルサルバ負荷がかかることで出現することが知られています。てんかんと失神の鑑別にも有用とされるこの所見ですが。発作中に声門が閉鎖し胸腔内圧の急激な上昇に伴う過剰なValsalva負荷での紫斑と考えられています。失神
側頭葉てんかんの術後発作消失と記憶障害 てんかんの術後のアウトカムはとても関心の高いテーマだと思います。今回は、手術成績の期待値が高い海馬硬化症HSを伴った側頭葉てんかんの術後アウトカムについて、そのHSのタイプ別に違いがあるかをシステマティックレビューされています。 簡単にまとめると、タイプ別での術後成績は「短期的には差はあるものの、長期的には違いはよくわからなかった」 また記憶障害については研究間で評価方法がバラバラだったこともあり質の高いエビデンスは見出せな
臨床に時間軸を すごくエッジのきいた文章で有名な河合先生の書籍。専門の睡眠の立場から、脳神経内科領域の様々な疾患を時間軸で分解し、臨床の総体を伝えてくれています。付箋をいっぱい貼っているのでお分かりだと思いますが、オススメです。研修医にはまだ早いかもしれませんが、意識が高い人には👍 研修医 ★★★★☆(ちょっと早い) 一般外来 ★★★★☆ 脳神経内科専門医 ★★★★★ 読みやすさ ★★★★★(キレのある文章好きにオススメ) 辞書的活用
こちらもオススメ 先日、山本大介先生の人気書籍を紹介しました。といっても私が紹介するまでもなくすでに有名な本ですが。こりずに今回もご高明な先生の書籍を勝手にオススメします。黒川勝己先生の「問診力で見逃さない神経症上(医学書院)」 タイトルからしてイケてますよね。 脳神経内科領域では視診と問診がとても大事で、最近では、少しそういったトラディショナルな側面が蔑ろにされつつある風潮があるにはあるんですが。やっぱり基本が大事です。実際に、その当たり前のことが臨床ではなかなか難
いい本はなぜ売れるのか? 病棟で研修医がプレゼンの準備をしていました。彼は1年目の研修医で、初めてのスライドを用いた症例提示の準備中です。こういう場合、ほとんどの研修医は例えばMRI画像の選択がイマイチだったりします。ですが、その研修医はDWI、ADC、FLAIR画像を綺麗に同じ高さで揃えて、期待を裏切りられました。しかも異常信号のある部位にもハイライトが示されており、いい感じです。教えることないので「いいじゃん、これ」というと「先生にお薦めされた本に書いてありましたから」
てんかん学会は『ピアノ演奏』がよかった 先月、3日間、東京での日本てんかん学会(総会)に参加してきました。いろいろ書くべきことが多くて整理できていませんが。とりあえず、一番良かったのは『ピアノ演奏の生演奏』でした。ポスター会場に入ると何やら心地のよいメロディーが聞こえてくるなーっと会場中央に吸い寄せれれると、ピアノの生演奏中でした。後で知ったのですが、松井琉成さんというピアニストの方。作曲や編集もされていて、こちらの曲もオリジナルだそうです。 完全に聞き入ってしまったので
最近、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」を提案すると関連学会が発表し、話題になったと思います。 てんかんは癲癇だった 実は、てんかんも昔は「癲癇」でしたが、漢字の癲癇は精神障害などの偏見に繋がりかねませんので、現在は平仮名表記が浸透しています。 抗てんかん薬から抗発作薬へ そして、てんかんの治療薬についてもILAEから最近提言がありました。従来よりてんかんの治療薬は抗てんかん薬(AED: antiepileptic drug)と記されてきましたが、ここにきて「
背景 頭部外傷とてんかんのリスク 外傷性脳損傷(TBI)の後遺症として、約3割の患者がてんかんを発症することが分かっています。 しかし、この発症リスクについてはまだ十分に理解されていません。 今回の試み そこで、脳波の所見に着目し、リスクの高い患者を予測する試みが行われました。 この研究では、PTE(Post-Traumatic Epilepsy)群27例と対照として健康な35名が抽出されています(PTEの発症までの平均時間は約7.2か月)。 脳波の解析により、P
「幼い頃に頭をぶつけましたが、てんかんの原因になりますか?」 小児での頭部外傷 小児での外傷性脳損傷TBIによる「入院」の発生は、10万人あたり8-70人とされています。 ですが、どの程度の確率でその後にてんかんを発症するのか、そのリスク因子は何か?などは成人とは異なり、まだよくわかっていません。 例えば、小児では虐待による偶発的な損傷もあり、また脳の発達段階や首の筋肉が発達段階に応じて、脳の受ける損傷度も異なるでしょうから成人とは状況が異なります。 実際に、小児で
てんかん合併妊娠 まず大事なことは「てんかん患者の大半は問題なく通常の妊娠出産が可能なこと」です。 もちろん、薬の調整など大事なことはありますが、それよりも「てんかんだから」とか「発作があるから」、「薬を飲んでいるから」という理由で妊娠・出産ができないということはありません。ここまでは社会常識です。 妊娠すると発作はどうなる? さて今回は、周産期に発作の頻度は変わるのか?という課題です。 昔から、報告によりまちまちではありますが、10-20%の症例で発作頻度は減少し