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作品紹介『プラネット』
ノーチのしっぽ研究所のマスコットキャラクター、ノーチくんを描いた作品です。
今回の語り手はスロリ先生です。
『プラネット』
ここは、ノーチのしっぽ研究所。
ノーチラス諸島の西の端、しっぽの位置にあるため、「ノーチのしっぽ研究所」だ。
正式名称は「ノーチラス諸島テトリア自然生物研究所」なのだが、長いので誰も覚えていない。
ノーチのしっぽ研究所は、生物学、地球科学、物理学などあらゆる自然科学の知見から、ノーチラス諸島の恵まれた自然と、そこで暮らす生物たちの謎について明らかにすることを目的とした研究所である。
とはいうものの、研究員見習いのトロポコ君は島中からいろいろな物を拾い集めては大切にしまいこんでいるだけだし、ウォンバ君は落書きばかりで…
実際は所長の私、スロリが、ひとりで細々と研究を続けているわけなのだが。
当研究所には、マスコットキャラクターが存在する。
大自然を切り取ったようなこの箱庭で、ゆったりと漂う1匹のオウムガイ。
その名もノーチくんだ。
当研究所は、座礁した帆船を改装して作られているが、実はこの箱庭も、ノーチくんも、我々研究所のメンバーが来るずっと前から、この島にいるようなのだ。
ノーチくんが暮らすこの箱庭は、「惑星」そのものであると言える。
か弱く静かに湧き起こった僅かな水の流れが、合流して大きな流れを作っている。
岩々の隙間をかき分けて力強く流れ落ち、しぶきを上げている。
そのさまは、種の分化や生体反応系を想起させ、生命のしたたかさを象徴しているようだ。
川は大地を潤し、様々な時代の植物を育てる。
植物たちは水を蓄え、効率よく葉を広げ、光を浴びて清々しく緑を輝かせている。
そうして作られた酸素は、動物たちの命を燃やすのに役立つ。
地球表面上のあらゆる流れが、この箱庭にはすべてある。
ノーチくんの殻の内部は空洞になっており、気房とよばれるいくつかの小部屋に分かれている。
驚くべきことに、その小部屋ひとつひとつには、体サイズが縮小された生物たちが生息し、中には地球上では絶滅したと考えられている種も多く含まれているようだ。
ゆえに、ノーチくんは、生命の歴史の唯一の目撃者であり、生態系を抱える「方舟」であるのだ。
彼はここで、無数の命が生まれ、死んでいく様子を見届けてきたのだろう。
その明滅に一喜一憂することもなく、手を差し伸べることもなく、ただ、静かに見守り続けてきたのだろう。
私が彼のそばにいる時間も、彼にとっては刹那にすぎないのかもしれない。
我々が死に、この研究所がなくなったとしても、彼にとっては自然の摂理にすぎないのかもしれない。
しかしそれでも私は、私が生きている限り、彼とともに、この島の観察を続けたいと考える。
彼がずっと見守ってきたこの島を、ほんの少しの間だけでも、記録しておきたい気分なのだ。
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今回のお話はこれで終わりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この物語の語り手
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