【第338回】タンザニアで小豆の指導に行きませんか
約10年前に我が社を退社した長谷川竜生君が訪ねてきた。読者の中にはご存じの方もいるかもしれないが、「アフリカのタンザニアにカルビーのような会社を創る」と言って旅立った。
京都大学の大学院生時代からフィールドワークの場所として現地を訪れていた彼が、当社とかかわりの深いカルビーやカルビーポテトの姿に触れるにつけ、タンザニアにカルビーのような会社を創って同国の農家や国の発展を手助けしたいと考えた。
農業の成長には契約生産を行なう農家と加工業者が理念と顧客を共有することが必要であることをカルビーとその契約生産者に触れることで確信し、タンザニアでその実現を目指そうというのだ。
読者である干し芋加工業者の協力もあり、干し芋加工好適品種であるタマユタカを同国で品種登録もした。しかし、彼の思いは簡単には実現しない。
農家に苗を供給し、生産を委託しても契約という観念が未成熟な同地の農家は別の芋集荷業者に売ってしまう。民度がそこまで行っていない。
カルビーOBの知人に我が国でそれをクリアしてきた経過や対応を教えてもらい、数は限られるが長谷川君の思いに共感し協力してくれる農家も出てきた。
しかし、やっと作った干し芋の品質は高いが、適正な利益を出すにはタンザニア国内では値段が高すぎる。それならば日本への輸出をしようとすると、同国内で作るパッケージの品質が日本のマーケットでは受け入れられない。
干し芋以外でも彼が手がけている粟おこしやドライフルーツの品質は高い。粟おこしなどは日本国内で売られている粟おこしより歯触りが柔らかく、僕は彼の製品の方がはるかに美味しいと感じた。でも、日本での流通には限界があるのだ。
苦戦する中で同国に参入する大手企業のコンサルタントを請け負うなどして頑張っている。
それをする中で、加工業を作るという夢だけでなく、現地で農産物の委託生産をしてそれを輸出する事業にも力を入れようとしている。
知り合いの商社の提案もあり、小豆に取り組んでみようと考えている。しかし、小豆の生産など全く知識がない。そこで読者に相談である。長谷川君のタンザニアでの小豆作りに栽培技術面での指導協力をお願いできる方はいないだろうか。
栽培は彼自身というより現地の農家である。取り立ててお礼はできないが、指導をお願いできればタンザニアの野生動物ツアーに案内するくらいは彼に頼めるかもしれない。
同国の農業は他のアフリカ諸国と同様、インド人とEU諸国人による機械化も進んだ大農場があり、また近年は中国人が生産流通両面で支配している。彼が取り組むのはせめて数十ha規模の現地農家との契約生産である。機械化レベルも低いと思われる。
我が国には小豆に関しては国内生産者保護のために関税割当制度があり、あまり大量の生産はできない。関税ゼロでの日本向け輸出をするには生産可能面積の小さい長谷川君にとっては都合がよいのだ。
国内で小豆に取り組む方、いかがだろうか。タンザニアは南半球で季節は日本と逆。冬にアフリカのタンザニア旅行を考えてみてはいかがだろうか。
『農業経営者』2024年10月号
【著者】昆吉則(コンキチノリ)
『農業経営者』編集長/農業技術通信社 代表取締役社長
1949年、神奈川県生まれ。1973年、東洋大学社会学部卒業後、株式会社新農林社に入社。月刊誌『機械化農業』他の農業出版編集に従事。
1984年、新農林社退社後、農業技術通信社を創業し、1987年、株式会社農業技術通信社設立。1993年、日本初の農業ビジネス誌『季刊農業経営者』創刊(95 年隔月刊化、98 年月刊化)する。
現在まで、山形県農業担い手支援センター派遣専門家(2004年〜現在)、内閣府規制改革・民間開放推進会議農業WG 専門委員(2006年)、内閣府規制改革会議農林水産業タスクフォース農業専門委員(2008年)、農業ビジネスプランコンテスト「A-1 グランプリ」発起人(2009年)、内閣府行政刷新会議規制・ 制度改革分科会農業WG専門委員(2010年)を務める。