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第一次産業を担う女性のつくり手を育む 対話とネットワーク、本のお話

ものづくりのまち、燕三条地域には工場が集まって、たくさんのつくり手たちが生まれ活躍しています。そんな動きに目をこらし、丁寧に集め、つなぎ合わせる。まちを新しく編集する視点で日本有数の産地に訪れた。

SANJOPUBLISHING連載「掌に、産業を」

ものづくりのまち、燕三条地域が産地と呼ばれる所以を考えてみよう。ちいさな地域でメーカーと工場との横のつながりが構築されているところだろう。今でいうとネットワークともいえ、企画から設計、素材選び、加工、仕上げまでそれぞれ分業できる仕組みが挙げられる。

デジタルデバイスが登場してからさらにネットワークが拡張する一方で、代替が利かないものとはなんだろう。あたらしい自己への出会いとは、自分を見つめ直して分析することが必要だ。

ここは、三条市大面。

三条市のお隣、見附市にほぼ近い場所で人と人とのネットワークを活かしたものづくりの話を聞き、深く考えさせられた。その舞台が、カネコ総業株式会社(以下、カネコ総業)。木槌を中心に園芸でつかわれる鍬や鎌をはじめ生活に必要な道具を製造販売する創業1957年から続くメーカーだ。

カネコ総業はもともと、工具類の柄の加工から始まり、鍬の頭部などを仕入れ、製品化まで行えるよう技術を得てきた。現在、農林水産省が行う農業女子プロジェクトにも参画し、日本各地で農業の担い手として働く女性たちからヒアリングし、共同開発を進めて商品発表も行なっている。

農業女子プロジェクトとは、女性農業者が新たな商品やサービス・情報を社会に広く発信し、農業で活躍する女性の姿を多くの皆様に知っていただくための取り組み。

創業当時、木工屋として加工業から始まった私たちの元には、「この材料(道具の柄)でつくってくれないか」と金物屋さんが尋ねてきたものです。そこから、現在に至っては、農家さん自身が直接工場を訪れ、ご自身がつかう道具について相談をいただくことも。私たちは、その想いに応え続けてきました。

穏やかな表情を浮かべながら語るのは、カネコ総業の取締役部長の金子昇さん。三条市に長らく根を張りながら燕三条地域、ひいては日本各地に木工ネットワークを築いてきたカネコ総業の姿勢から唯一無二とは何かを探る。

金子昇さんの人物像を探るための一冊

「経営について考えたり、学力や人間関係について学んだりする根本には自己を見つめ直して分析することが大切なのではと考えました」

書籍:あたらしい自己への出発 ―マネージメントのためのTA―
著者:岡野嘉宏さん、多田徹佑さん
刊行:社会産業教育研究所出版部

金子昇さんの推し本について

道具の見方を変える

カネコ総業と関わりが深い農業とものづくり。土地の恵みを生む農と農家にとって、地域の気候や湿度、温度は農産物の良し悪しに直結する大事な事柄。新潟県においても、豪雪地帯と海辺の近くでは農産物の種別や品種が異なるのは当たり前のこと。道具も同じく、土地の環境条件によって使い勝手が左右されることも当然出てくる。 

金子:私たちがつくる道具は1400近くあるうち、鍬や鎌については地方別でつくりました。なぜなら、その地域に適した道具がそれぞれ違うからです。私自身、商品開発において西日本から北海道まで地方行脚し、その土地に合う道具づくりを現地で調べ、ときに人に教えてもらいながら情報を集めてきました。ひと昔までは地場をよく知る鍛冶屋さんがその役割を担っていました。

金子:しかし、日本各地で鍛冶屋さんの少なくなり、また製品品質の均一化によって地場に合う合わない道具の存在さえ知らない人も増えてきました。だから、私たちがネットワークを活かし、本来の地域に合うもの、北海道なら北海道に適した道具づくりを。こうして、顔と顔を突き合わせて得てきた情報をもとに製品に落とし込んできたのです。

つかい手とつくり手の関係性を知る

カネコ総業は加工を生業にしてきたからこそ、鍛冶屋さんや問屋さんの要望に対して応えてきた。「これ(鎌の刃部)に合う柄、いただけませんか」と、素材一つひとつの調達に培われてきた横のつながりが活かされてきた。さらにいえば、と金子さんが地元三条市の強みについて教えてくれた。

