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『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』視聴メモ

※以下文章はネタバレを含む。個人の感想とメモであり、正確性を保証するものではない。

猛獣と密室二人きり大ピンチなB級映画みたいなものだと思ってた。
違った。もっと早く観れば良かった。面白い。
ある青年のユニークな半生が語られていき、その中でメインとなる事件がトラと暮らすことになった話。
その過程ではファンタジックなエピソードも挟まれる。

動物や生命についてもテーマの一つではある。
そしてブルー系の壁紙、風景、シャツなど色使いがとても綺麗でおしゃれ。

フランス系カナダ人作家ヤン・マーテルの小説原作。彼は外交官の父を持ち、世界中に居住や旅行の経験がある。
そのヤン・マーテルが作品に登場し、滞在先のインドで噂を聞いた青年パイを訪ね、その経験談の聞き手となる。

この映画は信仰というテーマについてもかなり踏み込んでいる。
主人公はヒンドゥー、キリスト、イスラム教を全部信仰しているという仰天の設定。矛盾こそする一方で、彼はともかくも世界を創造し人間を見つめている天なる存在に関心を持ちいつも身近に感じている。「神は『再び』自己紹介してきたんだ、今回はアッラーという名で。」という台詞がある。つまり各宗教のあらゆる神々は同一の存在だとみなしていると考えられる。彼なりの捉え方だが、一定の理屈は通っている。実際は複数信仰した状態では各宗教入信の許可はおりないとは言え、信じるのは勝手。成人した今はユダヤ教について教鞭を取っていることからも、彼にとって信仰はどれか一つを選ぶというものではないんだろう。
後から考えると、戒律が緩めである代表としての仏教徒クルーの存在も気になってくる。セーフラインの設定というかルールに対するコミット具合が全然違う。それにパイが動物も好きだし肉も食べないからこそトラと生活するという設定も成り立った。トラを倒して食うという選択肢がなくて済むし、草食や雑食動物と一緒だったら食べ物が被ってしまう。
ところでこの船は日本企業の貨物船だが、もしかしてみな日本人という設定なのか、気になる。食堂にいるのはみな同じような髪型をしたアジア人。
冒頭パイの作っているベジタリアン料理は美味しそうで、彼らの食事は多くの人が考えるよりずっと幅広くて自由だし、つい最近のブームとしてベジタリアンやヴィーガンを始めたような人たちとはレベルが違うんだろう。彼らには、白飯しかないということが議題なのであって、グレービーソースを食べるかどうかなどというのはそもそも議題にしていないし、なりえない。それを理解しない仏教徒が、食べませんかなどと軽々に提案してしまう。私もそう言いそうだ。
彼の父と兄は肉食、母親はベジタリアン、というそもそも入り混じった家族。奇妙な信仰スタイルのパイを母親だけは全然否定しないのが素晴らしい。父と兄はパイの信仰をからかい理屈でねじ伏せようとしたのは、効果を成さなかった。
それと、父とパイは考え方がかなり違うが、パイはそもそも父の話をあまり真剣に聞いてない。そのせいで深刻な不仲にならずに済んでいたと思う。
疑いを経ないと本当の信仰は得られないというパイのセリフも説得力がある。キリスト教の神父や、遭難のときも、なぜ神はその行為をしたのか意味を問い抗議している。別に出会う宗教を何でも受け入れてきたわけでは全くない。

このトラの性格や行動もとても良かった。襲われるのでは、服従できるのでは、懐かれるのでは、という予想を全部裏切る。考えを読むことなどできない。動物のリアル。

メモ
ポンディシェリ……英語表記はPondicherry。各国語での表記や発音は多様。ポンディチェリーとも。1954年までフランス領インドの首府だった。イングランドが植民地化した時代も非軍事的地域として存続。タミル語、英語、フランス語が話されている。ピシンも学校で英語やフランス語を学んでいる。幼い頃読むヒンドゥー教漫画も英語表記。イスラムにも入信したがアラビア語は話せない。
リヴィエラ……作中でポンディシェリを例えて使う。南フランスの海岸都市コート・ダジュールの呼び名。リヴィエラはイタリア語で海岸の意味だが、多くはこのコート・ダジュールのことを指す。
ピシン・モリトールスイミングプール……パリにあり、取り壊しの決定をくつがえし現在も複合施設として存在。客船をイメージした美しいデザインで有名。歴史建造物指定。
カバラ……成人したパイが大学で教えている。ユダヤ教の神秘思想。いわゆる旧約聖書とその口伝から始まった。他教が採用したものもありその場合はユダヤ教とは離れている。神の聖性の流出による10の要素とそれから分岐する22要素により世界が創造されている。その意味で多神教にも近い世界観とも言えるらしい。神は全ての生命に内在する。カバラに用いる解読法は、現在世俗化し運命占いにもなっている。
ムリダンガム……パイがダンス教室で演奏する太鼓。右手が高音、左手が低音。材料は木と皮など。現代の演奏家を見る限り金属部分もある。
ビンディ……ヒンドゥー教徒の女性が既婚かつ夫が存命の場合につける装飾。赤色。ヒンディー語で「点」。近年はファッション化しつつあり派手なシールなども豊富。男性がつけているのはティカ、ティラカと呼ぶ。こちらは宗教的意味合い。色や模様で宗派を表すことも。近年は中高年男性につける人が多く若者ではレア。
Pas de problème.……フランス語でNo Probremの意味。ベジタリアン料理はあるか聞かれた調理係が答えるシーン。

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