マガジンのカバー画像

独白 ー冷蔵庫の中の記憶ー

18
冷蔵庫の中で放置されたままのの記憶・思い出を取り出してみた…
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

la mélancolie d'une belle journée

短くも美しく燃え ずっと病室にいたはずのわたしは どれが彼女との最後の会話だったのかを思い出せない ただ、消灯時間を迎えた頃 彼女は少し意識を戻した 「お水…」 わたしは乾いてカサカサな唇に吸い飲みのガラスの吸い口をあてた 「体を拭いて綺麗にしてほしい…」 わたしはベッド脇の小さなスタンドの薄明かりの中で病衣の前合わせ紐を解き タオルが熱くないかを頬で確かめ白い躰を愛撫するかのように拭いた 薄く微笑みながらわたしの動作を追いかける彼女の瞳を私は忘れない 彼女にはわたしの姿は

色づき芽吹くエロス…

小学4年か5年の頃の夏 ある晴れた昼下がり また川辺の湿地帯の探検に出かけた でも今度は大きな長い橋を渡った隣町側 初めての川辺は大きな木々や背丈以上の草に覆われた 未知の世界だった 川沿いの雑木と雑草の茂みに 吸い込まれるような一本の砂利道があった …どこに続いてるんだろう… …この先には何があるんだろう… わたしは怖さに少し負けながらも進んでみることにした 葦かススキなどの萱や雑木の葉っぱが風で揺れる音と匂い 青空の雲と汗ばむ陽射し 誰も通らない道を随分と歩いた 道から少

ひとしずくのスペクトルム

見上げると丸い空だけが見えた わたしは嬰児籠の中で起き上がろうと手足をばたつかせた ようやく藁の淵を掴みよろよろと這い上がる 目の前に鏡のように白っぽく輝く田んぼが広がった 母の姿を探した 広がる水面に餌を探す動物のように腰を屈めた数人の中に 母の後ろ姿があった わたしは母を求め嬰児籠から這い出そうともがいた 突然からだは中に浮き草むらに落ち 土手を転がりながら田んぼに水音をたてた 気がつくと母はわたしの両足を持ちげ 逆さ吊りの泥だらけの背中をパンパンと叩いていた 私は泥水を