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空が急に翳った…目に見えない世界が一変する 光る波が踊っていた水面は不気味に静まり松葉を揺るがせる 灰色の鳥が潅木の茂みから飛び立ち どこかで魚が跳ねる水音がした 雨が来るのだろうか… 私は野良犬のように鼻をくんくんさせた… ————————— 私の人生でどの部分が青春と言われるものの始まりなのかはわからない わかるのは青春が終わったと感じ取った一瞬だけだ それ以後の方が映画や本の中の人物に激しく魅了されるようになったとは何とも不思議なことである 子供時代のヒーローはたく
わたしは女を目で撫でるのが好きだ わたしは藤田嗣治が描く女が好きな理由がわかった なぜなら私も同じなのだ… そして藤田が面相筆にこめた想いも… 17の時… テキスタイルデザインを始め 夢中になった道具は面相筆だった 美しき花々を優しく艶やかに描くには一番適した筆だった 特にお気に入りは「土生天祥堂」のイタチ毛の面相筆だった 鋭くまとまった毛先は美しく… その穂先は… 指先の感覚をそのまま線に化するしなやかな弾力は… どこか淫美に… 目で愛で… そのざわざわと溢れる心を筆先
確か1970年の夏が終わる頃…まだ17の頃… 休日の新宿の人混みの中、新宿三愛を目指して急いだ 新宿高野の前を通り過ぎると鼓動が激しくなった 息切れではなく体中が興奮していたのだ 3丁目の交差点 今はもう姿を消した新宿三愛の階段を駆け足で上がるわたしがいる… 2階の婦人服のフロアーの奥の方が下着売り場だった フロアーには沢山の若い女性がいた わたしは立ち止まり少し急ぎ目で深呼吸し… 洋服が並んだ中を…若い女性たちの間を下着売り場に向かった 前から横から…後ろからも怪訝な視