退職届
拝啓
ゴールデンウィーク中のところ失礼します。突然ですが、私須玖八女類は五月をもちまして退職することになりました。本当に一言の相談もなく勝手なことをしでかしているのは重々承知の上ですが、これは私が一年以上前から考えていたことなのです。決して会社がブラック企業だとか、上長や先輩や同僚にいぢめられていたとかそんな事はなく、ただあくまで私自身が自分と会社の事を深く考えて出した結論なのです。私は会社に入ってしばらく経ってから、自分のスキルが会社の求めるそれよりも大きく下回っている事を思い知りました。私は会社の負担にならないようになんとかみなさんに追いつこうとして精一杯努力しましたが、自分の能力ではどんなに頑張ってもスキルはまったく上がらず、差はますます開いていくばかりでした。
せめて皆さまに退職の意思を伝えたいのは山々ですが、今の私にはその資格などないのです。激務に忙殺されている皆さまの所にこんな能無しが土足ではいって能天気に別れの挨拶など述べられるでしょうか。だから私はこのメールで皆さまに別れを告げます。皆さま、こんな能無しの私めをかわいがり、サポートしていただき感謝申し上げます。私は会社で過ごした経験を糧として新天地で一から頑張ります。皆さまにもご多幸あらんことをお祈り申し上げます。
敬具
須玖はこう書き終えると半ばヤケクソな気分で強くスマホの液晶画面を押した。これでさようならあとは書面でおんなじものを送ってやればいい。今頃バカ課長はびっくりしているはず。あんな気弱そうな奴が退職するなんて思わなかっただろう。もしかしたら退職しないでって泣きついてくるかもしれない。だけど俺は後頭部が地面につくほどふんぞり返って全力で拒否っやる。バーカバーカ二度とてめえらの汚え顔なんて見るか。と須玖が毒付いていたら課長からメールの返信が来た。須玖はそれみた事かと半笑いでメールを開いたが、そこにはこう書かれていた。
『メールありがとう。あの申し訳ないけど仕事のメールは業務用のスマホに送ってくんない?というわけで明日からまたよろしく』
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