オペラシティアートギャラリー「高田賢三 夢をかける」展へ行ってきたとのこと
ファッションに興味を持った頃の俺にとってのスーパースターは川久保玲であるからして、高田賢三というデザイナーは、なんとなく山本寛斎と同じような括りというか、なんとなく過去の世代の人たちというか。そんな印象を持っていた。
近年の虎柄スウェット謎ブームが偏見に拍車をかけたところもある。とかく流行の理由、愛好する人の気持ちが理解できずにいた。
嫌悪してはないが、KENZOは、俺とは文化的背景が異なる人が好んで着ているブランド……。そんなイメージがあったのだ。異なるハビトゥス……。
しかし、俺はオペラシティアートギャラリーの素晴らしき会員制度「Arts友の会」に入会しており、同館での展示を無料で鑑賞できる。
して、せっかくタダで観られるのに行かないのは損じゃねえの……という貧乏性から……キタコレ。
そして、これが。存外よかった。
展覧会場に入ってすぐにあるウェディングドレス。高田賢三が約20年間集めたというリボンを素材に作られたらしい。
服そのものの魅力を形容するのは、知識も語彙もない俺には難しい。「華美である」程度しか出てこない。が、資生堂の黄金期をモデルとして牽引した山口小夜子のスチールとあわせて見ると、服そのものの見え方も変わってくる。なんというか、着用している人間の存在感と、服の意匠の強度とが相互に魅力を高め合っているとでもいおうか。
どれだけ芸術的な作品でも、ファッションは人が着用してなんぼ、みたいなところがある。そんな風に俺は思っている。
とはいえ、美術展というフォーマットで実際にモデルが衣服を着用しているさまを見せ続けるなんてのは無理難題だ。
そこで、せめてもの工夫としてか、オペラシティアートギャラリーは微妙に体型が異なるマネキンーーおそらくそれぞれの服にとって最適なサイズ感のマネキンなんだろうーーを用意している。こういう小さな配慮がありがたい。
大量のマネキンが一同に展示されるメインの展示室はなんとも壮観。例えが適切かどうかはさておき、マール社が発行している民族衣装本を実物で見ているような贅沢感を覚える。
ほつれも隠されず展示されていた。リアルでいいな。
展示のなかでは高田賢三のタイムラインも紹介されていた。どこで生まれ、どのように育ち、どこで、何をしていたのか……。
しかしながら、花街で待合を営んでいた両親のもとで生まれ育ったことが略歴のなかで紹介されていない。理由はわかりかねる。氏の創作とは無関係だからなのか。もしくはアンタッチャブルだかなのか。後者だとすれば、それはどうなのか、とも思う。彼の人生へ与えた影響がゼロではなかったように俺は考えている。
そうした気になるところがあったとはいえ、俺は今回の展示、そしてオペラシティアートギャラリーに基本的に好感を持っている。
東京都現代美術館で開催されたクリスチャン・ディオール展、国立新美術館で開催されたイヴ・サンローラン展……。AAA級の美術館に比べ、キャパシティも予算も劣るなか、いつもオペラシティアートギャラリーは自分達にできることを、目一杯やろうと務めているんじゃねえの。そんなところがなんともいいんじゃねえの。