二人で年越しうどんを食べたいから……
もうすぐ今年も終わりだね。今年も無事に君と一緒に入られて良かったよ。次郎は照れながらそんな事を言った。花子は恥ずかしがり屋の夫が無理をしてこう言ってくれるのが嬉しかった。これは夫婦の儀式のようなもので結婚してから年の終わりにこう言い合うことを誓ったのだった。花子も同じように痔次郎に感謝の気持ちを言う。こうして二人で感謝の気持ちを言い合ったら次は二人でうどん作りだ。二人はいつも家事はできる限り共同で行うが、仕事の忙しい次郎は時々夜遅くに帰ってくる。そんな時花子は次郎のために夜食を作ってくれるのだが、次郎はそんな花子に向かって申し訳ないといつも謝っていた。花子は別にいいのよ。疲れているあなたにこれ以上働かせられないわ。と笑って答えた。次郎は今度君が遅くに帰って来たら僕が君のために料理を作ると言い、花子はじゃあその時を楽しみにしてるわ。とこれまた笑って答えたが、いまだその日は来ていない。
だが今日は年末の休みだ。しばらく仕事のことは忘れて二人だけの休日を楽しもう。次郎と花子は今日のためにうどんと天かすと生姜とそしてキッコーマンの醤油を買ってきた。さあ今日は僕らの年越しうどんを作らなきゃ。次郎は材料が揃うと花子に向かって言った。
「今日は僕が君のためにうどんを作りたいんだ。いいかい?」
花子は次郎を止めようとしたが、その時次郎が仕事帰りの花子に夜食を作らせてしまったことを申し訳なく思っていた事を思い出した。次郎は生き生きとしてうどんを作る準備をしていた。花子はそんな次郎が愛しく思え彼の好きなようにさせることにした。
やがて次郎が出来上がったうどんを持ってきた。今回もいつもの天かす生姜醤油入りのかけうどんだ。うどんの麺は讃岐直産、汁も讃岐直産、醤油はキッコーマンだ。こうして見てみると見てくれは悪いがその見てくれの悪ささえ味わい深い。花子はこの天かす生姜醤油入のかけうどんを見て次郎と初めてこのうどんを食べた時の事を思い出した。
今もうどんを見て思うのはその時とほぼ同じ感情だ。その時次郎は恋人でなくただの友達であったが、たまたま二人でうどん屋に行った時に次郎がいきなり天かすと生姜と醤油をぶっかけたのだ。それを見て花子はなんてマナーを知らない食べ方なのとたまらず次郎を放って店を出ようとしたが、しかし次郎がこの天かす生姜醤油うどんを食べているではないか。花子は顔をほころばせてうどんを食べる次郎を見て自分もそのうどんを食べたくなってきた。
今彼女は次郎と一緒にその天かす生姜醤油うどんを食べている。あと何分かで今年も終わるだろう。来年も次郎と一緒にいられますように。花子は心のなかで祈った。
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