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はるくんの、ゆめのようなたべもの
はるくんは生まれてからこの約2年半の人生で、一度しかジュースを飲んだことがない。
「甘いものはあげないようにしてるんです」とか、虫歯が、とか、健康が、とか、そういう理由ではない。単に私がめんどくさがりだからだ。はるくんが生まれる前から麦茶は毎日作り続けていたから、ちょうどいいじゃんとそれをあげているだけで。ないときはお水。幸いなことにはるくんは麦茶とお水が好きで、いつでもおいしそうにごくごくと飲んでいるから、まぁいっかと思ってた。でもそれしか飲んだことがないから当たり前といえば当たり前か。
お出かけする時もいつも麦茶はバッグに入っているし、外で飲み物を買うってこともない。うちは大人もジュースは飲まないから、わざわざはるくんのために買わないことには、ジュースがない環境なのだ。
はるくんはおせんべが好きだ。そしてパンが好き。だからおやつはたいていこのどちらかで。そうなると、「甘いもの」というのは結果、ほとんど食べることがない。果物くらいかな。
そんなはるくんが初めて「甘いもの」を食べたのは、2歳のお誕生日のことだった。子育て広場で出会った先輩ママ達の話の中で「生クリームデビューは2歳の誕生日だった」という話を聞いたのだ。どうも2歳のお誕生日ケーキでデビュー、というのがよくあるパターンらしい。
はるくんは牛乳飲まないからどうかなぁ(←アレルギーではなく、単に好きじゃないみたいで飲まない)と思いつつも、ケーキを前にハッピーバースデーというのをそろそろやってみてもいいかもしれないな、といちごのケーキを用意した、ら。
初めていちごのケーキを口にしたときのはるくんの表情を忘れられない。こんなマンガみたいな、ドラマみたいなリアクションがあるのだろうかって感じ。ひとくち目をお口に入れたその瞬間、動きが止まって、目がぱっちりと開いて「なに、このおいしいものは!」というおかおをしていたの。
それからはるくんはいちごのケーキに夢中。スーパーでいちごを見かければ「いちごけーき、たべたね、たべたいなぁ」とうっとり。いちごケーキはろうそくでハッピーバースデーとセットなので、毎朝お仏壇のろうそくを灯すと「じじ、おたんじょーびおめでとー!」と拍手したり。誰かの「たんじょうび」と聞くと「いちごけーき!」とはしゃぎだし…もうとにかく「おたんじょうび」と「いちごけーき」が好きな子になってしまった。
すきなたべものは?と聞くと、たいてい「ぶろっこり」と言うけれど、愛しているたべものはきっといちごケーキだろう。
甘いものをほとんど食べたことのなかったはるくんにとって、「いちごけーき」はきっと「ゆめのようなたべもの」なのだろうな。
おいしくて、うれしくて、その言葉を聞いただけで心がふわっと浮き上がるような。とくべつな、とくべつなもの。
「ゆめのような」って時々聞くけれど、きっと「ゆめのような」ってこんな感じなのだろうな。はるくんの「ひとくちめのいちごケーキ」を思い出す度に、思うこと。そんなものがあるって、しあわせだね。
来週末はおばあちゃんのお誕生日。久々のいちごケーキ。一番うれしくて喜ぶのはきっとはるくん。そのおかおが見られるおばあちゃん、そしてはるくんの周りにいる大人たちのほうがうれしいかもしれないけれど。