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【第100回】軽いノリの安請け合いがもたらしたもの
農繁期真っ只中に舞い込んだカルボナーラのリクエスト 賄い程度に作ったものでは合格点をいただけない まして和食コースでの提供となると…… 予約3日前になって慌ただしく試作が始まった
数ヶ月前
「君たちの作ったカルボナーラが食べてみたいんだけどできる?」
息子たちがレストランを受け持つようになって以来
彼らの様々なこだわりに
惚れ込んで
毎月のように通っていただいているお客様から
そんな要望がありました。
小さな頃から食べ物といえば
ジャンル問わずなんでも作ってきたので
もちろんカルボナーラも作った経験があり
「いいですよ! 次のご予約の時お作りしましょう」
とあまり深く考えず
その場の勢いで即答しました。
しかしよくよく考えてみると
リクエストいただいたお客様は食べ歩きが大好き
国内の有名レストランはもちろん
美味しいパスタのためならイタリアまで足を延ばすような方なので
彼らが賄い程度に作ったものでは
合格点がいただけないのは想像に易く
ちょっとこれは大変なことになったぞ
気合い入れて試作をしなければ
と思いつつも
限界集落は農繁期真っ只中。
何もできないまま
あっという間に時は流れ
気がつけば予約の3日前。
慌てて取り寄せておいた
イタリアのパスタ用小麦粉を用いて試作をしますが
レストランでは和食をベースに
コースとして食事を提供しているため
彼らの作るカルボナーラ自体は悪くないのですが
コースの流れとして
かなり違和感がありました。
![](https://assets.st-note.com/img/1738656486-QWOqdFaePvp2XkRCuV8Zl7JM.png?width=1200)
考えた末に
具材に使う豚肉の塩漬けを
猪肉で自作
隠し味に出し汁を加えるなど
前日まで試作が続きますが
まだなにかが足りません。
一時は諦めて延期してもらおうかと思いましたが
一度引き受けた以上
当日ギリギリまで
頑張ってみようということになりました。
ふと
友人が国産小麦を自家製粉してパン屋を営んでいることを思い出し
神戸市まで車を飛ばして粉を分けてもらいました。
その挽きたての国産小麦を使ってパスタを打ってみたところ
他のメニューと味につながりが出てなんとか光が見えてきました。
しかしコース料理となると
味だけではなく
盛り付けや提供方法も考えなければなりません。
通常パスタはフォークで食べますが和食器を使い
お箸で美味しく食べていただけるよう盛り付けを工夫しました。
カルボナーラで
重要なアクセントとなる黒胡椒の使い方も
敢えてペッパーミルを使わず
お客様の前で
包丁を使って砕くという演出で
刃物にこだわる自分たちらしさも表現。
![](https://assets.st-note.com/img/1738656519-6tVDJXa0xBgpeSoqZITFuNyc.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1738656532-nbfNPxy1GVW8wA5jK2Tg9Jm0.png)
ほぼ徹夜のような
状態で迎えた当日
リクエストいただいた食通のお客様に
「本場イタリアのものより美味しい!」
との評価もいただき
ほっと胸を撫で下ろしました。
![](https://assets.st-note.com/img/1738656358-DE6HtkRshq79uwTGSpQymaOW.png)
今回非常に大変だったので
安請け合いをしてはいけないなと思いましたが
いつも通りに過ごしていれば
あまり出会わない新たな課題に直面したり
期限というプレッシャーの中で
最後の最後まで諦めずに考え抜くということを通して
色んな意味で
大きく成長できたので
難しそうな課題も
できるかできないか
あまり深く考えず
軽いノリや勢いで
「やります!」
と引き受けてしまうようなことも
時には大切だと思いました。
『農業経営者』2024年7月号
【著者】山本 晋也(やまもと しんや)
1968年、京都生まれ。美術大学を卒業して渡米後、京都で現代美術作家として活動しながらオーガニックレストランを経営。食材調達のため畑も始める。結婚して3人の子どもを授かったところ、農業生産法人みわ・ダッシュ村の清水三雄と出会い、福知山市の限界集落に移住。廃屋を修繕しながら家族で自給自足を目指す。現在、みわ・ダッシュ村副村長。