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後工程はお客様?
「後工程はお客様」という言葉がある。これは、「1つの製品を複数工程で作り上げていく中で、自分の作業の次に待っている工程の人を ”お客様”であるかのように大事にしましょう。”お客様”なので、決して迷惑をかけないように、丁寧に作業したものを次工程に送りましょう」というような意味合いだ。
ただ、この言い回しは、頭ではもちろんわかるのだが、「接客」をしたことのない私にとっては、あまりリアルな切迫感が無く、腑に落ちていない。
むしろ、自分の経験から、「後工程ではもう取り返しがつかない」という言葉の方がリアルに感じる。自分がした仕事が、一度、後工程に回ってしまうと、それはもう取り返しがつかないという意味だ。
あれは、とある土曜日の昼下がりの出来事だった。当時、オペレーション業務に従事しており、シフトで土曜日に出勤をしていた。土曜日はオーダー数量も少ないので、チーム内で1名だけいれば事足りるという状況だった。ただ、当時、私は新卒1年目でまだ業務経験が浅かったので、上司が一緒に出勤してくれて、2名体制で仕事をしていた。お昼に差し掛かった時、上司が、「じゃあ俺、先にお昼休憩するね」とカップラーメンにお湯を注いでいた。
そんな時、オーダーのキャンセル依頼を受領した。依頼が来ると、基幹システムの中で該当オーダーを見つけ、取り返し処理をするのだが、これが何回も教えてもらっているのに、当時の私にはやたら難しかった。ただ上司がお昼休憩に入っていることもあり(隣のデスクにいる)、何回かやったことがあるから大丈夫だろうと高を括り、1人で処理を実行した。だが、何かおかしい気がする。処理が終わると出てくるはずの画面が出てこない。間違えた気がする。
カップラーメンをすすり始めている上司に、恐る恐る、「すいません、オーダーキャンセル処理したのですが、もしかすると間違えたかもしれません・・・」と申し出る。
すると、上司の顔が変わり、鬼のようなスピードで、PCを開き、確認を始めた。そして現場まで一目散に走っていった。私は一人でデスクに座り、冷や汗が背中に流れるのを感じて硬直していた。カップラーメンだけが私の隣で湯気をたてていた。
10分ぐらいたって、上司が戻ってきた。「何とか大丈夫だったよ。」と言われた。私の失敗に、上司が取り返しをつけてくれたのだった。だが、カップラーメンは取り返しのつかないほど、のびきっていた・・・怒られるかと思っていたので、逆に優しく言われて、より申し訳ない気分になった。せめてもの償いとして、「カップラーメン、新しいの買ってきましょうか?冷めてますよね・・・」と申し出るも、上司は「いいよ、いいよ」と言い、またすすり出した。取り返しのつかないことを取り返せるのは格好いいと思った。
これ以降、自分の仕事を完了させて、次工程に流す際には、いったん次工程に行くと、自分の仕事は、もう取り返しがつかないということを肝に銘じてやるようにしている。
オリンピックの最中に、分単位で締め切りに追われるスポーツ新聞社の様子がテレビ番組で特集されていた。締め切り間近に、1面内容がやっと決まり、印刷工程にデータを回すために、送信ボタンを押そうとする様子が撮影されていた。担当社員の方が、「押しちゃうよ、いいね?いいね?はい、押しちゃうよ!はい、押しちゃったーーー!」と言っているのが印象的だった。これは、もう送信ボタンを押してしまうと、大量印刷がかかるので、もうこの後に記事の内容修正ができない、もう取り返しがつかないとわかっているからである。
もちろん「ポカヨケ」とか「Fail Safe」とか、間違いは起きるものという前提で仕組をつくることは大事だが、やる側の人間としても危機意識をもって仕事をしていれば、そうそう間違えることは無いのではと思う。