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「ホールの中にいるのに、目の前には山形の高い峰がそびえている」──山形交響楽団×90歳の村川千秋が届けるシベリウスの新録音

オーケストラ大国・日本と山形交響楽団

日本オーケストラ連盟には、現在、25のプロ・オーケストラが正会員として加盟しています。その活動は首都圏や近畿圏などの大都市圏が多く、地方に拠点を置くプロ・オーケストラはまだまだ限られた存在です。


それぞれのオーケストラが地域振興や教育活動などの課題をそれぞれの拠点へと還元して、地域に愛される存在として成長を続けています。

そんな日本のオーケストラのひとつが、1972年、東北初のプロオーケストラとして誕生した「山形交響楽団」。
“YAMAGATAと世界を結ぶHub”をミッションとして掲げ、毎年6月の東京・大阪公演や動画配信などを通じて、観光資源と食の魅力にあふれた山形の魅力を発信し続けています。県内での定期演奏会や創立以来実施している青少年向けのスクールコンサートなど、年間150回におよぶ演奏会を精力的に行っています。
東京と大阪で毎年6月に開催している特別演奏会「さくらんぼコンサート」は、ロビーで同時展開する“山形物産展”と合わせて毎回話題になり、「山響」の愛称で全国から注目を集める存在になっています。

その山形交響楽団を設立した人物こそが、今年90歳を迎えた「創立名誉指揮者」の村川千秋(むらかわちあき)。

2023年1月15日、卒寿を迎えた演奏会にて
Photo:山形交響楽団

2001年以降は、後進の指揮者にオーケストラを託して指揮活動からは一線を引きつつも、子どものための弦楽器教室などで音楽教育活動に献身。また2012年には、楽団創立40周年の演奏会で指揮台に立ち、シベリウスの「交響曲第2番」を披露しました。

その村川が、2022年から2023年、シベリウスを奏でるために再び指揮台に立ちました。
創立50周年を迎えた2022年4月16-17日の第300回記念定期演奏会では、シベリウスの「カレリア組曲」と「フィンランディア」を、また翌年の1月15日の「90歳を迎える巨匠 村川千秋のシベリウス」では「交響曲第3番」を指揮。その若々しい姿ももちろん、オーケストラとの長年の信頼関係の結実といえる温かな演奏に、多くの喝采が寄せられました。

そして、これら記念すべき演奏会のライブ・レコーディングが、MClassicsレーベルよりリリースされる運びになりました。

『シベリウス: 交響曲第3番/カレリア組曲/フィンランディア』
山形交響楽団/村川千秋(指揮)
2023年9月22日リリース
MClassicsレーベル  MYCL-00045

CD&配信リンク一覧はこちら↓

試聴はこちら↓

村川千秋と山形交響楽団

村川千秋は、1933年に生まれ、山形県の中央部に位置する村山市で育ちました。
終戦後に東京藝術大学に入学した際、岩城宏之や山本直純などの東京で生まれ育った同世代の音楽家の卵のレベルの高さと、都会と地方との格差に衝撃を受け、地元・山形にもオーケストラを作りたいという夢を持ったといいます。

その夢を叶えるべく、1971年に設立懇談会と準備オーケストラを発足。翌1972年に、念願の山形交響楽団の設立に至りました。村川千秋、39歳の年でした。

設立当初から、県内小・中・高校のスクールコンサートを主軸とした演奏活動を行っていたのは、都会との格差を目の当たりにした村川自身の体験と教育理念が大きく影響しているでしょう。

「日本では音楽の勉強といっても、教えるのは作曲家の顔ばかりで、音楽自体は聴けていない。音楽そのものをできるだけ早く体験してもらいたい」

https://ebravo.jp/archives/133931

1987年のサントリーホールでの初の東京公演はチケット完売。1991年にはアメリカ・コロラド州での初の海外公演を行うなど、オーケストラとして順調にステップアップしていきながらも、山形交響楽団は地方オーケストラとしてのアイデンティティとミッションを強く持ち続け、地域振興と教育活動に重点を置き続けました。その活動の功績がたたえられ、2001年には「サントリー地域文化賞」を受賞しています。

村川自身は、現在の山形交響楽団をこう語っています。

「都会にはないとても温かな雰囲気のオーケストラだと思います。
山形は小さな町ですから、練習中に団員が聴衆のみなさんと会う機会もある。学校で演奏したり、美しい棚田の再生事業に協力したり、山形の魅力あふれる環境の中に山響が息づいている。
地方のオーケストラの良さが出ていて、地方にあるオーケストラの理想に近づいてきていると思います」

