もう煙草は吸わない
もう煙草は吸わない。私はこれが最後の一本だと思って火をつけた。私が煙草に本格的に手を染めたのはあの人と付き合ってからだ。それまでの私は煙草なんていつでもやめられるお遊びだと思っていた。私は退屈しのぎに煙草を吸いそして飽きて捨ててしまうような毎日を送っていた。それってまるで男関係みたいだねって人は言うかもしれない。まぁ実際その通りだ。私は煙草と同じように退屈しのぎに男を求め、そして飽きたら橋の上から放り投げて捨てた。だけどあの人が現れてから全てが変わってしまった。
あれは今日のような寒い夜だった。私が気まぐれに煙草を吸っていた時その人が不敵な笑みを浮かべながらいきなり話しかけてきた。
「君、煙草はあんまり吸ってないの?」
私は彼の表情と言葉から自分がバカにされていると感じてなんだか頭にきたのでこう言ってやった。
「人がどういう煙草の吸い方しようが勝手でしょ!あなたさっさとどっか行きなさいよ!」
だけど彼は立ち去ろうとせず、それどころか私に近づいてきた。そして熱を感じそうなほど顔を寄せて言った。
「君は煙草の吸い方を知らなすぎるよ。そんなチロチロ吸い口を舐めてるような吸い方じゃ煙草は旨味は味わえないよ。もっと奥まで入れて包むように吸わなくちゃ」
あまりにも危険な誘惑だった。私はこんなふうに口説かれたことは一度もなかった。彼に本物の煙草の吸い方を学びたい。そして彼に本物の男を教えてもらいたい。私は彼に対して今までに感じたことのない欲情を感じてその夜は彼のなすがままになった。彼は私に煙草の吸い方を教えてくれ、そして本物のセックスを身をもって教えてくれた。そのヤニ臭い舌を体を舐められるたびに私の体は脈打ち下からいけないものが溢れ出した。まだまだと彼はそのヤニがベトついた指を私の中に挿れてきた。「君を僕のヤニで真っ黒に染めてやる」彼はそう私の耳元で囁いた。彼のヤニ臭い指は私の体の奥深くまで入り込み、彼のヤニが私の全てを侵食してしまった。
それから私と彼は煙草とセックスに溺れた。私は彼に教わったように煙草を吸うように彼のものを包むように吸い込み、私のヤニを彼のアソコに唾液と一緒に塗っていった。私の愛撫でイキかけた彼はお返しにと私の下をそのヤニ臭い舌で情熱的に舐め回した。そして二人は激しく合体し、濡れてヤニと体液が滲み出した互いのものを激しくぶつけ合った。
しかしどんなものにも終わりはある。太陽がいづれ冷えるように激しい恋も冷めてくる。最初に別れを切り出したのは彼だった。
「君は煙草の吸い方を覚えたんだから僕なんてもう必要ないさ」
汚い男!自分が振られたくないからって、先に女を振るなんて!だけどこうして離れるとやっぱり彼の事を思い出してしまう。こうして目を閉じると私に煙草の吸い方を教えてくれたあの人との、ヤニと体液に塗れた熱い情事を思い出してしまう。だけどもう忘れなくては。
もう煙草は吸わない。私は煙草を口に咥えたまま喫煙所から出て街を歩き出す。この一本で煙草とは永遠にさよならだ。私は煙草とあの人に別れを告げるために口から煙草をとって道に捨てた。
「おい!あなた何やってるんですか?公道で煙草吸うのダメだってわかってる?今すぐ煙草拾いなさい!」
「なんなのよあなた!人がせっかくいい気持ちになっているのにどうして邪魔するわけ?いい加減にしてよ!」
「あの……僕お巡りさんなんだけど。区の条例では公道で煙草吸うと一万円の罰金なんで今すぐ払ってくださいね」
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