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「一旦降りやすくて安心ルート」を作りました

 こんにちは。i18です。ナビタイムジャパンで研究開発部門の乗換探索エンジン開発を担当しています。

 電車に乗っている最中に、体調不良など様々な要因で気分が悪くなってしまうことがあります。こういったときは一刻も早く電車を降りたいものですが、快速・急行のような列車は駅と駅の間が長いため、なかなか降りるチャンスが巡ってきません。

 私自身、体調不良を抱えながらも通勤のために急行へ乗り込み、悪化する体調の中で焦燥感を抱えながら次の駅に到着するまでじっと耐えていた、そんな経験があります。みなさんはいかがでしょうか。

 今回はそんな「早く降りたいのに降りられない」という不安を減らすべく、「一旦降りやすくて安心ルート」という機能を開発しました。その紹介と開発にまつわるお話しをご紹介します。

「一旦降りやすくて安心ルート」とは

 「一旦降りやすくて安心ルート」は、ルート検索時に停車駅間の乗車時間が短いルートがあれば提案する機能で、この度『乗換NAVITIME for スゴ得』にて、新しく提供します。

 「体調面で長い時間止まらない電車は不安を感じる」「子ども連れの移動で急に途中下車したい時がある」といったユーザーを想定して、一時的に途中下車しやすいルートを優先しています。

 一時的に電車を降りやすいというのは各駅停車だけでなく、他社路線の急行などのほうが各駅停車より次の停車駅までの乗車時間が短い場合もあるため、それらも考慮しています。

作った経緯

 経路探索の技術を活かして解決できるユーザーの課題はないか調べるため、社内でどのような機能に興味があるかヒアリングを行いました。

 その中で出てきたものの一つが各駅停車優先です。ユーザーアンケートでも要望が多いため、検討を進めていました。

 各駅停車優先の要望を調査すると、

  • 空いている

  • 乗換が少ない(優等列車への乗換をしない)

  • 理由不明

 といった理由が主なものでした。

 ただ、「空いている」は混雑回避ルート、「乗換が少ない」は乗換回数優先ルートで見つけられるため、理由不明の部分に我々の気づけていない要望が隠れているのではないかと考え、アンケートを実施しました。

アンケート結果

 各駅停車優先を使いたいと思うケースについてアンケートを実施しました。結果は以下の通りです。

  • 空いている:79%

  • 乗換が少ない:11%

  • すぐに降りられる:11%

 すると今まで目にしていなかった「すぐに降りられる」といった要望があり、さらに調べてみると

  • 通勤時トイレに行きたくなるため、次にいつ降りられるか不安になる

  • 子供が小さいため、泣いてしまったときにすぐに降りられると助かる

というような理由が散見されました。「次の駅までの時間が長いことによる不安」という問題が浮かびあがってきたのです。割合としては大きな数ではありませんでしたが、一部のユーザーにとっては価値のある機能となると考えました。

 また今は「ワクチン接種後に急に体調が悪くなったらどうしよう」のような不安も考えられるため、アンケートの割合以上に活用できる場面もあるのではないかと考え、次の駅までの時間が短いルートを優先する機能を開発することになりました。

どのように作ったか

 機能の紹介と経緯を話しましたので、次は技術的なお話しを少ししようと思います。

次の駅までの時間が長いとは何か

 駅間が長いと感じる時間は、「〇〇以上時間がかかると長い」と言えるものではないと考えています。おそらく明確な境界線はなく、その人個人の中でも緩やかに変化していくものだと考えます。

 ただ、緩やかな変化にも強弱があると思います。今回は以下のような仮説を立てました。

  • 2分周辺は時間による変化が小さい。2分も3分も短いと感じる。

  • 5分周辺で長いと感じ始める。4分は長いと感じないが6分は長い

  • 8分周辺時間による変化が小さい。7分も8分も長いと感じる。

どのように経路探索しているか

 ナビタイムジャパンでは経路探索を行う際に以下の要素

総乗車時間
乗換回数
運賃・料金
乗車するときの煩雑さ(新幹線など)
などなど

を考慮しながら経路を探索しています。
 これらの要素を元にその列車を利用することがどれだけ便利かの指標(コスト)を計算して、目的地までのルートを出しています。

 総乗車時間や乗換回数などを考慮しつつ、次の駅までの乗車時間が短い列車を優先するために、経路探索時のコストとして停車駅間の乗車時間に対する精神的負荷を数値化して組み込みました。

 簡単な計算式は乗車時間×精神的負荷倍率です。基本的には時間に比例しつつ、「長い」に変化する境界線付近は倍率にも変化を持たせるようにしています。この変化にはシグモイド関数を用いました。

精神的負荷倍率のイメージ

 シグモイド関数を用いている理由ですが、次の駅までの時間が長いとは何かの項目で上げた仮設を実現するためです。

2分周辺は時間による変化が小さい。2分も3分も短いと感じる。
5分周辺で長いと感じ始める。4分は長いと感じないが6分は長い。
8分周辺時間による変化が小さい。7分も8分も長いと感じる。

 5分あたりで倍率の傾斜が一番大きくなり、離れるほど傾斜が小さくなります。傾斜が大きいほど同じ1分差でも大きな影響になります。
 つまり、5分あたりで人は長い/短いの感じ方が変化しやすいというような計算をしていることになります。

ルート例

池袋から横浜までのルート例です。
「一旦降りやすくて安心ルート」の方が1.5倍程度所要時間はかかるものの、停車駅間の平均乗車時間は半分になっています。
「早く降りたい」そんな不安な時間を半分にするルートを提案できます。

「一旦降りやすくて安心ルート」比較

終わりに

 今回は、新しく作った「一旦降りやすくて安心ルート」についてお話いたしました。「5分近くで長いと感じるようになる」という仮説を立てて研究開発しましたが、立証はできていない状態となっております。ユーザーの要望をもとに改善していきたいと考えていますので、ぜひ実際に利用してフィードバックをしていただけるとありがたいです。

 本日から『乗換NAVITIME for スゴ得』にて利用できるようになります。
ぜひこの機能を活用し、安心できる移動をお楽しみください。