人は善悪では語れない
とある就業間近のオフィスで今上司が部下を罵倒していた。
「何これ?お前一日かけてこんだけしか出来なかったの?他の子はとっくにノルマ達成してるんだよ。なのにいつもいつもお前だけさ。どういうことよこれ?お前需要と供給って言葉知ってる?お前みたいな粗大ゴミをうちは買わされる筋合いはねえんだよ!さっさとやめちまえ!それか自分で自分を処分しろよ!今すぐこの場で!」
「申し訳ありませんでした!」
中途入社で上司よりも年上の部下は俯いて体を震わせながら謝った。彼にあったのは恐れか絶望か。あるいはその両方か。
「とにかく今日は残業してソイツを死んでも片付けろよ!まぁ死んだって労災なんて出さねえけどなっ!」
部下ははい!と声をあげて上司に答えた。その顔はそう青ざめて今にも倒れそうであった。
「とりあえず進捗は俺のスマホに報告すればいいから絶対にばっくれんじゃねえぞ!したらお前すぐクビにしてやるからな!」
部下は再びはいと返事をした。そして早速仕事に取り掛かった。
上司は帰宅の電車でスマホをぽちぽちいじりながら心の中で部下の愚痴を言っていた。全くあんなに仕事のできないやつをどうして雇ったんだよ。しかも俺なんかに押し付けやがって。いい年してなんもできねえんだから。あんな奴さっさと死ねばいいんだよ。
彼はこう愚痴りながらスマホでTwitterを見ていたが、その時 Tweetに今日やる人気ドラマ『青春の轍』の宣伝を見た瞬間、部下のことなどどうでもよくなり青春の轍を検索しまくった。そうだ。あのバカのせいですっかり忘れてたけど今日はクライマックスなんだよなぁ。あずきちゃんどうなるんだろ?彼女会社じゃ酷い目に遭ってばかりだし、滅多なことしなければいいけど。でも彼女には友達がいるし絶対乗り越えるはずだよ。
その二時間後上司はテレビの前で泣いていた。ドラマの中で大好きなあずきちゃんが憎っくき上司にこう詰められていたからだ。
「何これ?お前一日かけてこんだけしか出来なかったの?他の子はとっくにノルマ達成してるんだよ。なのにいつもいつもお前だけさ。どういうことよこれ?お前需要と供給って言葉知ってる?お前みたいな粗大ゴミをうちは買わされる筋合いはねえんだよ!さっさとやめちまえ!それか自分で自分を処分しろよ!今すぐこの場で!」
「申し訳ありませんでした!」
あずきちゃんは俯いて体を震わせながら謝った。彼女にあったのは恐れか絶望か。あるいはその両方か。
「とにかく今日は残業してソイツを死んでも片付けろよ!まぁ死んだって労災なんて出さねえけどなっ!」
あずきちゃんははい!と声をあげて上司に答えた。その顔はそう青ざめて今にも倒れそうであった。
上司はこのとんでもないセリフに怒りに駆られて思わずリモコンをぶん投げた。人に対してこんな事言うのあり得ねえだろ?こんな物言いされたら誰だって傷つくし下手したら死んじゃうよ。
あずきちゃんは上司に命じられた通り誰もいないオフィスのデスクで仕事をしていた。彼女はPCの前で自分はやっぱりダメ人間だと考えた。仕事もダメ、恋愛もダメ、自分は上司の言う通り生きる粗大ゴミ。もう死んだ方がマシ。あずきちゃんはPCのメモを開いて『自分は生まれてからずっと粗大ゴミでした。生まれて申し訳ありません』と残してそのままオフィスの窓を開けて乗った。「さよなら……」と彼女は暗いオフィスに向かってつぶやいた。そして彼女は窓から街灯に照らされたアスファルトを覗いた。
上司は号泣しながらドラマのあずきちゃんに向かって呼びかけた。
「あずきちゃんやめろぉ!そんなバカ上司のために死ぬんじゃない!」