村川千秋自身のコメント
2022年4月16、17日の定期演奏会での演奏は、音楽ジャーナリストの池田卓夫氏に
「指揮者とオーケストラではなく、家族のような連帯感で彫り込んだ響き」と評された。

https://ebravo.jp/archives/116343
Photo:山形交響楽団

村川千秋とシベリウス

村川が特に愛を注ぐ作曲家は、ジャン・シベリウス。
山や雪などの大自然の国フィンランドから生まれたシベリウスの音楽は、東北という北国の空気にも合っている、と感じているそうです。

「ひんやりした響きの奥に、ものすごい熱さがたぎっている。これは、山響の魂になる」

https://www.asahi.com/articles/ASR1C5G47R1CULZU001.html

シベリウスの音楽を村川に教えたのは、日本にフィンランド音楽を紹介した第一人者である指揮者の渡邉暁雄。その後、アメリカのインディアナ大学に留学してからは、シベリウスの娘マルガレータの夫であるユッシ・ヤラスの指揮に触れる機会を得ました。日本のシベリウス演奏にありがちだった悲しげで感傷的な演奏とは程遠い、力強く悠々とした指揮に衝撃を受け、シベリウスの本質をより深く知ったといいます。

自身もシベリウスをライフワークとし、山形交響楽団では、1995年から2001年にかけて、交響曲の全曲演奏を行いました。

卒寿を迎えた記念演奏会で「交響曲第3番」を演奏したのも、人生を通して、あるいは山形の風土を介してシベリウスと向き合ってきた村川らしい選択といえるでしょう。

「シベリウスのシンフォニーは7曲すべて名曲です。そのうち3番は独特で、風景や歴史とかとあまり関係なくて、音階と和音だけでできている。モーツァルトと同じような意味で、シンプルな素材を組み合わせるだけであれだけ素晴らしい音楽ができあがる。音だけの音楽とでもいうべきか、とにかく個性的です。この貴重な機会に一番好きな曲をやらせていただくことにしました」

村川千秋自身のコメント

この演奏会を客席で聴いた音楽ジャーナリストの岩野裕一は、演奏の印象を次のように語っています。

「音が生命力に満ち溢れており、ホールの中にいるのに、目の前には山形の高い峰がそびえ、緑が萌える木々のあいだを涼やかな風が吹き抜けていったのだ──。」

『シベリウス: 交響曲第3番/カレリア組曲/
フィンランディア』ブックレットP. 03 より
卒寿記念演奏会では、演奏後、楽団員と観客から温かな祝福を受けた。
Photo:山形交響楽団

『シベリウス: 交響曲第3番/カレリア組曲/フィンランディア』アルバム情報

山形、山形交響楽団、そして村川千秋の三者のアイデンティティが結実したレコーディングともいえる『シベリウス: 交響曲第3番/カレリア組曲/フィンランディア』。

レコーディング・ディレクター、バランス・エンジニア、エディターとして本作の録音を全面的に担ったのは、MClassicsレーベル主宰の小野啓二氏。
山響の演奏やレコーディング中に受けた印象について、次のように語っています。

「私は山形交響楽団の演奏をこの15年強の間、聴き続けてきました。この間、同団は演奏的に大きく飛躍してきたと思いますが、その中でも創立者の村川千秋先生が指揮を振る際の充実したサウンドは特別です。
コンサート時にマイクを通してもひしひしと伝わる、観客を包み込んだ一体感は本当に感動的でした。力感溢れる音と雄大な音楽。50年という簡単でない月日が作り出した豊かな響きをぜひ多くの人に共有してほしいです」

リリースは2023年9月22日、CDおよび配信にて。


関連/参考ウェブサイト・動画
●山形交響楽団公式ウェブサイト

『シベリウス: 交響曲第3番/カレリア組曲/フィンランディア』(MYCL-00045)/MClassicsレーベル  CD付属ブックレット

●『オーケストラに託す地方の未来 村川千秋、シベリウスの魂を振る』吉田純子/朝日新聞デジタル

●「シンボルはドイツ製コントラバスの名器、愛される地方オケ「山響」が50周年」/読売新聞オンライン

●「山形交響楽団、村川と阪の2人で半世紀の歩みを象徴した第300回定期演奏会」池田卓夫/ぶらあぼONLINE

●「創立50周年!躍進めざましい 山形交響楽団 現地レポート 第2弾!村川千秋(創立名誉指揮者)&阪哲朗(常任指揮者)インタビュー」林昌英/ぶらあぼONLINE

●ライブ動画~シベリウス「シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ JS 34b」/CURTAIN CALL

※サムネイルPhoto:山形交響楽団