
「博報堂とNTTデータ、デマンドチェーン変革を推進する合弁会社の設立で合意」の概要
博報堂とNTTデータ、デマンドチェーン変革を推進する合弁会社の設立の定義
2025年1月24日、株式会社博報堂と株式会社NTTデータは、企業の「デマンドチェーン変革」を推進する合弁会社を設立することで合意し、正式に契約を締結した。
本記事では、この合弁会社設立の背景や具体的な事業内容、そしてデマンドチェーン変革が今後のビジネスにもたらすインパクトについて詳しく解説する。
まず、これまで多くの企業が注力してきたのは、サプライチェーン最適化と呼ばれるアプローチだ。生産・物流・在庫管理などのサプライ側の改革により、コスト削減や効率化が進められてきた。
しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)が一定の成熟期を迎えた今、次なる競争力強化のカギとして注目されているのが「デマンドチェーン変革」である。

出典:https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2025/012400/
サプライチェーンが主に「供給プロセスの最適化」を目指す概念である一方、デマンドチェーンは「需要側からのインプットをどう活かして企業活動全体を最適化するか」という発想に根ざしている。
生活者が発するあらゆるデータ(購買データ、行動データ、SNSでの反応など)をリアルタイムで分析し、そのインサイトを商品企画、マーケティング、営業、さらにはアフターサービスまで連動させていく。
デマンドチェーン変革を実現するためには、単なる部分最適ではなく、戦略立案からシステム開発・運用に至るまでを包括的に見直す必要がある。
今回の博報堂とNTTデータの合弁会社設立は、この包括的なデマンドチェーン変革を企業に提供するための強力な枠組みづくりといえる。戦略立案や顧客体験設計に強みを持つ博報堂と、大規模なITソリューションやコンサルティングで豊富な実績を誇るNTTデータが手を組むことで、企業の需要創造や市場接点の課題を一挙に解決するエコシステムを構築しようという狙いだ。
参考
博報堂とNTTデータ、合弁会社設立の背景
企業のサプライチェーン改革は、2010年代後半からのDXブームを受けて一気に加速した。たとえば、クラウドやIoT技術を活用して在庫・物流管理を効率化したり、RPAを導入して定型業務を自動化したりする事例が大企業を中心に多数生まれた。結果として、かつては年単位で変化に対応していたサプライチェーンが、月単位や週単位で意思決定できる仕組みに進化し、多くの企業でコスト削減や業務効率化の成果が出始めた。
供給サイドの見直しが進む一方、需給予測や顧客接点で得られる多様なデータの活用はまだまだ十分とは言いがたい。サプライチェーンの効率化は高まったものの、「需要情報をどう可視化し、どう各部署に反映するか」という統合的視点は、企業内で散在するシステムや縦割りの組織構造によって阻まれるケースが多い。
こうした課題を背景に、新たな競争力の源泉として「デマンドチェーン変革」が急速にクローズアップされている。
こうした動向を捉え、博報堂とNTTデータは2024年11月1日から協業を開始した。博報堂の強みは、深い生活者理解に基づいたクリエイティブとマーケティング領域の総合力である。NTTデータはITを軸として大規模システム構築やコンサルティングに強みがある。
両社が半年ほど共同で複数企業のプロトタイプ検証を進めた結果、既存のマーケティングサービスやITソリューションを単体で提供する場合と比較して、戦略~顧客体験設計~システム実装を一気通貫でサポートするアプローチに高い成果が見込まれたという。

出典:https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/110102/
合弁会社の設立を決断するに至ったのは、こうした複数の成功事例が根拠となっている。今後さらにデマンドチェーン変革へのニーズが高まる中、両社それぞれが持つ知見やアセットを横断的に活用することで、他社では実現が難しい大規模かつ先進的なソリューションを提供できると判断したのである。
事業概要と提供価値
