猫おやじ🐾死神の役目35
「誰だって死ぬ事がわかっていたら契約書にサインなんてしない。悪魔は不幸なひとを更に不幸にするのが楽しくて仕方ないんだ。」「じゃあ椿ちゃんはどうなったのよぉ!死にましたってさっき言ったわねぇ。それホントなの?」
ママは樋口さんに詰め寄りました。
「ママ、近づかない方がいいって!樋口さんゲロくさいんだから!」
ミケちゃんがママの腕を引っ張りました。
樋口さんはふんと鼻息をもらすとママに言いました。
「かわいそうだが、椿さんは死ななくてはならなかった…本来なら彼女はあと何十年か生きるはずでした。その寿命は願いと引き換えに悪魔に奪われたんです。あなたの店にこの間来たでしょう。灰色のなまぐさい客が。」
「なまぐさい?…あの不吉ななまぐさい男が椿ちゃんを死なせたのぉ?」
ママが唸るように言いました。
「ママはしきりになまぐさいって言ってたわよね。アタシはちょっと臭いかなと思ったくらいだったけど。」
ミケちゃんが言いました。
「あいつは生きながら腐りはじめてるんだ。ひとの命を無理矢理奪って不自然に存在しているから内部から腐ってきてるんだよ。ママさんは鼻がいい。感もいいな。」
ママとミケちゃんは顔を見合わせました。
「腐りはじめてるんだって…。」
ミケちゃんはいや〜な顔をしました。
「立ち話は疲れた。そろそろラーメン猫おやじに行きましょう。僕は寒いよ。」
樋口さんはふたりを促して歩き出しました。
ミケちゃんとママも樋口さんから少し離れて歩きました。
「そりゃあ、水をかぶったんだから冷えるでしょうよ。寒いのは当然よ。」
ミケちゃんが言いました。
「本当に冷たいな。少しは心配して下さいよ。ゲロを吐いた上に水をかぶったなんて最悪じゃないですか。」樋口さんが言いました。
「親父さんの家でお風呂借りたら?そういえば親父さんまだ寝込んでるの?ねこだけに。」
ミケちゃんはあまりにも疲れ過ぎてつい下らないシャレを言ってしまいました。
「まぁ、ねこだけに寝込んでますよ。親父さんは長年の心労と過労で。こねこちゃんのお父さんは悪魔の毒気に当てられて。」
樋口さんもシャレを普通に受けて答えました。
「こねこちゃんのお父さん、スナックあげはに行って悪魔に会ったのね…。だってお父さん帰って来るなり泡吹いてぶっ倒れたのよ。」
ミケちゃんは言いました。
「ねぇ〜。その黒田が椿ちゃんを死なせたんだったらあたし、絶対に許せないわぁ。樋口さん何とかならないのぉ。」
黙って考えてこんでいたママが言いました。
「だから、僕があいつをあの世送りにしないといけないんですよ。」
「なんで今まであの世送りにしなかったのよぉ。次々被害者が死んでるじゃないのぉ。」役立たず!」
ママのやり場のない怒りは樋口さんに向かいました。
「ママ。樋口さんに怒っても仕方ないわよ。悪質な犯罪者はずる賢いのよ。逃げ足も早いのよ。」
ミケちゃんがママをなだめました。
「まさか僕が黒田にここで出くわすと思ってなかったんですよ。ラーメン食べに猫おやじに行ったら、灰色の死神なんて話を聞くじゃないですか。黒田は全国をちょろちょろ逃げ回っていてまったく足取りが掴めなかったんですよ。死神仲間の間には黒田を見つけ次第即効処刑せよ、と指令がでてるんですよ。
だから見つけた死神が即刻、奴を殺らなきゃならないんですな。つまり僕が奴を処刑しなきゃならないんですよ。それから奴の魂を確実にあの世に送り届けなきゃならないんですよ。すごーく面倒くさい。嫌だなぁ。これで黒田にまた逃げられたら僕がむちゃくちゃ神様に叱られますよ。何百年死神やってるんだ!って。」
ぺらぺら樋口さんは話しました。
「え〜?もうアタシついていけない。そんな話。」
ミケちゃんは投げやりに言いました。
「あたし、お腹空いたわぁ。そういえばあたし死ぬほどお腹が空いてたのよねぇ〜。何か食べなきゃそろそろ死ぬわ!」
ママも投げやりに言いました。
ねこには今しかないのです。