妊娠…復活 前編 その2
自分が不治の病だと宣告されたあの日から、毎日起きると必ず自分の胸を見ています。胸が真っ赤になったら私の人生は終わり。元Fカップ、現Dカップのまだ美乳の谷間に赤い華を咲かせて死んでしまうのです。せめてベイビーだけはこの世に残してあの世に旅立っていきたい。あの世でダーリンに会えるかしら。天国から二人で未来のオリンピック選手、そして総理大臣になる予定のベイビーを見守って行けたら……。
そんなことを考えながら毎日自分の胸の状態を確認していると、この間から胸の谷間にかすかな赤らみが出るようになりました。私は最初は虫にでも刺されたものだと思い軟膏を塗っていたのですが、赤みはまったく収まらず、ますますその色を輝かせていくばかりでした。私はとうとう来るべきときが来たのだと実感したのです。今まで頭の片隅にのけておいた死というものがとうとうこうして目の前に現れてきた。もう私には時間がないことを知らせに来たのです。
私はそれを受け入れる覚悟はできています。いや、できてなんかいません!だけどもうそれは避けられないことでしょ!綺麗事なんかじゃなく死ぬのは怖い!モデル顔でセクシーボディーでツルンツルンのお肌の私がまるごとこの世から消えてしまうんですもの!だけど私のお腹の中にはベイビーがいる。だから死ぬのが怖いだなんていってられないのです!
そうお腹にはベイビーがいる。毎日お腹の中で暴れて今にも子宮から飛び出してきそうです。もう病と私の戦いは最終局面に入ってきているのでしょう。私は病に勝って見せます。出産した毛だらけで全身真っ黒なベイビーを抱きしめ笑ってみせます!人種差別にも病にも私と毛だらけで全身真っ黒なダーリンの愛は壊せない!私は光り輝く毛だらけで全身真っ黒な未来のオリンピック選手、総理大臣、この人種差別と戦争が絶えない世界を救う毛だらけで全身真っ黒なイエス・キリストを生んだ聖母マリアとして死んでいくのでしょう。
そのためには一刻も早くベイビーを産まなければ!私は目を開き体を起こして、今まで避けていた卵膜剥離、いわゆるグリグリ内診をしてもらおうと、ベルで産婆さんを呼んだのです。
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