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【第336回】入荷増野菜類の背景に何があったか ズッキーニ/サニーレタス/マッシュルーム/カリフラワー

今回は、この10年で東京市場への入荷が増えた野菜を取り上げた。最近のコメや野菜の品薄・高騰とはどう関係しているのだろうか。ただ、統計データだけを鵜呑みにすると実態を見誤る可能性がある。背景に市場を経由しない相対取引が隠れているかもしれない。輸入の増減も関わってくる。ひとくちに増加といっても、10年間の流れは一様ではない。浮き沈みや逆転があったりする。それを分析して今後に備えたい。
※4グラフとも東京都中央卸売市場の統計データをもとに作図


ズッキーニ/10年で東京市場は4割入荷増、明らかな増産体制

【概況】東京市場に入荷するズッキーニを、この10年間で比較してみると、数量は4割増近い138%、単価はやや下がった程度の93%となり、明らかな増産体制にある。4月ごろから増え始め、6月のピークを経て9月ごろまでがシーズンで、主産地は10年間で1割程度出荷が増えた長野産(12~3月の厳寒期には出荷がほぼない)。産地シェアは26%。主産地のひとつである宮崎産も年間シェアは同率だが、7~9月の夏季には生産出荷はない。

ズッキーニ

【背景】日本で産地化が最も早かったのは、春カボチャの産地だった宮崎だが、過去10年間で出荷量はほとんど変化がない。一方で新しく計画的に産地形成してきた長野は、10年間で出荷量を1割程度増やしたものの、茨城など近郊産地や岩手などの夏秋産地が徐々に出荷を増やしてきたため、シェアは33%から下げた。出荷しているのは27道府県。ただし、国産が急成長しているために、10年前にはニュージーランド、韓国、メキシコなどで数%あった輸入品は、いまは全く入荷なし。

【今後の推移】かつて昭和50年代に初めて輸入されたズッキーニは、イタリア料理店など一部の業務向けだったが、本格的な料理材料として根強い需要があり、近郊の促成産地や、宮崎など促成の春カボチャ産地がズッキーニを導入した。現在の数量になったのは、外食で実際食べたり、韓国でスープ物として定着しているのを知った人が増えてから。天ぷらにしてもナスのような食感で使い勝手がいいと認知された。長野が夏場の戦略品目として増産、潤沢に出荷してきたことも大きい。

サニーレタス/1万tを超えて産地リレー、長野産は入荷4割増

【概況】東京市場のサニーレタス入荷は、10年前に比べて数量で119%、単価はほぼ変わらない。産地別に見ると、茨城はほぼ変わらないが福岡12%、長野は40%も増えている。2割もの増加は瞬間的なものではなく、12カ月すべてにわたる。一般的にレタス類は春から夏までが入荷ピークだが、サニーレタスは業務用中心に年間を通じて需要が安定していることがわかる。キロ単価は月によって波はあっても、年間を平均するとほぼ変わらない。

サニーレタス

【背景】この入荷増は産地シェアを比べるとよくわかる。10年前は主産地長野が38%、茨城27%、福岡12%、以下静岡、愛知など。これが直近1年では茨城、福岡などはほぼ同じだが、トップ長野は7ポイントも増え45%になっている。主要品目としての地位を固めるため計画的に生産振興した結果だ。全農長野はかねてからスーパーや業務用大手に対して、全農青果流通センターや卸売市場の予約相対取引などを利用して、契約的生産流通、実質的な産直の割合を高めてきた。

【今後の推移】この10年間比較をレタス類に拡大すると、全体で21%減少した。要因はレタス類の8割を占める結球レタスがこの間13%減ったから。ロメインレタスなどは微増だが、ひとり増えているのはサニーレタスだけ。そのうえ、年間1万tを超える数量が入荷する品目は、産地リレー体制も整って供給が安定、業務需要からの支持が高いため。食味や見た目などを総合すると、グリーンリーフレタスのほうが、食材として優れていると思うが、まだ安定性や食味に問題がある。

