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【第338回】猛暑ダブルパンチに襲われた野菜の動向 ハクサイ/キュウリ/オクラ/ニガウリ
2023年に続いて24年も夏の猛暑はすさまじかった。とくに今年は10月まで夏日に。東京市場の入荷動向を追ってみると、7月中旬から前年同様の高値スタート。以降も入荷減が続いている。東北・北海道産は10月に入ってからも入荷が途切れず、関東産の不作をカバーするかたちになった。2年連続の猛暑に見舞われたなかで、野菜の産地はどう対応したのか、市場動向はどうなったのか。
※4グラフとも東京都中央卸売市場の統計データをもとに作図
ハクサイ/今年は6月から不足状態、安価野菜の地位を守れ
【概況】この1年の東京市場ハクサイは前年対比で数量96%、単価114%。今年も23年同様の気候で推移するとは誰も思わなかっただろう。23年は、11月の本格的な需要期に入ると、作が改善して安定化した。しかし今年は、土づくりや作型なども工夫したはずだが、早くも6月で数量88%、単価も106%と上げ始めた。これからの本格シーズンは品不足と高値で推移しそうだ。それにしてもハクサイ需要の周年化はちょっと驚く。
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【背景】今年度に出荷が増えた県は群馬くらい。高かった年の翌年は作付けも増やすのが普通の対応であり、ハクサイは一部商人が投機的な扱いをするため、流通が減ったのは、やはり“猛暑のダブルパンチ”の影響である。24年6~7月に中国産が入荷したのは、茨城から長野に替わる端境期にあって、顧客からの予約相対取引などのためだろう。ハクサイはかつて特別指定野菜であったため、大きな不足が生じたときには、政府が外国から買い付けて国民の食を守ったものだ。
【今後の推移】ここ2~3年の「慢性野菜高」傾向からすると、ハクサイはいつも安い野菜という地位を得ており、そこに一般家庭需要が発生した。果実類の日常的な単価高は、野菜にも伝播したかのようだ。そこには、担い手不足の生産現場や運賃の値上がりなどの構造的な問題と、猛暑や線状降水帯などによる水害の多発などが関与している。こうした安くて量増した野菜は、高く売ればいいという品目ではなく、つねにコストを見直し、消費者に添うことが大切だ。
キュウリ/関東産地はかなりのダメージ、唯一北海道だけが入荷増
【概況】夏が好きなはずのキュウリも、さすがの猛暑続きには参っているようだ。この一年は前年の94%、単価も114%と高い。23年は10月には正常化したが、今年はもう5月の時点で、数量92%、単価130%になった。昨年は10月に立ち直ったが、今年は10月中旬現在入荷82%。主産地が北上しても、関東では生産を続ける産地は少なくない。東北・北海道産がまだあるにもかかわらず、関東産地における夏のダメージの大きさがここから分かる。
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【背景】大方の産地が出荷を減らすなかで、夏秋主産地の福島も、8月の東京市場シェアが半分あり単価も高いが、前年実績から3%減らした。しかし唯一増えた産地がある。まだ東京市場で482tと少ないが、23年より38%増えた北海道である。温暖化のため適温が北上しているが、キュウリも同様なのだろう。なお福島は、他品目がまだ福島産ゆえに他産地より単価安にとどまる一方で、キュウリだけは、その圧倒的なシェアゆえに、東京市場のキュウリ平均単価より5%は確実に高い。
【今後の推移】夏場のキュウリには、体温を下げるという瓜類共通の特性がある。その機能性を生かして、東北6県では夏場に“キュウリを食べて涼しくなろう”「キュウリビズ」という共同宣伝をしている。たくさん出回って安くなる時期に「〇〇産」で差別化を図るのはナンセンスだが、共同PRの意義と効果は大きい。猛暑そのものは珍しくないものの、それが連続するリスク、とりわけ栽培適地や高温耐性の品種の開発などの中長期的な対応が迫られていることを忘れてはならない。
