クリエイターフェス用短編:路線変更
音楽好きに非常に人気の高いギターポップバンドボーダーシャツは今活動十年目にして重大な岐路に立たされていた。彼らは非常にクオリティーの高い楽曲を作っていたが、さすがに十年も経つとマンネリ化しだんだん飽きられてきたのだ。メンバーのバンドの作詞を手掛けるボーカル沢木真由美と作曲担当のギターの善方保のソングライティングコンビと、ベースの臼井彬男は先ほどからミーティングルームでバンドの将来について激しく議論していた。
「大体、いつまでも三人アピールの曲作ってるのがおかしいんだよ!おかしいだろ俺たちもうじき三十になるのにいつまでも『トリプルスター』だの、『いつまでも三人で』だの、『終わらない三人の友情』だの、『私たち三人のゆく道』だのこっぱずかしいボーイミーツガールみたいなことやってんのは!みんな俺たちをおっさんが無理して十代のふりして恥ずかしいわって言ってるじゃねえか!いい加減年並みのことやろうぜ!」
ボーカルの沢木と善方はベースの臼井のこの身の程知らずの発言に怒った。てめえごときが何言ってんだ?もともとボーダーシャツは自分たち二人のバンド。こいつは事務所からデュオだと君たちだけじゃ花がないから一人ちょっとイケメンの奴追加して三人組にしようぜって説得されたから入れてやったんだぞ。なのに突然仕切りだしやがって!善方は臼井に向かって言い放った。
「あっそ、俺たちのやってることそんなに恥ずかしいの。じゃあさっさとバンドやめろよ。もともとお前なんか入れるつもりなかったんだからさ」
「なんだとこの野郎ちょっとさわやかなイケメンの俺がいなかったらこのバンドは今も続いてねえわ!お前ら自分の顔鏡で見てみろよこのブサイクコンビが!」
「なんだって!俺はともかく真由美をディスるなんて許さんぞ!お望み通り首にしてやんよ!明日社長に言ってやっかんな!真由美こいつはクビだ!」
だが真由美は意外にも首を横によってクビを通告した善方を激しく非難した。
「やめなさいよ保!私がブサイクってこと以外臼井君の言ってる事全部正しいじゃない!ホントのこと言われたからってどうしてクビになんかするの?保だってこの間臼井君とおんなじこと言ってたじゃない。俺たちいつまでこんな事やってるんだろうって。なんか世間の笑い物になってる気がするよって。そう私たちはもう路線変更すべき時が来たのよ。私だってもう子供じゃないのよ。いつまでもこんなバカな事やってらんないわ!実は私最初っからギターポップって嫌いだったの。音大時代にあなたに誘われて子供みたいな事やってんじゅねえよってバカにしてだけど、それでもあなたの説得に負けてここまでついてきた。けどもう限界!もうこれ以上さわやかな女の子を演じるのはムリ!これからはもう自分の思ったままに歌いたいの。今から私がこのバンドを仕切るわ!バンド名も音楽スタイルも変えてまた一から出直しよ!」
それから数日してSNSでボーダーシャツからバンド改名のお知らせと改名後初の新曲のPVのアナウンスが流れた。ボーダーシャツのファンはそれを見て衝撃を受けた。ボーダーシャツはガーターベルトと改名となり、バンドのビジュアルも激しく変わった。ボーカルの沢木真由美はそれまでからは考えられないほど派手な衣装に改名したガーターベルトのイメージ通りスカートの下の露出した脚にガーターベルトをはめて真ん中に立っていた。その後ろには長髪でフライングVを抱えた善方保と臼井杉雄がいた。新曲のPVもそれまでのボーイ・ミーツ・ガールのギターポップから一転し、善方の弾くピロピロしたギターに乗せてタトゥーまでした沢木が激しくシャウトしているものであった。
熱情に狂う淫らな夜
さぁ、その熱いギターで私をトロめかせてみろよ
今夜激しく踊り狂う野獣二人
汗を蒸発させて踊り狂うトゥーナァ〜イト!
このPVを観たボーダーシャツのファンは一斉にこう叫んだ。
「お前ら路線変更しすぎやろ!」