
野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?を読んで
野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?──命と向きあう現場から (岩波ジュニア新書 988) 新書 – 2024/7/22
明治期の治山事業についてhttps://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/archives/tisan/tisan.html
■中高生への生物多様性入門度 ★★★★★
野生動物による人的被害等が起きると必ず出てくる「可哀想」問題をはじめとした生き物との距離のあり方を探るガイドブックといった趣の新書。
マングースのくだり以降は、大学時代に立ち会ったアライグマの殺処分を思い出しました。(筆者も同じような経験を学生時代にされていらっしゃったようです)
里山を代表する田や二次林といった、人間の活動をベースにした生物多様性だって、人間による採捕、採集圧ありきで維持されているものですし。(木材を燃料として使いすぎて江戸時代ははげ山が多かった)
これは個人的な見解ですが、人間もエコシステムの一つと考えると、殺したり、殺されたりするのも然るべきですが、愛着や価値観が個々で異なることから「かわいそう」が生まれてしまうのかもしれません。
爬虫類を飼育している人にとってコオロギやゴキブリは「餌」という価値観ですが、ゴキブリやコオロギが好きな人にとっては大切な価値を持った生き物。
ふわふわしたタヌキやアナグマは可愛いですが、農業を営む人々にとっては大切な野菜を荒らす敵にしか見えないでしょう。
価値を押し付けず、あらゆる視点に立って客観的な判断を持つことの大切さを改めて感じる一冊でした。
個人的に知見として学びを得た内容は以下です。
久米島におけるウミガメ大量死事件の裏側
網にかかったウミガメの数が多すぎて逃がしきれなかった故の問題。その背景を知ることで初めて問題の本質を知ることができる。
クサガメ近年の研究で外来種になっていた
ゆえにミシシッピアカミミガメ駆除するけどクサガメは放流している、という事実へのジレンマが生じている。
絶滅危惧種シャープゲンゴロウモドキ
このシャープゲンゴロウモドキを増やすためにはレッドリストのヤマアカガエルのオタマジャクシが必要な問題を解決するためにコオロギを利用する。コオロギは絶滅危惧種ではないので、ヤマアカガエルを利用しなくて済むのは良いですね(コオロギ可哀想問題は残る)
奄美大島に生えているハイビスカス
地元の人々にとって愛着があったけど世界自然遺産への登録の際に伐採が必要となった決断について
奄美大島に生息する(現在はしていた)マングースの根絶
減って捕まえられなくなってからが本番 なるほど。
最後に
パンダやトラといった、ある意味可愛かったり、格好良かったりする生き物って大切にされがちだけど、マニアックな昆虫が絶滅危惧種になっても見向きされないのも、大衆の価値観ベースでの可哀想ですよね。次回は「絶滅危惧の地味な虫たち (ちくま新書)」を読んでみようと思いました。