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【第330回】近年の輸入減少下でも増えている野菜 ニンジン/ネギ/インゲン/ハクサイ

23年の生鮮野菜の輸入量は速報値累計で約65万t。やはり最低だった前年よりさらに10%程度減った。単価も150円で5年連続前年比が100%超。高いものが増えたのではなく、業務用国産化の活発化と、円安傾向が要因だ。そんななかで前年より増加した品目もある。年間を通じて増えた理由、その月に発生した特殊な事情などを、輸入統計を東京市場のデータと対照しながら追ってみよう。
※4グラフとも23年の貿易統計にもとづく(いつもの東京市場のデータではない)


ニンジン/輸入28%増。太物中心に7t取りなら国産も対抗可

【概況】ニンジンは毎年、毎月、コンスタントに輸入は増え、どうやら定着化したようだ。22年は約8万tだったが、23年は9万tに迫り増加率28%。正確に言えば、6月の輸入は前年並みで7月には7%減っている。東京市場におけるニンジンの推移をみると、他の月は判で押したように「入荷減の単価高」だが、5月は3%の入荷増ながら20%高くなり、6月は13%の入荷増で9%安、7月の入荷は前年並みながら単価は13%安である。

ニンジン

【背景】関東の主産地千葉中心に5~6月に終盤を迎えて数量を増やしたことと、7月には一気に夏秋産地の青森、北海道に切り替わったが遅れ気味で、千葉の残荷も品質悪く「減・安」だった。また11~12月にかけての関東産地の作柄が思わしくなく、輸入品は前年比57~67%増となった。東京市場においても中国産が前年より3倍近く入荷。生鮮ニンジンの輸入は、ほぼ全部が業務加工用だが、国内市場が逼迫すると急遽、市場出荷している。ただし市場で品ぞろえする業務用としてである。

【今後の推移】ニンジンの輸入が定着化する大きな理由は、輸入単価が50円前後(通関時申告)で、国産品に比べると半分以下だから。また、中国産の通年で定時・定量・定価格という安定性が業務加工需要に歓迎される。中国のニンジン生産面積は約15万ha、全中国の収穫量1800万t。日本向けでは主産地の山東省だけで250万t、どんなサイズでも出荷でき、日本マーケットに対する迅速な輸出対応を可能にしている。国産で代替するなら太物を反収7t程度生産することだ。

ネギ/日本向け生産団地を整備した中国が“48番目の産地”に

【概況】日本マーケットはニンジン以上に中国産ネギを必要としており、毎年5~6万tを輸入している。23年では、6~7月に前年を下回ったが、他の月は軒並み増えていて、年間では25%増となった。増えた要因はインバウンドを中心にした業務需要用の復活、拡大である。国産ではどうしても産地リレーで調達する必要があるが、中国産なら注文した分は過不足なく供給される。ちなみに世界のネギ生産第1位は中国の83万t、第2位は日本の55万t。

ネギ


【背景】東京市場の動向をみると、1、2月は入荷やや増で単価も前年並みだが4、5月と減って安くなり、6月には入荷を増やして単価も前年並みに戻った。だが、7、8月は4~6%程度増えて1割程度の安値、9月以降は2割前後の入荷減で2割前後の単価高で推移した。一方輸入ネギは、6、7月に5%前後減っているものの、市場での入荷動向に代表される国内生産の豊凶に振りまわされているわけではない。輸入ネギは加工業務用で、一般家庭向けには売っていない。

【今後の推移】タマネギと長ネギ、最近ではニンジンについても、中国が“48番目の産地”になった。ネギに関しては中国からの輸出対象国として日本は8割のシェアがある。山東省や福建省には日本向けの生産団地が整備され、山東省では青島の港まで毎日複数台の10tトラックが定期便として走っている。15haごとに農薬検査担当者1人が必置化。出荷前の地元保健所への届け出、荷積み港での輸出検査、日本での検疫と最低4回の農薬検査をクリアする。安心・安全も中国産の謳い文句だ。