2025年4月に営業開始を予定している合弁会社では、「戦略策定からデータ活用、そしてシステム実装までをEnd to Endで支援する」というビジネスモデルを掲げている。大きく分けると、以下の2事業ドメインが柱となる。
プラニング&ITコンサルティング事業
企業が抱える経営課題、特に「CxOアジェンダ(CEOやCMOなどの経営層が最優先で取り組むべき戦略課題)」を設定し、それに基づいた戦略立案やロードマップ策定を行う。
博報堂が培ってきた生活者発想や市場インサイトを活用して、新規事業開発やサービスデザインをリードする。加えてNTTデータは、ITコンサルティングの観点から、最適なシステムアーキテクチャやデータ基盤の構想を提示する。
結果として、企業のマーケティング組織からIT・経営企画部門までを横断する形でのプロジェクト推進が可能となり、属人的・断片的なデジタル施策に終始しない、真の意味でのデマンドチェーン改革を提案できる。
システム開発事業
具体的なシステム要件定義から設計・開発、さらに保守運用までのトータルサポートを実施する。
CRM(顧客関係管理システム)、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)、マーケティングオートメーション、ポイントプログラム基盤など、顧客接点を中心としたシステム構築に強みを発揮する。
NTTデータが国内外で培ってきた大規模プロジェクトの運用ノウハウを活かし、安定性・拡張性を担保しながら先端技術(クラウド、AI、IoT等)を組み合わせる。
これらを一気通貫で行うことで、企業側は部署間の調整コストやシステム間連携の不整合を最小限に抑えられる。その結果として、投資対効果(ROI)の向上や、スピーディな意思決定・施策実行が実現しやすくなる。
たとえば、DX投資の失敗要因の多くは「部分最適の乱立」と「システムのサイロ化」にあるが、本合弁会社は設立当初から“連携・統合”を前提としたソリューションを提供する仕組みを備えているため、そのリスクを大幅に軽減する見通しだ。
具体的なCxOアジェンダと実装例
デマンドチェーン変革を具体的に進めるためには、企業が最優先で取り組むべき経営テーマを明確にすることが重要となる。本合弁会社では、以下のような「CxOアジェンダ」を想定し、それぞれの課題解決に必要な戦略・システムをワンストップで提供する。

生活者視点での統合的なロイヤルティマネジメントの推進
従来、CRM戦略やポイントプログラム、デジタルマーケティングなどが個別に導入され、顧客接点が断片的になりがちだった。
ここで「生活者データ基盤」を構築し、顧客の利用実態や心理的モチベーションを一元管理する。すると、企業はLTV(顧客生涯価値)の向上やクロスセル、アップセルの精度を高めることができる。
具体例としては、ある小売企業が既存の店舗ポイントカードとECサイトの購買データ、SNS上のブランド言及データを統合し、リアルタイムでパーソナライズされたクーポンやおすすめ情報を提供するといった取り組みが想定される。
デマンドチェーンを統合した生活者データ基盤の構築
企業のあらゆる部署・システムが参照すべきデータをひとまとめにし、最新のクラウド技術や生成AI(Generative AI)を活用してインサイトを抽出する。
2024年時点でAI活用に積極的な国内企業は約40%程度にとどまるとされるが、今後は需要予測や顧客分析においてAIを使いこなすことが競争優位の決め手になる。
本合弁会社は、構築したデータ基盤上にAPI連携を設け、従来業務システム(ERP、SCMなど)と連動しながら、マーケティング・営業・経営管理を一体化させる仕組みを提案する。
営業組織変革(ソリューションプロバイダー化)
従来の営業組織は、どちらかといえば“プロダクトを売る”ことに特化していたが、近年では顧客の課題解決全般を提案するコンサル型営業への転換が求められている。
デマンドチェーン変革では、マーケティング活動で得られるリードやインサイトを営業部門に即座に共有できるようにし、顧客が抱える課題やニーズに合わせて柔軟な提案を行うプロセス構築が欠かせない。
SFA(Sales Force Automation)ツールとの連携やデジタルコンテンツ管理の導入により、営業の生産性と受注率を向上させることが期待される。
ユニファイドコマースへの進化
