サリエリ先生
モーツァルトが死ななかった世界線で、今若きベートーヴェンは究極の選択を迫られていた。
「ベートーヴェンよ、弟子のお前だったら俺とこの軽薄親父のモーツァルトのどっちが上かわかるよな。だからコイツの前でハッキリ言ってくれ。サリエリ先生の方が百倍は偉大です。モーツァルトよ、あなたはハッキリ言ってカスですと」
「ベートーヴェン君、君は素直に芸術家としての良心に従うべきだよ。君は常々僕にこう言っていたじゃないか。『モーツァルト先生ぱねえっす。サリエリなんて教科書みたいな曲しか書けないゴミカスですよ。俺モーツァルト先生に一生ついていきます』って。あの言葉はお世辞じゃなくて君の真心の言葉だろ?さぁ、ここでハッキリそう言ってくれよ。この粗大ゴミ以下のサリエリはクズだって」
「ベートーヴェン貴様はそんな事を言っていたのか!貴様は私の前でコイツの事を確かにいい曲沢山書いているけど頭空っぽのバカだから軽い曲しかかけないとか言ってたじゃないか。貴様はもしかして私たちを両天秤にかけているのか?将来私とコイツの地位が上がったり下がったりしたらお前は上がった方に乗るつもりじゃないだろうな。こいつが上がったら『私は実はモーツァルト先生をずっと敬慕していました。本当だったらあの方の弟子になるつもりだったのです。しかしサリエリの奴が才能ある私を無理矢理弟子にしてしまったのです』とか言うのか。おい、ベートーヴェンハッキリ言え!」
「サリエリ、若い彼をいぢめるなよ。ベートーヴェン君は阿りなんかする人間じゃないよ。君は将来じゃなくて今ここで本当の気持ちをハッキリ言えばいいんだよ。サリエリなんかゴミカスだって。あの時のようにハッキリと断言すべきなんだよ」
ベートーヴェンはあまりのプレッシャーに耐えきれずとうとう二人から逃げ出した。そして二人と縁をきり苦悩の天才ベートーヴェンとして孤高の芸術を築き上げたのだった。
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