カネコ総業の工場は、近くで廃校となった学校の木材を活かしている。

金子:三条市では有難いことに鍛冶屋さんやプレス屋さん、塗装屋さんも点在しています。要は、ものづくりに必要とされる工程も素材もすべて地域内で揃えられるんです。全国を巡ってみて、地域内で完結できるネットワークはほとんどない。しかも、農家さん自身も三条市では健在ですし、工場に訪れることができるなんて、他の地域では聞きません。

渡辺:さらに、日本各地から鉄やアルミ等の素材を集められるのは本当にありがたいです。

金子:農業女子プロジェクトにおいても、この地域のネットワークが強みとなって参画への後押しとなりました。私にとってネットワークを通して、いい情報と素材を集め、商品開発に活かせるのが一番たのしい。2015年頃からコロナ禍前まではプロジェクトを契機に、日本各地を飛び回って農業に携わる女性たちに会いに行き、リアルな声を聞いてきました。
 
例を挙げるなら農業女性たちからは、「持ちやすいように軽くて、よく切れるもの」とお題をもらったことがあります。燕三条地域でも適した素材を探しましたが、鎌であれば三木市に。鍬であれば九州地方に1軒ありました。人と人との関わりの上で商売が成り立っていますから、ときには会い、本当に求めているかたちで応えることを大切にしています。

渡辺:人と人との関わりでいうならば、プロジェクトを通して彼女たちの農業への姿勢に感銘することがありました。私たち、子育て世代の農業や第一次産業の担い手が減っています。
 
そんな中でも、私もプロジェクトに関わっていくうちに出会う若手農家さんたちが、普段から工夫する点や成果が上がった方法を積極的に情報共有していることを知りました。正直、自分だけで有益な情報をとどめておいたら得するかもしれないのに……
 
私たちも、彼女たちの取り組みからより一層農業に還元できないかと考え、そうした想いの輪が広がって、私たち世代から農家で働きたいと思える人が増えたらとうれしいです。

人と人との絆がネットワークから醸し出すとき 

では、農業女子プロジェクトとカネコ総業の商品開発の日々に目を向けてみよう。
 
商品企画から実際に日本各地から素材を集め、加工、仕上げまで即製品化はむずかしい。カネコ総業が手がけた「Lacuno(ラクーノ)」では製品企画から1年、製品によっては2年近く掛かっている。その分、農業女子プロジェクトのメンバーたちのこだわりが再現されたものとなった。

金子:プロジェクトに参画する延べ800人のうち、熱量が高い50名からさまざまなアイデアをもらいました。柄ひとつとっても、女性の手の大きさに合うようにサイズを既製品より細く、持ちやすいかたちで疲れにくさを実現しました。他にも、掘った深さや間隔を知れるように30センチ、40センチと目印をつけています。

渡辺:わたし自身、前職で子どもたちと接することが多く、鍬の長さをその子の成長にあわせて変えられることも女性ならではの視点でした。他にも、作業中に粘土質の土がショベルの金属部分から剥がれやすいようにと桜の切り抜きを入れたり。こだわりが詰まっています。

金子:ゆくゆくは、農業に関わらず第一次産業に携わる人たちにむけて、道具のメンテンスが行える場をつくっていきたいと考えています。意外とメンテナンス方法を知らない方も多いですし。新潟県はもちろんプロジェクトへの参加者が多い地域に住む人にも、手入れ教室やセミナーを行なっていきたい。

金子:ホームセンターやインターネットを始め、道具を買う売ることは便利に、より手軽になっていく一方、その担い手のみなさんとの関わりが気薄にもなっていると感じます。メンテナンスや柄の入れ直し、修理を行っていく中で人と人との本来の関わり方を見つめ直していけたら、私たちが目指す方向性とも合っています。

三条市では、新潟地震や水害を乗り越えてきた経験から、人と人との関わりが色濃く残り、つながりを重んじ、人と人とが助けあう歴史がある。そんな地場で培われた人間性とネットワークが混ざり合う世界線もまた見てみたい。

金子:人と人との強い絆。地場で育まれたあたらしい関係性を道具に込めて。世界各地に広められたと願っています。

取材先

カネコ総業株式会社
〒959-1113 新潟県三条市大面65
TEL:0256-45-2249
FAX:0256-45-5036

SANJOPUBLISHING編集部:
SANJO PUBLISHING 制作部担当:水澤陽介
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