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韻=ラップと思っているのは日本人だけ
日本人の多くが、韻=ラップ=ヒップホップと思っていますが、実は英語圏の感覚とは全く違います。日本では「キラキラ星」という名前で有名な Twinkle twinkle little star という童謡の歌詞を見てみましょう。
Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are!
Up above the world so high,
Like a diamond in the sky.
韻を踏んている所を太字にしています。8小節のなかに7個の韻。なかなかですね。もう一つ、この曲と全く同じメロディーの「ABCの歌」の歌詞をみてみましょう。
A, B, C, D, E, F, G
H, I, J, K, L, M, N, O, P
Q, R, S, T, U, V
W, X, Y, and Z
Now I know my ABC
Next time won't you sing with me?
これも偶数小節の終わりが全てイーの韻で構成されています。いわゆる韻が固いっていうやつですね。途中のLMNOPの部分が不自然に早口になるのが正しい歌い方ですが、それは実は韻を揃えるためにやっているのです。LMNで終わっては韻にならないわけです。だから不自然でも早口でLMNOPまでいくのです。
韻は英語で rhymes と言います。そして童謡の事を英語で nursery rhymes と呼びます。直訳すると「子供部屋の韻」。つまり韻を踏んで言葉遊びをしながら歌う事が英語の童謡の大事な要素となっている、ということです。
韻は童謡だけではなく、幼児教育の場でも頻繁に出てきます。
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このように、読み書きの勉強でも韻は頻繁に使われます。また児童書でも韻は多用されています。
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幼少期からこのように韻を刷り込まれているので、歌詞を書く時も自然に韻が出てきます。これが英語圏の人達の感覚です。ヒップホップだけではありません。
ビートルズのイエスタデイの冒頭です。
Yesterday all my troubles seemed so far away.
Now it looks as though they're here to stay.
Oh, I believe in yesterday.
Suddenly, I'm not half the man I used to be.
There's a shadow hanging over me.
Oh, yesterday came suddenly.
Billie Eilish の Bad Guy の冒頭です。
White shirt now red, my bloody nose
Sleepin', you're on your tippy toes
Creepin' around like no one knows
新旧に限らず、ジャンルに限らず、英語圏の人たちは韻を多用します。音楽だけではありません。
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街を歩けばこのような韻を簡単に見つけることができます。決してヒップホップだけのものではありません。何故日本では韻=ラップ=ヒップホップになったのかと言えば、日本人で初めて韻の面白さに着目したのがラッパーだったからです。キングギドラの Zeebra と K Dub Shine は本場のラップが韻で構成されている事に着目し、それを日本語に置き換えたらどうなるか、という試みを始めたのです。日本語ラップの台頭以前には、日本人は韻には全く興味がありませんでした。
セブンイレブン いい気分
異論 反論 オブジェクション
私が見つけられたのはこれくらいです。
この木 なんの木 気になる木
見たい 聴きたい 歌いたい
この辺は惜しいですが、同じ言葉を繰り返しているだけなので韻とは言えないですね。
英語圏の人達の韻踏み癖は、日本人の七五調癖にとても良く似ていると思います。実は上に出した日本の4つの例は全て七五調です。俳句や短歌に限らず、キャッチコピーや歌詞にも日本人は七五調を多用しています。そういう語感を幼少期から刷り込まれているので、意識しなくても七五調が出てくるのが日本人です。
ちっちゃな頃から悪ガキで
あめあめふれふれ かあさんが
東海道中膝栗毛
魔法の言葉 オッパッピー
算数国語 理科社会
同情するなら金をくれ
本を売るならブックオフ
天皇皇后両陛下
チェッカーズのギザギザハートの子守唄は、最初から最後まで七五調で構成されているめずらしい歌謡曲です。試しに上の八行をギザギザハートの子守唄のメロディーで歌ってみてください。違和感なく歌える筈です。
七五調の歌は特に童謡に多いです。
おこしにつけた きび団子
空にキラキラ お星さま
まいごのまいごの こねこちゃん
もしもしかめよ かめさんよ
なので七五調で歌うと自然と童謡のような、懐かしい感じが出ます。だからギザギザハートの「子守唄」なんですね。有名な歌謡曲では他に
二酸化炭素を 吐き出して (たま さよなら人類)
もしもピアノが 弾けたなら (西田敏行)
等いろいろあります。どれも似たような、懐かしい雰囲気がありますよね。もちろんプロの音楽家は、その語感を上手く利用して曲の雰囲気を作り上げているのです。逆に、素人が作詞をすると七五調になりがち、というのもプロの音楽家の中ではあるあるとして知られています。狙ってないのに懐かしい雰囲気が出てしまうので、現代風の曲調にしたい場合は、字余りや七五調からあえて外す事を意識しないといけません。
韻についても同じで、あまりに多用しすぎるとお硬い、真面目な雰囲気が出てしまうので、プロは適度に外して作詞しています。