マッシュルーム/キノコの成長品目、食文化の成熟で本格食材に

【概況】 東京市場のマッシュルームは10年前に比べ、入荷量109%、単価112%。増えて高くなったなら、業務用の増勢に加え小売店での定番アイテム化を意味する。産地は関東では伝統的に千葉、茨城が多いが、西の産地は岡山、兵庫など。10年前の入荷シェアは、千葉46%、岡山27%、茨城22%が“御三家”。直近では入荷量が2倍になった茨城41%、やや減らした千葉38%、兵庫9%に。岡山は関西市場に切り替えたか東京市場への入荷を減らした。

マッシュルーム

【背景】年間を通じてコンスタントに入荷するが、冬場がやや高いのは家庭でシチューなど煮物に使うケースが増えるから。他のキノコも冬場が需要期だが、マッシュルームは鍋には使わない。いわゆる洋食専用で揺るがない需要がある。家庭向けとして近年増えている、傘の大きい「ブラウンマッシュルーム」は、かつてカナダから輸入されていた時期もあったが、現在ではすべて国産化した。マッシュルームの入荷の伸びはこのブラウンマッシュの伸びとシンクロしている。

【今後の推移】マッシュルームは「キノコ類」のなかでは1割強程度のもの、とバカにしてはならない。伝統的に和食の生シイタケ、洋食のマッシュルームといわれ、需要は底堅い。現在の家庭用マッシュルームは、昭和の終わりからバブル期にかけて、国産も輸入も増えて一種のブームになった。その時に消費を経験した世代が親になり、子供たちにも食べさせて、彼らに「洋食系料理の必須材料」という“刷り込み”がされたと見る。日本人の食文化は成熟し、より本物志向が強くなっている。

カリフラワー/新興産地として熊本が名乗り、ミニ化や多品種化へ

【概況】 東京市場のカリフラワーは、10年間で22%も増え4200tを超え、単価も3%高に。10年前のシェアは長野17%、茨城15%、福岡10%で、洋菜産地や近郊産地が“ついでに作っている”感があった。その後の入荷増をもたらしたのは品種の多様化。サイズの小さい品種や、とんがりコーンのような「ロマネスコ」、オレンジや紫の品種が小売店での品揃え用として結構マメに栽培されている。一方で従来の大玉は業務用で支持されている。

カリフラワー

【背景】10年で22%増えたことになっているが、直近の1年の入荷状況が関係しているようだ。10年前対比で23年11月が193%、12月が235%、24年1月が160%だが、2月以降は平年並みに戻っている。この突然の増加は、熊本のブロッコリー産地を中心に、11~2月にかけてカリフラワー生産・出荷を拡大したため。10年で熊本は東京市場への出荷が3倍に伸び、トップだった長野と肩を並べるほどに成長した。夏の長野と冬の熊本が柱を作れば、近郊産地や洋菜産地がリレーする。

【今後の推移】一時、ブロッコリーの輸入が7万tを超え、一般家庭のカリフラワー需要が激減した。減った一般需要をなんとか復活させようと、産地の努力と卸売会社などからのアドバイスもあって、サイズの小さい品種が栽培されるようになった。小売店では大玉を半分にカットしてラップする方法で商品化していたために、このミニサイズは歓迎されたが消費がついてこなかった。現在の多品種化は戦国状態だが、産地としては普及、PRを兼ねて辛抱強く供給してみる必要はある。

『農業経営者』2024年9月号


【著者】小林 彰一(こばやし しょういち)
流通ジャーナリスト
青果物など農産物流通が専門。㈱農経企画情報センター代表取締役。
「農経マーケティング・システムズ」を主宰、オピニオン情報紙『新感性』、月刊『農林リサーチ』を発行。
著書に『日本を襲う外国青果物』『レポート青果物の市場外流通』『野菜のおいしさランキング』などがあるほか、生産、流通関係紙誌での執筆多数。

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