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オートミールに湧いた「虫」でアナフィラキシーショック!日本初の症例報告
日常の怖い話として、穀物類は適切に保存しないとダニなどの小さな虫が湧いてしまい、気づかずに大量に食べてしまうと聞いたことがあるでしょう。
小麦粉などの食品中に湧いたダニを誤って食べてしまい、アレルギー症状を起こす事例は、実際過去にいくつも報告されています。
そして今回、東邦大学より、オートミールに潜んでいた「ヒラタチャタテ」を誤食し、アナフィラキシーを起こした患者の症例が日本で初めて報告されました。
ヒラタチャタテは室内環境に広く生息するごく平凡な虫であり、日本全国どこにでも存在しています。
今後、ヒラタチャタテがアレルギー症状を引き起こす新たな「アレルゲン(抗原)」として注目されるかもしれません。
研究の詳細は2024年8月10日付で医学雑誌『The Journal of Dermatology』に掲載されています。
参考文献
ダニを誤食して起こるアレルギー症状(農研機構)
https://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/yakudachi/gaichu/column/column_032.html
元論文
A clinical case of anaphylaxis after eating oatmeal contaminated with booklice (Liposcelis bostrychophila)
https://doi.org/10.1111/1346-8138.17419
ライター:大石 航樹(Koki Oishi)
愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
アレルギー反応が起こる仕組み
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そもそもアレルギー反応とは、私たちの体に備わっている免疫システムが過剰に働いてしまうことで起こるものです。
免疫システムの過剰反応は個々人の体質や持病によって異なり、本来は危険のない異物に対して敏感に反応してしまいます。
アレルギーの原因となる物質が「アレルゲン(抗原)」です。
アレルゲンが体内に入ると、免疫システムが異物とみなして排除しようとし、「IgE抗体」という物質を作り出します。
このIgE抗体ができた後に再びアレルゲンが体内に入ると、IgE抗体がそれにくっつき、免疫細胞の一種である「マスト細胞」からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、アレルギー反応が起こるのです。
ダニの誤食で起きる「パンケーキ症候群」
食品に混入した害虫を誤って食べてしまっても、何らかの健康被害が発生することは比較的稀です。
しかしながら日本では主に、ダニの誤食によって引き起こされるアレルギー症例がいくつか報告されています。
例えば、2010年に報告されたケースでは、当時28歳の女性が開封後に常温保存していた「お好み焼き粉」でもんじゃ焼きをしたときに強いアレルギー反応を起こしました。
食べている最中に喘息のような症状が起こり、15分後には嘔吐。30分後には腹痛を起こして緊急搬送されています。
病院に着く頃には意識がもうろうとしており、顔の腫れや全身の紅斑(こうはん)が起こっていました。
点滴治療を受けた後、女性の症状は2時間後には改善しています。
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女性が食べたお好み焼き粉は数カ月前に購入されたものであり、中を調べてみると1グラム当たり50匹ものコナヒョウヒダニが見つかったという。
アレルギー反応が起きた原因を特定するため、女性のアレルギー反応を調べたところ、未開封のお好み焼き粉に対しては陰性でしたが、ダニのアレルゲン(抗原)に対しては強い陽性を示しました。
このことから「女性はダニを誤食したことによるアナフィラキシー反応(※)を起こした」と断定されています。
(※ アナフィラキシーとは、短時間で全身に発症する強いアレルギー反応のこと)
同じ症例は他にも日本国内で数十例知られており、その大半はお好み焼き粉や小麦粉、パンケーキミックスなどに混入したダニが原因です。
粉物に多いことからこの症状は「パンケーキ症候群」などと呼ばれています。
このようにダニの誤食によるアレルギー反応はよく知られていましたが、新たに報告された症例は「ヒラタチャタテ」というアレルゲンとしては注目されてこなかった平凡な虫によるものでした。
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