オムニチャネルが定着しつつあるが、まだ「オンライン(EC)とオフライン(店舗)がうまく情報連携していない」という問題が残る企業は少なくない。
ユニファイドコマースでは、オンライン・オフラインの垣根を取り払うばかりでなく、顧客体験を最適化するために在庫・決済・配送データをリアルタイムで統合管理する。
たとえば、店舗在庫をEC購入で引き当てる機能を持たせたり、ECで購入した商品を店舗で受け取るBOPIS(Buy Online Pickup In Store)を高度化したりすることで、顧客にとってストレスフリーな購買体験を実現できる。
地域課題に合わせた地域DXのポータル化
少子高齢化や人口流出などの課題を抱える地方自治体や地域企業にとっても、デマンドチェーン変革の考え方は大きな可能性を秘めている。
観光客への情報発信や特産品のEC展開、地域の交通・医療・行政サービスの効率化など、自治体と民間企業が連携して取り組むケースが増えてきた。
本合弁会社はこれらの地域DXにも対応可能なプラットフォームを準備し、地域の特性に合わせたシステム導入やマーケティング支援を行う方針だ。
今後の見通しとビジネスインパクト
合弁会社の営業開始は2025年4月を予定しているが、具体的な社名や役員体制、資本構成などの情報は順次公開される見込みである。設立当初は、製造業や小売業、金融業など多様な業種のクライアントを対象とし、博報堂・NTTデータの既存顧客網も活用しながら事業を拡大させる方針だ。
今後、デマンドチェーン変革を実行する企業が増えれば、ビジネスの意思決定やオペレーションが「需要主体」の発想に大きくシフトすると考えられる。
顧客や生活者から吸い上げたデータを経営戦略や新商品企画に反映させるスピードが格段に上がり、競合他社との差別化ポイントが「どれだけリアルタイムに需要をとらえ、素早くサプライサイドにフィードバックできるか」という軸に移行していくだろう。
さらに、業種・業界の垣根を越えた相互協力が進む可能性も高い。たとえば、同じ地域や関連領域のプレーヤー同士がデータ連携することで、従来のビジネスモデルでは創出できなかった新たな価値が生まれる。消費者もまた、自分の行動データや嗜好データが企業・地域サービスの向上に生かされることで、より利便性の高い生活を享受できるようになる。
博報堂とNTTデータは、この合弁会社を通じて日本のデマンドチェーン変革を牽引し、さらには国境を越えた展開も視野に入れているとみられる。
将来的にはグローバル規模のデータプラットフォーム構築や、海外企業との協業プロジェクトへと発展していく可能性もあるだろう。
まさに「戦略策定・生活者体験設計・データ活用・システム実装」をEnd to Endでカバーする枠組みを備えた合弁会社の誕生は、今後数年のデジタル市場に大きなインパクトを与えると考えられる。
まとめ
博報堂とNTTデータの両社が培ってきた強みを融合し、企業の戦略・マーケティング・ITまでを一元的に支援する新たなビジネスモデルを構築する。
サプライチェーン改革が進んだ今、需要データを起点とした意思決定プロセスの構築こそが、企業競争力を左右する大きな要因になりつつある。
2025年4月の営業開始に向け、合弁会社は多様な企業や地域社会の課題に寄り添いつつ、生活者にとってもより豊かな体験を提供できる環境を整えていくと期待される。
デマンドチェーン変革によって、企業は生活者データから導かれるインサイトをビジネス全体に反映し、より迅速な意思決定を実現する。今回の合弁会社では、博報堂のマーケティング・クリエイティビティとNTTデータのITコンサル力が組み合わさることで、企業の経営課題をEnd to Endで解決する枠組みが整備される。これにより、戦略立案からシステム運用に至るまでを一貫して推進し、デジタル社会のさらなる発展を加速していく見通しである。
合弁会社は2025年4月に営業開始予定であり、戦略策定からシステム実装までを一気通貫で支援する。
博報堂のクリエイティビティとNTTデータのITコンサル力の融合により、企業のデマンドチェーン変革を強力に推進する。
CxOアジェンダに沿ったロイヤルティマネジメントや地域DXなど、幅広い領域で新たな価値創出が期待される。
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