オクラ/猛暑続きでも大勢不変、伸びしろある未来型野菜なのに
【概況】オクラは2年続きの猛暑にあまり反応していない。年間単価は変わらず、入荷量も変動2%程度。暑さに強いことは事実で、鹿児島と沖縄とで合計すると、東京市場の入荷量の半分を占める。輸入先はフィリピンとタイだが、合計しても市場入荷量のうち1割程度だ。ほぼ毎月入荷するが、国産がピークになる8月だけは入荷がない。国産では北海道からも入荷するが、やはり東北同様にごくわずか。ただ群馬県は東日本では一番の数量がある。
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【背景】そんななかで、茨城と栃木が、マーケット情報をもとにした比較的に新しい対応をみせている。わずかながら出荷を増やしている動きは注目だ。不思議なことに、まだまだ伸びしろがあるオクラ栽培にチャレンジする産地が少ない。露地で試作して病気が出たので、意外に難しいなどと言っている生産者もいる。輸入品は国産に負けない品質保持やパッケージ技術がある。そこには日本のノウハウが入っている。そのためか中国産野菜に対するような反発はあまりない。
【今後の推移】オクラのPRや産地宣伝を見たことがない。一定量売れればそれでいいと思っているのか、オクラが小売商材になったときから、包装方法や入れ数は変わらず、安い時期の大型パックも見られない。猛暑に強い“未来型”商材でもあるはずだが、反応が鈍いのだ。少なくとも九州地区ではもっと生産普及できるはずだが、なぜか生産意欲がみえてこない。ネバネバ食品の代表格でもあり、使える料理は多い。根拠のある機能性を訴求しながら、新しい売り方が出てきてほしいものだ。
ニガウリ/関東産地が安定生産、周年産地沖縄は夏以外に増産を
【概況】 ニガウリ(ゴーヤー)も暑さには強い印象があるが、この一年は前年比数量94%、単価108%、ダブルの猛暑の影響がありそうだ。昨年の10~12月は、数量が増えて単価を落としたが、今年は3~5月が入荷減の単価高、8月は年間のピークであるために入荷増の単価やや高、7月と9月は大きく前年割れ(それぞれ80%の116%、74%の130%)。夏の野菜なのに夏に弱い、というのではなく猛暑パンチがどれほど強かったが分かる。いまや周年流通、東日本でも生産されている。
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【背景】今年の東京市場への入荷でみると、関東は群馬、茨城、栃木の3県で全体の53%を占めている。主産地の沖縄と宮崎でほぼ3分の1。産地別では群馬がトップで、2位茨城は沖縄と同量。この猛暑でも関東産地はほぼ変わらずに入荷があった。産地では、さすがに南の野菜などと言っていた。宮崎は数量76%で、原因の一端は猛暑に違いない。沖縄の減少は5%程度で、増減のブレの範囲内。現在、沖縄と宮崎が周年産地だ。
【今後の推移】現在のところ、北の産地は福島止まりだが、猛暑ダブルパンチに耐えている関東だったら、近郊産地としていくらでも儲かる産地ができる。ゴーヤーはどこで作ったものも品質的にはあまり変わらない。かえって、苦みがマイルドになる傾向にある。一方で、主産地の沖縄は、23年も24年も安定して普通に暑く、猛暑の被害はなかった。台風の多い季節にピークとなる沖縄のゴーヤーは、輸送も安定する夏ではないシーズン用に作型を設けて増産に誘導したいもの。ちばりよ~。
『農業経営者』2024年12月号
【著者】小林 彰一(こばやし しょういち)
流通ジャーナリスト
青果物など農産物流通が専門。㈱農経企画情報センター代表取締役。
「農経マーケティング・システムズ」を主宰、オピニオン情報紙『新感性』、月刊『農林リサーチ』を発行。
著書に『日本を襲う外国青果物』『レポート青果物の市場外流通』『野菜のおいしさランキング』などがあるほか、生産、流通関係紙誌での執筆多数。