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妊娠…命の日記 第十五日目
私は部屋が轟くぐらい絶叫して、夜のベランダから足をあげて飛び下りようとしました。だけどお腹が引っ掛かって飛び下りれないのです。ああ!邪魔なお腹!憎らしいあの冷たい動物の子が入っている!フフッ!私は意地の悪い笑いを浮かべました。そうよ!この子ごと飛び下りてしまえば、彼は自分のせいで子供を死に追いやってしまった事を天国で永遠に苦しむに違いない!動物でも自分の子供は可愛いはずよ!私は足を限界まで高く上げました。
これでこの世ともさようなら!遺書なんて書かないわ!動物を本気で愛した女なんて恥さらしよ!パパ!ママ!バカな娘でごめんなさい!しかし手すりを跨ごうとした瞬間、突然私は金縛りにあったように動けなくなりました。誰よ!背中を引っ張るのは誰よ!もう死ぬんだから止めないで!ああ!動かない!見えない力で段々床へと押しつけられる!ああ!息が苦しい!ふと、私は嗅ぎ慣れた懐かしい……いや限り無く愛しい激臭を思いっ切り吸い込みました。まさか!私は怖々と真っ暗闇のベランダを振り返りました。
……何で……何であなたがいるのよ!毛だらけで全身真っ黒だからあなたの姿なんて見えないけど、そのどこまでもつぶらな瞳があなたの存在を私に教えてくれる!嘘よ!大体アンタは人間じゃないじゃない!私なんかより毛だらけで全身真っ黒な可愛い動物の雌が好きなんでしょう!放っといて!私の事なんか放って置いてよ!だけどそう言いながら、私は涙を顔をグシャグシャにしながらダーリンを抱き締めました。ああ!やっぱりダーリンが好き!こんなつぶらな瞳を持ったダーリンが動物ですって!バカ!バカ!私のバカ!ごめんなさい!二度と逢えない寂しさのあまりあなたを憎んだりして!挙句の果てに動物扱いまでして!独り善がりの寂しさに飛び下りて、二人の愛の結晶まで殺そうとしたりして!ああ!私はバカよ!自分の事を棚にあげてあなたが浮気してるなんて勝手に思い込んだりして!
だけどダーリンははそんな大馬鹿な私を黙って抱き締めてくれました。自分の子供を殺そうとした私をです。ダーリンははフゥ~と舌を突出して、私の涙ですっかり濡れた顔を舐めてくれます。ありがとう!やっぱりあなたが好き!これからはもう疑ったりしない!だからもう私から離れないで!私は思わずダーリンを窒息死しそうな程抱き締めました。
目覚めると、私はベッドに寝ていました。そばにいたヘルパーさんに毛だらけで全身真っ黒な人は見なかったと尋ねると、ヘルパーさんは、そんな人は見掛けなかったわと答えました。 夢だったの?そうだとしたらダーリンはは私のことが心配で夢の中に出て来てくれたのよ!初めてダーリンが夢に出てきてくれた!しかもあんな生々しい夢で、私はダーリンがいなくなって以来初めて強烈にダーリンを感じたの。もしかしたらと私は母の言葉を思い出しました。そして祭壇の前でお祈りを始めました。毎日祈れば奇跡は起きる。そう信じて。