インゲン/沖縄が本格的産地化すれば輸入は漸減する

【概況】 生鮮と冷凍、調製品を含めると日本はインゲンを2万5000tも輸入している。圧倒的に冷凍品が多い。輸出国は中東のオマーンが日本向けに特化した大規模生産をしており、生鮮品ではオマーン産が9割以上を占める。輸入時期は12月から始まり、2月がピークで3月まで。沖縄・鹿児島産が本格化する4月以降は抑制される。春を告げる促成野菜として一定量の業務用“鉄板需要”を担うオマーンは、沖縄、鹿児島とともに重要産地だ。

インゲン

【背景】23年においては、このオマーン産が1月は8割増、2月は2.4倍、3月も79%も増えている。日本向けインゲンを専作しているオマーンでは、日本マーケットの過不足に敏感に反応できる体制が整っており、空輸時間も、マスカットからハブ空港のドバイまで1時間15分、ドバイから羽田までは9時間45分と「即対応」できる。この時期はとくに、入荷を微調整する必要があるが、冷凍品では米国産やタイ産、中国産が参入しているものの、いずれも生鮮では対応できない。

【今後の推移】近年、オマーン産への依存は低下気味である。地理的には日本列島で最も早出し産地であるべき沖縄産がずいぶん成長してきたからだ。かつて沖縄は、つま物用の極細インゲン産地だった。本格出荷は3月以降の鹿児島産まで待つしかなかったのだが、近年沖縄では、通常インゲンからサーベル系の幅広インゲンまで本格的な供給体制が整ってきた。そのため、需要が拡大している幅広系が周年需要に対応できるようになった。この傾向が続けば、輸入は漸減していくだろう。

ハクサイ/国内市場との連動性なし。毎月輸入数量が変わる不思議

【概況】 ハクサイの輸入は、年ごとに変わる。どの月が多い少ないという“傾向”もないが、過去10年来、少量であっても毎月必ず輸入実績を残している(グラフで前年比が出ていない月は、前年の22年に輸入がなかったか、1t未満だったから)。4月には前年の3.5倍、5月には7.5倍の輸入があった。流通量が少なかったためかと思いきや、東京市場では4月ほぼ100%、主産地の茨城産は10%の入荷減で13%の単価高。5月などは7%増、15%高。

ハクサイ

【背景】4月は茨城産のシェアが92%まで落ちてシーズン終盤に入ったが、夏の産地・長野産も始まって、やや高ながら潤沢な出回りだ。その月に輸入が7.5倍になった整合性がない。輸入が前年の8倍に増えた10月にも、まだ84%のシェアがある終盤の長野産が13%増。しかし播種が遅れた茨城産が大きく前年を割っていたので、全体では8%減で37%高い。10月といえば、確かに需要期が始まったばかりの月だが、かなりの高騰だとはいえ、緊急輸入するほどの必然性は低い。

【今後の推移】かつてと違って近年のハクサイ輸入は市場出荷を前提にしたものではない。東京市場では産地統計として中国産は含まれていない。もちろんスーパーなどでは中国産はあり得ないし、市場で品ぞろえをする中小の飲食店向けでもない。23年の統計をみる限り、一番多い月で120t程度、少ない月だと9t。中国系の輸入販売会社や加工会社で、他の野菜を輸入する“ついでに”安い中国産を混載しているのか。それにつけても中国はもうLINE一本で輸入できる産地になった。


『農業経営者』2024年3月号


【著者】小林 彰一(こばやし しょういち)
流通ジャーナリスト
青果物など農産物流通が専門。㈱農経企画情報センター代表取締役。
「農経マーケティング・システムズ」を主宰、オピニオン情報紙『新感性』、月刊『農林リサーチ』を発行。
著書に『日本を襲う外国青果物』『レポート青果物の市場外流通』『野菜のおいしさランキング』などがあるほか、生産、流通関係紙誌での執筆多数。

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