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雨の化石
朝方のケヤキ通り、音も無く雨が降り出した。ワイパーの感知センサーの調子がおかしいのか、雨粒がコロコロとフロントガラスを転げ落ちて行く。
ふ…と「雨の化石」を思い出した。
そう…まだ岩手に住んでいた小学6年の夏休み、親戚がある隣県の仙台に初めて行ったときだ。
私はその親戚の家が珍しく家中を探検してまわった。
庭には倉があり、鍵はかかっていなかった。その中に忍び込むと、小さな窓から差し込む薄暗い光の中は、怖いながらもまるで夢の世界に迷い込んだようだった。棚や床には様々な物が積まれ、初めて見る一つ一つに興奮した。
そんな中、棚の隅にひっそりと置かれた埃まみれの小瓶の中に、小さな土色のまん丸い玉を発見した。蓋を開け一粒を掌に乗せると、そのまん丸い玉は綺麗に磨かれて子供心を魅惑する微かな輝きを放っていた…。
私はその小瓶を両手で大事に包み母屋に戻り、おばさんに「これは何?」と尋ねた。おばさんは「ああ、それは『雨の化石』。昔、とっても大昔、お山が爆発して、その時の灰と雨粒が愛しあって結婚して生まれたんだよ」と教えてくれた。
雨と灰が愛しあって生まれた子ども?…
その言葉は子どもの私には想像もできない、でも何かとても不思議な感覚を目覚めさせてくれた。
私はおばさんに頼んで持ち帰り、宝箱に入れ毎日のように隠れて眺めていた…。
なぜ、私はそんなに「雨の化石」に魅入られたのか…
子どもの頃はそのことを聞かれても上手く話せずいつも黙っていた…。
ただ、今の私なら『火山の爆発で降り積もった灰が偶然落ちてきた雨粒を吸い込み、丸 く丸く包み込み、絡み合い… ドロドロに溶け合い…そしてその姿がそのまま本当に偶然にも残った』ことが、何かとても官能的な刺激と感動を私の心と身体に目覚めさせたと答えられる…。
そう…私はある意味やはり性的人間なのかもしれない...。
あの「雨の化石」はいつ頃どこに消えたのだろう。
いつかまた手にすることはあるだろうか...。