昨日いらっしゃってください
人間は変わるもの。そして忘れやすいもの。だから人は変わってゆくし、過去のことなんてすぐに忘れちまうんだ。それは残酷だけど真実さ。昨日の僕を覚えているやつなんてもういないし、僕の言ったことなんて覚えている奴はいないさ。僕自身だって覚えていないんだから。あなたが昨日僕という人間を見て、その僕の言った言葉を覚えていたとしてもそれは昨日の僕の話で今の僕のことじゃないんだ。だから昨日の僕について尋ねるなら、今ここにいる僕じゃなくて昨日の僕に尋ねてくれ。そしたら昨日の僕があなたに答えてくれるさ。
「何わけのわからんこと言ってるんだね!昨日渡した会社の資料はどこにやったんだ!君はちゃんと僕が厳重に管理しますって言っただろうが!どこにあるんだ!さっさと言いたまえ!」
「だからさっきから言ってるでしょ!それは昨日の僕に尋ねてくれって!昔の偉い詩人も昨日いらっしゃってくださいって言ってるじゃないですか!何度も言うけど会社の資料の事は昨日の僕しか知らないの!今の僕に言われたってなんだかわかりませんよ!」
「じゃあその昨日の僕とやらにはどうやって会うんだ!そのビー玉みたいな音がなりそうな空っぽの脳みそをこじ開ければいいのか!」
「ぎゃあああ人殺しー!現在の僕を殺したら昨日の僕すら消滅すると知ってて言ってるのか!」
「ちくしょう!本気で貴様の脳みそこじ開けて昨日僕とやらを無理やり引っ張り出してやるわ!」
「やめろ!そんな事をしたところで、昨日の僕は出てきはしないさ。なぜなら時間の流れは人を変えてしまうからだ。こうして話している間にも僕は変わってしまっているんだ。さっきあなたが聞きたかった事は今の僕には答えられない。それはもう数分前の僕しか知らないんだ。だから今言った事は数分前の僕に聞いてくれ。彼ならハッキリ答えてくれるさ」
「じゃあその数分前のお前にどうやってあったらいいんだ?」
「タイムマシーンでも使えばいいんじゃないかな?」
「へぇ……タイムマシーンね。そうだ。いい事を思いついた。今、昨日から今現在のお前に丸ごと出会える方法思いついたからちょっと近くの交番まで警察署まで行かないか?」
「警察署か。そこでどうやって昨日から現在の僕に会うんですか?警察署にタイムマシーンなんてないじゃないですか?」
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