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『太陽と月の鋼』から読み解く

 深夜2時に読んだからだろうか。
私は鋼之助に同情し、月に寄り添われ、泣いた。
社会に逆行し、煙草とコーヒーと食事の匂いと人の憎愛が渦巻き、換気していても取り払えないどす黒い気が充満する、クソみたいに最低な空間の端っこで。

鬱々としているのに、温もりを感じる。
厚すぎず、不要なほど薄すぎもしない柔らかな被布のような、そんな感覚に。

以降、1巻の台詞(特に第3話)などを一部抜粋しながら、自分の心も解いていこうと思う。


私達は、口では綺麗事を言っていても、選民意識を完全に消し去ることができるのだろうか。
90頁
“こんな路上で、売卜やら祈祷やらやるしかねぇ下賤な奴ら、生きようが死のうが、おれら人間には何の関わりも無いからな。”


この台詞には命の温度を感じる。
93頁
“誰も望んで、今の境遇に生まれついたわけじゃないのに……!!”


──何で松浦だるまさんの言葉は、胸に響くんだろう。


月の一言一言に、苦しくなる。路地と路地の間にぎゅっと押し込まれたような気分になる。
94頁
“欠けたように見えるところに在るものを、誰もまだ見たことがないだけなのです。”


「◯◯から守る。」
よく聞く台詞。現代においてはほぼほぼ無価値で無意味。何の現実的事柄を伴わぬ、言う側だけが気持ち良く悦に入り、言ってやった感で満足する、自慰の言葉。
言葉だけ、行動だけ、どちらだけでも足らぬ。どちらも必要で大事。欠けてはならぬのだ。
113頁の場面……
月がとある武士に反論したのをきっかけに追われ、鋼之助がその武士と果たし合いをすることになった場面。
“なあ、わしは勝ったのか……?”
“勝ちましたよ。”
“……守ったのか……?わしは、おぬしを。”
使っていいのは、このような時代でこのような場面でのみなのだ。


非力? 目に見える力だけが、力ではない。
無力? 私達はいくつも力を持っているはず。
光りに反応して輝くのは、金属だけではない。
114頁
“あなたは、真剣を持たずとも、人の命を守ったのですよ。”


誰にも言えない、明かせない正体、本当の自分、何者であるか、素性、もう一人の自分、もうひとつの顔(似た意味を羅列しただけに読める? そう思われるなら、それでもいいじゃろう。)、そして燃え尽きる命。

何が違うんだろう、他の漫画と。
松浦だるまさんの作品は、この前作『累』で知った。
何で私は累にひかれたんだろう。何でこんなに掴まれたんだろう。
“美醜”だったからか、それ以外にも何を見ていたのか。
卑屈、劣等感、努力ではどうにもならない決定的な要素。
ある意味でのシンデレラストーリーに魅せられたのか? いや、違う。
汚さ。外見ではない、我々の中身の汚さ。それだ。全て、私達のこと。誰にでも当てはまる、口では反対のことを言うが、本能では抗えない。認めたくない汚さ。
主人公の彼女が持つ口紅をめぐる話だけではない、登場する人物全てが、私達なのだ。

昨年7月、まだ夏目響がデビューして間もないころ。ありがたいことにまんだらけ中野本店さんの漫画紹介企画にお声がけいただき、POPを作ることになった。そこで私が迷うことなく選んだ漫画が累だった。そのときのPOPがこちら。

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懐かしい。つい半年ほど前なのに。それにしても、このPOPから累をご購入いただいたかたがこの世におられるなんて、幸せしかない。買ってくれた皆さん、そして感想までくれた皆さん、本当にありがとうございました。

すると、奇跡が起きた。今でも驚いている。

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なぜ作者の松浦だるまさんにこんな拙作が見つかったのか、思い出すだけでまだ顔から火が出る。ああ恥ずかしい。洞穴に隠れたい(それなのにあえて画像を載せるのは、その気持ちを乗り越えてでも喜びを伝えたかったから! 見て!すごくない!? 夢みたい!!)

私と累の出会いは、運命だった。その1巻を手にしたきっかけもまた、何の偶然かその書店員さんのPOPだった。POPで始まり、POPで繋がるなんて、小粋な物語みたいだ。

累は、一時私の生きる気力を担ってくれていた。本当だよ。
──次の巻が出るまでは生きないと。最終話を読むまでは死ねない……。
それだけを希望に息をしていた時期があった。ふふ、馬鹿みたいって思われるかも知れないけど、本気だったの。最終巻が出た時すぐに購入したけれど、2ヶ月読めなかった。だって、読んだら終わってしまうから。世間ではもう終わりでも、私の中では読むまでは終わらないのだ。終わらせたくなった。

でも、終わりは始まりの合図とも言う。
だから今こうして、松浦だるまさんの新しい作品を読めている。累の最終巻を開いていなかったら、『太陽と月の鋼』も読まなかった。

出会いはいつだって突然。それを、その一瞬だけで終わらせるか、手を繋ぐかは本人次第。
私を今応援してくださっているかけがえのない皆さんとも、こうして関係を築けているのは今日までの小さな積み重ねがあるから。この縁を、ずっと大切にしたい。ひとつずつは地味でも、見てくれるかたは必ずいるから。


お約束で脱線したけど、

『太陽と月の鋼』1巻より先へ続く。読み解き一旦了。

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