「マザー・メアリー・カムズ・トゥ・ミー」
5年前のゴスペル考。
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実は、ビートルズの「レット・イット・ビー」も、明らかにポール・マッカートニーが自分なりにゴスペルの楽曲を作りたくて、コード進行とハーモニーをそれらしく仕立てて、さらに間奏にはモータウン・レコード出身のゴスペル&R&Bキーボーディストとして活躍していたビリー・プレストンのハモンドオルガンを配したのでしょう。
音楽活動によって世に出ようと誓い合って、遂に天下を獲ったところまで登り詰めたはずなのに、いつの間にかメンバー四人の心も体もバラバラ。
何とかポールが策まって、四人でビルの屋上に集まってライブをやってはみたものの、もう昔のようなグルーヴを生み出すことは到底できないことをポールも認めざるを得ず、遂にレット・イット・ビー=勝手にしやがれと匙を投げる…。
過日、取り上げた「ローズ」(映画『ローズ』のタイトルソング)は、
https://note.com/nazonou4/n/nc486f198a4d8
当初はあまりに讃美歌風なので、ロックの楽曲として相応しくないという理由で製作者側からは難色を示されたそうです。
が、主演のベット・ミドラーがそれを気に入り、ロックバラードにアレンジすることで、あの名曲が生まれたのだそうです。
どことなく「アメージング・グレース」の曲調も感じられますね。
そして、あのドラマのロールモデルとなった、ジャニス・ジョプリンの魂の叫び「サマータイム」にオマージュを捧げた楽曲だったように感じられますね。
元来「サマータイム」は、白人の売れっ子作曲家ジョージ・ガーシュインが、黒人たちの悲劇的な生涯を描いたオペラ『ポーギーとベス』の劇中で、
悲劇の主人公クララが、泣き止まぬ我が子をあやすために、逆説的に、
あなたは幸せな家庭に生まれてきたのだから、もう泣くのを止めてとにかく眠りなさいと、悪戦苦闘をしながら子育てをする場面で、子守唄=ララバイとして歌われましたが、
今度はそれを、
白人の労働者階級から世間に、そして、自身の家族からも認められることを目指して、トップに這い上がろうとしたジャニスが、嘲笑と艱難辛苦に耐えながら絞り出すようにシャウトするブルース=怨歌要素を前面に押し出したロック・バラードにアレンジして魂の叫びを訴えかける。
それらは全て、たとえこの世では報われなくても、死後には苦しみから解放されて神の国に迎えられると信じて、信仰をもってひたすら祈りを捧げ続ける…。
しかも、それらの信仰の対象が、悩める若者の代表であったイエス・キリストというよりは、彼を、幾多の試練に直面しながらも立派に育て上げた、聖母マリアに向けられている(ポール・マッカートニーも、「レット・イット・ビー」の中で、「マザー・メアリー・カムズ・トゥ・ミー=聖母マリア様がボクのソバにやってきて」と歌っています)のが興味深いですね♪
8年前に、「千葉ジャズストリート」というジャズのフェスティバルで、アマチュアのゴスペルコーラスを、二組、初めて生演奏で聴いて、改めて気付いたことがありました。
1980年代に、欧州、特に英国のミュージシャンを中心にして、アフリカへのチャリティを呼びかけた「Do they know it's a Christmas?」というアルバムが大きな反響を呼び、それに対抗というか、コラボする形で、米国のミュージシャンが結集した「U.S.A.for Africa」というアルバムが出ました。
米国のミュージシャンはとかく自己主張が強く、こういう運動ではうまくまとまらないのではないかという危惧をよそに、実際は個別のアーティストごとに収録して、あたかもグループで収録したシーンとして編集したビデオクリップではありましたが、それでも米国のミュージシャンたちがなんとかまとまりを見せたのは、あの曲調がゴスペルだったからなのではないかということに思い至りました。
特に、米国のブラックミュージシャンにとっては、ゴスペルこそが、みんなの心を1つにできる、アフリカをルーツに持つ唯一無二の楽曲だったからなのでしょう。
まさにゴスペルの奥深さに気付かされた瞬間でした。
そして、そのまとめ役となったのが、「バナナボート」のヒット曲で知られ、彼らと彼女らの社会的地位の向上に貢献したハリー・ベラフォンテだったからなのでしょうね。
その、ハリー・ベラフォンテも、先日、遂に天に召されてしまいました。
きっと、マザー・メアリーの祝福を受けながら…。
#創作大賞2023