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本当に不幸であることを実感したからこそ書ける言葉がある。それを何糞と吹き飛ばそうとする、突き抜けた楽曲の明るさとは裏腹に:ユーミンとシュガーベイブの奇跡的な邂逅〜ユーミンの「明るい不幸ソング」シリーズについて。
うん、わかる。
この時代の空気。
そしてユーミンが生まれた必然性が♪
私が初めて荒井由実の曲を聴いたのは、AMラジオのニッポン放送の「日立ミュージック・イン・ハイフォニック」という音楽番組の女性シンガー&ソングライター特集で、
その時は「やさしさに包まれたなら」がかけられたのですが、当時、フォーク調の女性シンガーがもてはやされていた時代で、他のシンガーの力強く軽快な歌曲に比べると、かなりメルヘンチックで弱々しく聴こえ、これでは厳しい歌謡界をとうてい生き残れないのではないかと思いました。
当時、その番組をエアチェックしていたので、この曲を消去しようかとも思ったのですが何故か心に残り、逆に聴くのがクセになっていったのを我ながら驚きました。
そうこうするうちに、「ルージュの伝言」の軽快なメロディとリズムが大ヒットになり、一躍人気シンガー&ソングライターの仲間入りをしました。
この時点では、ラジオのレコードでしか彼女の歌声を聴けなかったのですが、その頃の若者に人気のあったテレビ番組「銀座NOW!」に彼女が出演するということで、期待しながら待ち構えていると、
当時のインストゥルメンタル演奏陣の粋を集めたキャラメル・ママによる、 「ルージュの伝言」のあの軽快なイントロの演奏が始まり、
あの番組はライブ生中継放送だったので、会場内で大歓声を挙げたオーディエンスの中、
いよいよ彼女がスタジオに登場して歌い始めたので、
あのレコードのように独特な歌声を生放送でようやく聴けるのかと期待して待っていたのですが、テレビの前で絶句してしまいました。
おい、マイクが入ってないじゃないか!
全然歌が聴こえないぞ!
放送事故なんじゃないか?
あの時は大変驚きましたが、
実は、
彼女は一所懸命に歌っていたのですが、
とにかく声量が弱くて伴奏や歓声に完全に負けていて、マイクでは、その声を全く拾うことができなかったのでしたねorz
…
その後は、ものすごく努力して、ヴォイス・トレーニングにも励んで自信をつけた彼女は、やがてはニューミュージック界の女王として君臨するのですから流石でしたね♫
私は、特に初期の頃の歌曲で、勝手に「明るい不幸ソング」シリーズと呼んでいる、
一見軽快なリズムとやけに明るい曲調に乗って歌われているが、実際には悲惨で絶望的な不幸が見え隠れしており、でも、その悲しみと苦しみを乗り越えようとしてもがいている楽曲群が好きです。
「ルージュの伝言」
「12月の雨」
「少しだけ片想い」
「デスティニー」
上記のリストを見て、そんなことはないと思う人もいらっしゃると思いますが、
私にとっては、どの曲にも、話者の女性が思っている以上に、別れの予兆が潜んでいたり、別れた後始末が明示されているように感じられますね。
さて、
この中でも特に好きなのが、
「12月の雨」
ユーミンとシュガー・ベイブが、ただ一度、アルバム収録で共演した、スタジオレコーディング盤の
「12月の雨」
作詞・作曲:荒井由実
編曲:松任谷正隆
それは、ハプニングが起きなければ絶対に実現しなかった、奇跡のような作品なのでしたね。
いかにも、シュガー・ベイブならではのコーラスのハーモニーと、サウンドが完全にシュガー・ベイブそのもの(後に、ユーミンの夫君となる松任谷正隆氏のアレンジの賜物)なんですよね。
まさにこの曲は、
歌詞よし=荒井由実
楽曲よし=荒井由実
編曲よし=松任谷正隆
歌唱よし=ユーミン
合唱よし=シュガー・ベイブ
演奏よし=キャラメル・ママ
&矢野顕子
という
六方よし
なのです♪
特に、
イントロダクションの
ダダダダダダダダダン
ダダダ
ダダダ
ダダダン
という、
まるでグラデーションのように
音量が増し増しになる
ピアノの単音の連打と、
後半にはスネアのドラミングが
裏に重なってくることで、
12月の
季節外れの
俄か雨が屋根を叩く様
の情景描写
すなわち、
最初はぽつりぽつり
と来てから
一気に屋根を雨色に
染める様子が
音を聴くだけで
鮮やかな映像として
再現され、
次に歌われる
「雨音に気づいて」
という出だしの歌詞で
話者の心象風景が
オーバーラップ
してくるのが
スゴいですね🎵
https://www.uta-net.com/song/2508/
どんなに上手い歌手が、
そして
どんなに上手い演奏者が、
カバーしても、
この雰囲気を再現することは、
たとえ
本人たちが後日再結集したとしても
不可能ですね。
敢えていえば、
このテムポとアレンジを
可能な限り忠実に再現
しようとした
カラオケ・ヴァージョンが、
一番その雰囲気を伝えている
とさえ思っています。
(シングル盤A面の「12月の雨」とB面の「瞳を閉じて」では)2曲ともバックコーラスには山下達郎、大貫妙子らシュガー・ベイブのメンバーが参加している。
この曲は、初めてシュガー・ベイブのメンバーが参加した作品である。
シュガー・ベイブがレコーディングで参加した某歌手のライブで、山下だけがコーラスに参加を依頼され、他には有名な女性コーラス2人と山下が参加予定であった(バックミュージシャンはキャラメル・ママと矢野顕子)。
しかしリハーサルの段取りが悪く、女性2人が本番の直前に降りてしまったため、ライブを見に会場に来ていた(シュガー・ベイブのメンバーであった)大貫妙子と村松邦男が急遽コーラスとして参加した。
それをたまたまユーミンが見に来てて、「あのコーラスは誰?」っていうことになり、「12月の雨」のレコーディングに呼ばれ、参加することとなった。
※※※
まさにこの曲は、
ユーミンと
そして、
シュガー・ベイブ
を世に知らしめた
楽曲という
ことになりますが、
彼女の、一連の「明るい不幸ソング」シリーズは、当時、恋愛や結婚という問題に対してもがき苦しんでいた女性たち、
それも、はるか後年には、“負け犬の遠吠え”と揶揄されていた人たちの共感を呼び、彼女たちが一大支持層を形成していたのですが、
その後、彼女=ユーミン自身が、ビジネスパートナーとでも呼べる存在を見つけた時を境に、そのような“不幸”を体現する歌詞に現実感が薄れてしまい、
それ以降は、たぶん、ちょっと“人工的な”匂いのする言葉とならざるを得ませんでしたね。
本当に不幸であることを実感したからこそ書ける言葉がある
それを何糞と吹き飛ばそうとする、突き抜けた楽曲の明るさとは裏腹に。